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第一章 冒険者世界アリスト編
第39話 秘策
しおりを挟む我が家がある町に帰ってきた。
玄関で、待ちわびた子供たちがぶつかってくると、家族のもとに帰ったという実感が湧く。
ルルには花のブローチ、ナルとメルにはお菓子とリボンをお土産にした。
リボンはダートンの草木染めで、かの地の特産品でもある。
子供達はさっそくルルに頼んで、髪を結んでもらっていた。
三人とも実に楽しそうである。
自分の部屋に入り、加藤たちと念話で話す。
もちろん、議題は停戦に向けて、初手をどう打つかである。
「何はともあれ、マスケドニアの国王が停戦に本気だということが分かってよかったわね」
さすが畑山女史である。 まず、分析から入る。
「まあ、それが分かってりゃ、これからすべきことに、思い切って取り組めるかもな」
加藤が続ける。
「とにかく、向こうとの連絡は絶やさないようにしないと」
「加藤。 あんた、あの女の子のこと考えたでしょ」
ぎくっ
「おい。 今、ぎくって音が聞こえなかったか」
「まあ、念話だからねえ」
そんなことも、あるでしょ。
いつもは聞き役の舞子が、珍しく発言する。
「史郎君は、次にどうすればいいと思う?」
「そうだなあ。 アリスト王の周辺、騎士のほとんどが王の言いなりのようだから、まず自分達だけで、何ができるか考えてみよう」
「そうなりゃ、出来ることは、かなり限られてくるな」
「お、どうしたの加藤。
何か気が付いたなら、言ってみなさい」
畑山女史は常にクールである。
「国民と一緒に、一斉蜂起するとか」
「そんなことだと思ったわ。
まあ、あんたに期待してないけどね」
「船を奪って海外に逃げるとか」
「この国に海なんかないわよ」
「いっそ、マスケドニアに逃げてしまうとか」
「あんたねえ、現実味のない話ばかりしないの!」
「いや、そうでもないかもしれないぞ」
「だろ! ボーなら分かってくれると信じてた。
百姓一揆だよな」
まあ、一斉蜂起の光景が、頭に浮かんでるんだろうねえ、加藤は。
しかし、百姓一揆はないだろ、百姓一揆は。
「俺が言ってるのは一斉蜂起ではなくて、マスケドニアに逃げる策」
「逃げてどうするの?」
「誰がマスケドニアに行くか。
そして、その後、どういう行動を取るか。
その辺を煮詰めれば、一つの案かもしれない」
「じゃ、まずは各自で、誰が行くか、行って何するか考えてみましょう。
次の念話会議は、夕食の後。 いいかな?」
さすが畑山学級委員長。
仕切りの切れ味が違う。
「ボー。 連絡役から連絡があれば、俺にも回してくれよ」
「ああ。 チャンスがあればな」
何が言いたいのかは分かるが、さすがにこの状況でそれは無い。
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念話が切れると、キツネたちにもお土産を渡してやる。
男性には食べ物系、女性にはハンカチやスカーフが人気のようだ。
素朴な風合いの草木染は、ここでも好評だった。
苦労したのは、食べ物系のお土産の方なんだけどね。
ふと思いついて、「点ちゃん収納」を使うためのノートを作ってみた。
この世界のノートは、分厚い紙を数枚、糸で閉じただけのものだが、筆記具は、魔道具になっていて、地球のものに劣らぬほどの書き味である。
つい先日発売された最新式だそうだ。
ページに、次のように書く。
□ 温泉水饅頭
□ 草木染ハンカチ
□ ホワイトエイプの人形
そして、それぞれを収納した点ちゃんを、□の上に貼り付けておく。
しかし、これ、ノリも付けないで、なんでくっつくのかな。
使いたいものは、□から点ちゃんを取り外して、拡張すれば出てくる。
我ながらいいアイデアだとニヤニヤしていたら、点ちゃんの声が聞こえた。
『ご主人様ー』
お、点ちゃん。 何だい?
『要するに、点に名前を付けたらいいわけですよね』
そうだけど・・って、まさか!?
