上 下
41 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編

第39話 秘策

しおりを挟む


我が家がある町に帰ってきた。
玄関で、待ちわびた子供たちがぶつかってくると、家族のもとに帰ったという実感が湧く。

ルルには花のブローチ、ナルとメルにはお菓子とリボンをお土産にした。

リボンはダートンの草木染めで、かの地の特産品でもある。
子供達はさっそくルルに頼んで、髪を結んでもらっていた。
三人とも実に楽しそうである。

自分の部屋に入り、加藤たちと念話で話す。
もちろん、議題は停戦に向けて、初手をどう打つかである。

「何はともあれ、マスケドニアの国王が停戦に本気だということが分かってよかったわね」

さすが畑山女史である。 まず、分析から入る。

「まあ、それが分かってりゃ、これからすべきことに、思い切って取り組めるかもな」

加藤が続ける。

「とにかく、向こうとの連絡は絶やさないようにしないと」

「加藤。 あんた、あの女の子のこと考えたでしょ」

ぎくっ

「おい。 今、ぎくって音が聞こえなかったか」

「まあ、念話だからねえ」

そんなことも、あるでしょ。

いつもは聞き役の舞子が、珍しく発言する。

「史郎君は、次にどうすればいいと思う?」

「そうだなあ。 アリスト王の周辺、騎士のほとんどが王の言いなりのようだから、まず自分達だけで、何ができるか考えてみよう」

「そうなりゃ、出来ることは、かなり限られてくるな」

「お、どうしたの加藤。 
何か気が付いたなら、言ってみなさい」

畑山女史は常にクールである。

「国民と一緒に、一斉蜂起するとか」

「そんなことだと思ったわ。 
まあ、あんたに期待してないけどね」

「船を奪って海外に逃げるとか」

「この国に海なんかないわよ」

「いっそ、マスケドニアに逃げてしまうとか」

「あんたねえ、現実味のない話ばかりしないの!」

「いや、そうでもないかもしれないぞ」

「だろ! ボーなら分かってくれると信じてた。 
百姓一揆だよな」

まあ、一斉蜂起の光景が、頭に浮かんでるんだろうねえ、加藤は。
しかし、百姓一揆はないだろ、百姓一揆は。

「俺が言ってるのは一斉蜂起ではなくて、マスケドニアに逃げる策」

「逃げてどうするの?」

「誰がマスケドニアに行くか。 
そして、その後、どういう行動を取るか。
その辺を煮詰めれば、一つの案かもしれない」

「じゃ、まずは各自で、誰が行くか、行って何するか考えてみましょう。
次の念話会議は、夕食の後。 いいかな?」

さすが畑山学級委員長。 
仕切りの切れ味が違う。

「ボー。 連絡役から連絡があれば、俺にも回してくれよ」

「ああ。 チャンスがあればな」

何が言いたいのかは分かるが、さすがにこの状況でそれは無い。

-------------------------------------------------------------

念話が切れると、キツネたちにもお土産を渡してやる。

男性には食べ物系、女性にはハンカチやスカーフが人気のようだ。
素朴な風合いの草木染は、ここでも好評だった。

苦労したのは、食べ物系のお土産の方なんだけどね。


ふと思いついて、「点ちゃん収納」を使うためのノートを作ってみた。

この世界のノートは、分厚い紙を数枚、糸で閉じただけのものだが、筆記具は、魔道具になっていて、地球のものに劣らぬほどの書き味である。
つい先日発売された最新式だそうだ。

ページに、次のように書く。

□ 温泉水饅頭 
 
□ 草木染ハンカチ

□ ホワイトエイプの人形

  
そして、それぞれを収納した点ちゃんを、□の上に貼り付けておく。

しかし、これ、ノリも付けないで、なんでくっつくのかな。

使いたいものは、□から点ちゃんを取り外して、拡張すれば出てくる。

我ながらいいアイデアだとニヤニヤしていたら、点ちゃんの声が聞こえた。

『ご主人様ー』

お、点ちゃん。 何だい?

『要するに、点に名前を付けたらいいわけですよね』

そうだけど・・って、まさか!?

