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第一章 冒険者世界アリスト編

第19話 討伐の果て

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三時間ほどの睡眠で起きたが、心身は充実している。
これからすべきことの大切さが、エネルギーを掻き立てているのだろうか。

「出発するぞーっ」

伝令が告げていく。

早朝の山道を踏みしめ、隊列が進み始める。
さすがに、今日は崖から落ちるものはいない。 
みんな、フラフラだけどね。

昨日、上空にドラゴンが現れた地点を過ぎ、山頂に到着する。

前を行く騎士が、姿勢を低くするよう、手で合図する。

前方を見ると、切り取られた山頂が、すり鉢状になっており、底が湖になっている。
いわゆるカルデラである。

湖の中央付近に島があり、その上に巨大なドラゴンが佇んでいた。

隊列を割って、後ろから騎士団、それに取り囲まれるように勇者パーティがやってきた。

俺とルルがいるところから、右30mくらいのところを、その集団が進んでいく。

白銀の鎧を着た加藤が見える。
畑山女史と舞子が、その後ろに続いている。

カルデラの淵で、一瞬立ち止まったパーティだったが、先頭の騎士が頭上に挙げた手を振り下ろすと、加藤を先頭に、ものすごい勢いで、斜面を駆け下り始めた。

騎士団の中に守られていた宮廷魔術士が、前に出て、杖を振りかざす。

杖の先から迸った青い光が湖水に命中すると、湖面が一瞬で氷に覆われてしまった。

そのタイミングを見計らったように、加藤が凍った湖上を走っていく。

ものすごいスピードだ。

時速100kmくらい出ててもおかしくない。

瞬く間に、ドラゴンの足元にたどり着く。

ドラゴンのお母さんが、一瞬こちらを見た気がした。

勇者が、飛び上がりながら剣を振りかぶる。

ブンンッ

ここまで振動が伝わってくる勢いで、剣が振られた。
きっと音速を越えているのだろう。

点ちゃん、今だ!

ドラゴンの巨体がビクンと震えた直後、剣の軌道が首筋に走る。

一瞬の間をおいて、ドラゴンの首が横にずれる。

ズズーン

地響きを上げて、首が地面に落ちた。

うおーっ

歓喜の叫びを上げて、討伐隊がカルデラの斜面を駆け下りて行く。

加藤が胴上げされて宙を舞う。

木霊と木霊とが重なり、歓声はなかなか鳴りやまなかった。

「旦那様・・」

ルルが心配そうに、俺の顔を見上げる。
俺は・・泣いているのか。



涙は止めど無く溢れ、狂喜乱舞する人々をかき消していった。
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