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第十二章 放浪編
第70話 ポータルを探そう(4)
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シュテインは俺が秘密裏に禁足地を調査しているという方向に話をもっていった。
ちなみに、気を利かせた執事が、屋敷を留守にしているナゼル父親のズボンをシュテインに履かせていた。
彼が話をしている間(ズボンを身につけているときも)、ナゼル嬢は、ずうっと彼を上目づかいで見ていた。
俺はその姿に見覚えがあった。加藤に恋する女性たちの姿だ。
ナゼルさん、シュテインに恋してたのか。
相手は皇太子だし美しい婚約者もいるから、それは実らぬ恋だね。そして、実らぬからこそ燃えあがるんだろうね。
『( ̄▽ ̄) ご主人様に恋のウンチクを聞かされてもねえ』
あーっ、点ちゃん、酷いよ。俺は『恋愛マスター』だよ?
『(*'▽') なぜ疑問形? ご主人様は言うなれば『恋愛ヘタレー』だよね』
ぐはっ! 『ヘタレー』とか、ついに点ちゃんが、新しい言葉を作るまで日本語に精通してしまった……。
ああ、あちらではシュテインが、兵士たちに説明を終えたようだね。
兵士たちは、疑わしそうな目で俺の方を見ながら、部屋を出ていった。
ナゼルさんは、シュテインの横を片時も離れない。
では、俺たちはすべきことに取りかかりますか、点ちゃん。
『ぐ(・ω・) 了解!』
◇
俺、シュテイン、ナゼルさんの三人は、庭に降り、禁足地を守る柵の所に来ている。
角材を並べて作られた、高さ三メールほどの立派な柵が、屋敷側の敷地と禁足地を隔てていた。
ナゼルが手に持つ、ニ十センチはあろうかという大きな鍵を、柵に取りつけられた黒い金属製の大きな扉にある鍵穴へ入れる。
ガチャリ
大きな金属音に続き、ナゼルが金属扉を両手で押す。
ギイイ
そんな音を立て、扉が向こう側に開いた。
◇
柵の中に入ったのは俺だけだ。
ナゼルは最後まで一緒に入るとごねていたが、シュテインが柵の外に残ると言うと、あっさり手のひらを返した。
こういうのを「チョロイン」って言うのかね。
『( ・・)Φ カキカキ』
はっ! 点ちゃん、それ覚えるのヤメてーっ!
ふう、大事な仕事の前に疲れちゃったなあ。
近くで見ると、庭の木々は、さらに大きく感じられた。
一抱えどころか、五人で手を繋がないと根元が抱えられないような大木が珍しくない。
俺はその中を迷う事なく、ある方向へ進んでいく。
そちらから、温かな波動が感じられるからだ。
神樹様の波動に間違いない。
木立の間に、下生えの草が無く円形に地面がむき出しになっている場所があった。
その中心に、瑞々しく青葉を茂らせた若木があった。
若木といっても、根元は三抱えほどありそうだ。
周囲の木よりは細く、背も低いが、その存在感は圧倒的だった。
凄いね、これは。
『(^▽^)/ 神樹様、こんにちはー!』
あっ、点ちゃんが先に挨拶しちゃったよ。
『……君、誰だい?』
『(^▽^)/ 点ちゃんですよー!』
『もう一人の君は?』
『神樹様、初めまして。
シローと申します』
『ボクは『幸せの木』って名前なんだ』
『お名前があるのですね』
『そうだよ。
ボクを救ってくれた女の子が名前をつけてくれたんだ』
『そうでしたか』
きっと、石像のモデルとなった少女のことだろう。
俺は、ここに来た理由を伝えることにした。
指を鳴らし、上空で待機中だった点ちゃん1号からブランとキューを呼びよせる。
本当はブランだけでいいのだが、キューだけが1号に残ると寂しいだろうからね。
「ミー?」(ここどこ?)
「キュ?」(森?)
ブランとキューは、俺を見上げている。
『ブランちゃん、神樹様と聖樹様に関する俺の記憶をこの方に伝えてくれるかな?』
「ミミュー!」(分かった!)
