ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音

文字の大きさ
上 下
4 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編

第2話 森の中で

しおりを挟む

何時間くらい森の中をさまよっただろうか。
木漏れ日が真上から差し込んでいるようだから正午あたりか。
それより一体ここはどこなのか。

4人が驚きから覚めた時すでに空中にあった穴は黒いしみとなり、まもなく煙のように姿を消した。
加藤は穴があった空中をしばらくぺたぺた触っていたが、手掛かりになるようなものは無かった。

太陽と木の枝の様子からおおよその方角を決め、南だと思われる方向に進むことにした。

畑山が持っていた携帯をチェックしたが、通信できないエリアのようである。

「かなり人里から離れてるって考えたほうがいいな」

本当は人里があるかどうかもわからないのだが、怯えている舞子を見るとどうしても気休めしか言えなかった。

「これ、なんていう木だろう。 見たことないんだけど・・」

畑山は趣味が彼女らしくガーデニングということだから、植物にはそれなりに詳しいはずなのだが・・
どうやら植生からは、現在地の特定が難しそうだった。

加藤が木にとまっていたカブトムシに似た青い甲虫を捕まえてみたが、これも我々が知らない種類だった。

甲虫を畑山の肩にとまらせて頭を思いっきりはたかれている加藤は肝が据わっているというか、現状に動じていないように見える。

舞子はまだ震えが完全にはおさまってないみたいだが、手をつないでやると顔色が少し良くなったようだ。

慰めようもないのでこれからどうするかに考えを巡らせてみる。
山で迷子になったら尾根に上がれといわれているが、あいにくここは起伏の乏しい森である。
木登りするしかないのだろうか。

「なあ、加藤・・」と呼びかけようとしたたとき、単調な探索は終わりを告げたようだ。
白い獣が後ろ足で飛び跳ねながら前方を横切ったからだ。

「ウサギだ!」

いつものごとく加藤は標的に向けてダッシュする。
まあ、今回はいいか、所詮はウサギだから。
しかし、あのウサギどうも何かがおかしい。

加藤がウサギに近づいたときその違和感の正体が分かった。


このウサギ、加藤の体よりはるかにでかい。

-----------------------------------------------------------

座った姿勢で加藤より大きいということは、全長で3mはあるのではなかろうか。

「おい、加藤。 気を付けろ!」

一瞬躊躇した加藤だったが、そのまま勢いを上げて近づいていく。
駆け抜けざまに引きちぎった木の枝を野球の要領で振り回す。

そんなことでどうにかなるサイズじゃないだろう、と思ったが、なんと加藤の振った木の枝はウサギの巨体を吹き飛ばしてしまった。

若木をべきべきと折りながら転がっていくウサギ。
後を追いかける加藤。
おいおい、お前いつからヒャッハー族になったんだ。

ウサギのものだろう。
あたりは獣臭い匂いがしている。

やっと止まって、よろよろと立ち上がるウサギだが、その表情に怯えのようなものが混ざったように感じられた。
ウサギに表情があればだが。

加藤の振るう若木が、容赦なく首筋に決まる。

「キュイイッ」

ズシーン

横たわった巨体がぴくぴくしている。

「あんた! なんてことしてんの!」

畑山軍曹ににらまれた加藤が、ウサギと同じようにぴくぴくしているのが哀れだった。

彼女が巨体の頭をなでると、ウサギのぴくぴくが収まってくる。

体をゆっくり動かして伏せの姿勢になったウサギは畑山の手に頭を擦り付けるようにしている。
これって、懐いたんじゃないか。


動物好きの舞子にも触らせてやろうと近づいていくと、ウサギは畑山の後ろに隠れるような位置に移動した。
おいおい頭かくして尻隠さずだな。
でかいから鼻すらも隠れてないけど。

畑山が安心させるように頭を軽く叩いてやると、やっと舞子に体を触らせてくれた。

二人がウサギに癒されている間に、加藤を木陰に引っ張っていく。

「ど、どうしたんだよ。
殺してないからいいだろ」

こいつ、そんなことを心配していたのか。
畑山軍曹、あなたは偉大です。

「騒がず聞けよ」

小さく一息つくと史郎は告げた。

「どうやらここ、地球じゃないぞ」

一瞬の静寂の後、森の中に加藤の叫び声が響き渡った。


やっぱりこうなりますか。

----------------------------------------------------------

舞子がもう少し落ち着いてからと思ったが、こうなれば仕方がない。

他の二人にも自分の予想を話して聞かせる。
最初驚いたような表情だったふたりもすぐに納得がいったようだ。
まあ、3mのウサギだからね。
いやでも分かっちゃうよね。

二人は、またすぐにウサギを撫で始めた。
逃避っていいよね。
モフモフよありがとう。


こちらは顔色が悪い加藤。
君、さっきまでヒャッハーしてたよね。

「ど、どうする?」

どうするって言われてもね。

「ボー。ちょっといいかな。」

名残惜しそうにウサギから離れてこちらに近づいてきた畑山が告げたのは、思わぬ突破口だった。

「ウサ子の話では、向こうのほうに人が住む町があるらしいのね」

ウサ子の話って、ウサギと会話したのか? 
ていうか、いつの間にか命名しちゃってるし。
3mウサギはペットなのか。

「なんかね、しゃべらなくてもウサ子の考えてることわかるみたい。
向こうもこっちの考えてることわかるようだから、普通におしゃっべりできるよ」

3mのウサギとのテレパシーが普通ときますか。
まあ畑山神ならなんでもありでしょうがね。

じゃ、とりあえずその方向へ行ってみますか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...