『できますよー』
また出た、できますよー。
嫌んなっちゃうな。
『ご主人様、怒ってる?』
怒ってない、怒ってない。
あれ? 前にもこのやり取りしなかったか?
『点を分けるときに、名前をイメージすればいいんですよ』
じゃ、やってみるか。
ホワイトエイプ人形
で、その点を箱にして人形を入れて、また点に戻す。
点をチェックと。
お! 出てる。
点の上に「ホワイトエイプ人形」って表示されてる。
これは、便利だな。
「点ちゃん、この文字は誰にでも見えるの?」
『ご主人様にしか見えませんよー』
よし、これも有効活用を考えてみよう。
しかし、この人形、恐ろしいほどゴリさんに似ている。
彼をモデルにしたんじゃないよな。
--------------------------------------------------------------------
夕食後、また史郎達四人は、念話でミーティングした。
『じゃ、まず加藤から発表して』
仕切りは、当然のように畑山女史だ。
『いいぞ。 俺が一人でマスケドニアに行く。
畑山さんと、舞子ちゃんは残ってくれ』
『で、その理由は?』
『えーっと、体力ある俺が機動力は高いだろ。 だからだ』
『あ、そう。 それがホントの理由ならいいんだけどね』
『べ、別の理由なんかないぞ』
『まあ、見え見えだけどね』
どうも、加藤は信用されてない。
『次は、舞子。 お願(ねが)いね』
『うん。 私は、三人全員で行けばいいかなって』
『まあ、それだと確かに心細くはないわね』
『しかし、それだと、危機感を煽られたこの国が、一気にあちらに攻め込む可能性があるぞ』
『そ、それもそうかな。 そうなったらだめだよね』
『じゃ、次は私ね。 私は、加藤と私で行くのはどうかなと考えてるの』
『理由は?』
『そうね。 二人とも戦闘力が高いから、ある程度の対処ができること。
怪我をしたくらいなら、私の治癒魔術もあるしね。
それに、舞子はこの町から離れたくないでしょ?』
『えっ・・。 それは、そうだけど』
『最後に、ボー、あんたの意見はどう?
あんたは、マスケドニア国王にも直接会ってるんだから、一番確かな意見が言えるでしょ』
『う~ん、そうだな。
まず、加藤はマスケドニア、畑山さんはアリストという配置がいいだろうね』
『それは、なぜ?』
『一人一人の戦闘力が高いのはもちろんだが、それだからこそ分かれたほうがいい』
『戦力の偏りを減らすわけね。
で、加藤が向こうに行くべき理由は?』
『アリスト国王が開戦を決めたのは、加藤の存在が大きいんだ。
加藤がいなくなるだけで、戦争を始めるための支えが大きく減る。
俺達が思ってる以上に、勇者という存在は大きいようなんだ』
『なるほどね。 それで、舞子は?』
『う~ん、それが難しい。
加藤に対する治癒のことを考えたらマスケドニア行きなんだけど・・
なんとなく、この国にいた方がいい気がする』
『でも、舞子を狙っている勢力がいるんでしょ』
『だからこそだ。 奴ら、舞子がいなくなれば、暴走しかねないぞ』
『なるほどね。 加藤と舞子はどう思う?』
『俺は、ボーの意見を支持するぜ』
『私は・・私も、史郎君に賛成する』
『おいおい。 自分の命がかかってるんだ。
軽々しく決めないでくれよ。
少なくとも三日間は、よく考えてくれ』
『そうね。 時間も無いからそれがぎりぎりでしょうね』
『じゃ、三日後にまた話せるようにしておいてくれ』
『いいわ』 『おう』
舞子の返事はないが、点ちゃんに向かって頷いているのだろう。
三日が過ぎたら、俺はこちらの意見を持って、マスケドニアと接触する仕事がある。
いつの間にか、くつろぐどころじゃなくなってる。
仕事の合間を見つけて、絶対、どこかでゴロゴロのほほ~んとしてやろう。
相変わらず、くつろぐことには妙に情熱を燃やす史郎だった。
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