『できますよー』

また出た、できますよー。 
嫌んなっちゃうな。

『ご主人様、怒ってる?』

怒ってない、怒ってない。 
あれ? 前にもこのやり取りしなかったか?

『点を分けるときに、名前をイメージすればいいんですよ』

じゃ、やってみるか。

ホワイトエイプ人形

で、その点を箱にして人形を入れて、また点に戻す。

点をチェックと。

お! 出てる。 
点の上に「ホワイトエイプ人形」って表示されてる。
これは、便利だな。

「点ちゃん、この文字は誰にでも見えるの?」

『ご主人様にしか見えませんよー』

よし、これも有効活用を考えてみよう。

しかし、この人形、恐ろしいほどゴリさんに似ている。


彼をモデルにしたんじゃないよな。

--------------------------------------------------------------------

夕食後、また史郎達四人は、念話でミーティングした。


『じゃ、まず加藤から発表して』

仕切りは、当然のように畑山女史だ。

『いいぞ。 俺が一人でマスケドニアに行く。
 畑山さんと、舞子ちゃんは残ってくれ』

『で、その理由は?』

『えーっと、体力ある俺が機動力は高いだろ。 だからだ』

『あ、そう。 それがホントの理由ならいいんだけどね』

『べ、別の理由なんかないぞ』

『まあ、見え見えだけどね』

どうも、加藤は信用されてない。

『次は、舞子。 お願(ねが)いね』

『うん。 私は、三人全員で行けばいいかなって』

『まあ、それだと確かに心細くはないわね』

『しかし、それだと、危機感を煽られたこの国が、一気にあちらに攻め込む可能性があるぞ』

『そ、それもそうかな。 そうなったらだめだよね』

『じゃ、次は私ね。 私は、加藤と私で行くのはどうかなと考えてるの』

『理由は?』

『そうね。 二人とも戦闘力が高いから、ある程度の対処ができること。
怪我をしたくらいなら、私の治癒魔術もあるしね。
それに、舞子はこの町から離れたくないでしょ?』

『えっ・・。 それは、そうだけど』

『最後に、ボー、あんたの意見はどう? 
あんたは、マスケドニア国王にも直接会ってるんだから、一番確かな意見が言えるでしょ』

『う~ん、そうだな。 
まず、加藤はマスケドニア、畑山さんはアリストという配置がいいだろうね』

『それは、なぜ?』

『一人一人の戦闘力が高いのはもちろんだが、それだからこそ分かれたほうがいい』

『戦力の偏りを減らすわけね。
で、加藤が向こうに行くべき理由は?』

『アリスト国王が開戦を決めたのは、加藤の存在が大きいんだ。
加藤がいなくなるだけで、戦争を始めるための支えが大きく減る。
俺達が思ってる以上に、勇者という存在は大きいようなんだ』

『なるほどね。 それで、舞子は?』

『う~ん、それが難しい。 
加藤に対する治癒のことを考えたらマスケドニア行きなんだけど・・
なんとなく、この国にいた方がいい気がする』

『でも、舞子を狙っている勢力がいるんでしょ』

『だからこそだ。 奴ら、舞子がいなくなれば、暴走しかねないぞ』

『なるほどね。 加藤と舞子はどう思う?』

『俺は、ボーの意見を支持するぜ』

『私は・・私も、史郎君に賛成する』

『おいおい。 自分の命がかかってるんだ。 
軽々しく決めないでくれよ。
少なくとも三日間は、よく考えてくれ』

『そうね。 時間も無いからそれがぎりぎりでしょうね』

『じゃ、三日後にまた話せるようにしておいてくれ』

『いいわ』 『おう』

舞子の返事はないが、点ちゃんに向かって頷いているのだろう。

三日が過ぎたら、俺はこちらの意見を持って、マスケドニアと接触する仕事がある。

いつの間にか、くつろぐどころじゃなくなってる。

仕事の合間を見つけて、絶対、どこかでゴロゴロのほほ~んとしてやろう。



相変わらず、くつろぐことには妙に情熱を燃やす史郎だった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...