ブランが定位置である俺の左肩に跳びあがる。
右前足を伸ばし、その肉球をしばらく俺の額に着けていた。
彼女にしては時間が掛かっているのは、神樹様、聖樹様に関する記憶を全て検索しているからだろう。
俺の肩から跳びおりたブランは、神樹様の根元に近づくと、その木肌に右前足を着けた。
『!』
神樹様が光り、その光が輪となって周囲に広がった。
身に受けたそれは、今まで何度も体験した神樹様の祝福に似ていたが、どこか違っていた。
むしろ、聖樹様の祝福に近い。
やがて光が収まり、しばらくしてから神樹様の念話が伝わってきた。
『そうだったんだね……』
『神樹様?』
『ボクがみんなと違うのは、それが理由だったのか』
『どういうことでしょう?』
『最近、他の神樹たちと自分が違うって気づいたんだ』
『?』
『ボクは、聖樹という存在だと思う』
『えええっ!?』
『(!ω!) なんじゃーそりゃー!』
俺と点ちゃんの驚きが重なる。
『それで、困ってたんだ』
『神樹様、困っていたとは?』
『君は、ボクがどのくらいでこの大きさになったか、分かるかい?』
『うーん、十年か、二十年くらいですか?』
神樹様の中には、成長が早い方もいらっしゃるからね。
『一年だよ』
『『えっ、一年!?』』
『まだ、芽生えて間もないから、これで済んでるけど、これからさらに大きくなるはずだよ』
エルファリアにいらっしゃる、聖樹様の大きさを思いだした。
『……そうなると、この街は――』
『そうなんだ、ボクの中に取りこまれちゃう』
俺は人のいい門番や、くつろげるカフェに集う気のいい街の住民を思いだした。
『それで困ってたんだ』
神樹様、いや、聖樹様の若木からは、戸惑ったような念話が伝わってきた。
『だけど、君の記憶を見せてもらって、そうなる必要はないと気づいたんだ』
『どういうことでしょう?』
『君は、ポータルを探してるんだよね』
『ええ、そうですが……』
『ボクがポータルの神樹になればいいんだ』
『えっ!?
そんなことができるんですか?』
『神樹は聖樹になれないけれど、聖樹はどの神樹にでもなれる。
今なら、ボクにはそれが分かるんだ』
『しかし、この世界に聖樹様が現われたのは、世界群が崩壊しないためにだと思うのですが』
『よく分かってるね。
ボクの存在は、世界群の要請から生まれるんだ』
『それなら、聖樹様が神樹になってしまうと、この世界群が危ないのでは?』
『ボクが聖樹として成長するのが早いか、この世界を含む世界群が崩壊するのが早いか、ぎりぎりのところだった。
だけど、君がこの世界と君が元いた世界を繋げれば、向こうの聖樹の力で、確実にこちらの世界群が崩壊をまぬがれる』
なるほど、そういうことか。
『この街も救われるしね』
聖樹様から、甘く爽やかな波動が伝わってくる。
『神樹様、いえ、聖樹様はそれでよいのですか?』
『シローと言ったね、それがボクの望みなんだ』
『……分かりました。
俺にできることなら、ぜひお手伝いさせてください』
『これは君にしか頼めないことだからね』
俺にしか頼めない?
『そうだね、光と闇が七度変わる頃に、もう一度ここに来てくれる?』
七日後ってことだな。
『はい、分かりました』
『では、ボクはすぐに準備にかかるから、もう行って』
『では、またその時に』
『(*'▽') またねー!』
「みゅー!」(頑張ってね!)
俺はブランとキューを連れ、禁足地を後にした。
ちなみに、気を利かせた執事が、屋敷を留守にしているナゼル父親のズボンをシュテインに履かせていた。
彼が話をしている間(ズボンを身につけているときも)、ナゼル嬢は、ずうっと彼を上目づかいで見ていた。
俺はその姿に見覚えがあった。加藤に恋する女性たちの姿だ。
ナゼルさん、シュテインに恋してたのか。
相手は皇太子だし美しい婚約者もいるから、それは実らぬ恋だね。そして、実らぬからこそ燃えあがるんだろうね。
『( ̄▽ ̄) ご主人様に恋のウンチクを聞かされてもねえ』
あーっ、点ちゃん、酷いよ。俺は『恋愛マスター』だよ?
『(*'▽') なぜ疑問形? ご主人様は言うなれば『恋愛ヘタレー』だよね』
ぐはっ! 『ヘタレー』とか、ついに点ちゃんが、新しい言葉を作るまで日本語に精通してしまった……。
ああ、あちらではシュテインが、兵士たちに説明を終えたようだね。
兵士たちは、疑わしそうな目で俺の方を見ながら、部屋を出ていった。
ナゼルさんは、シュテインの横を片時も離れない。
では、俺たちはすべきことに取りかかりますか、点ちゃん。
『ぐ(・ω・) 了解!』
◇
俺、シュテイン、ナゼルさんの三人は、庭に降り、禁足地を守る柵の所に来ている。
角材を並べて作られた、高さ三メールほどの立派な柵が、屋敷側の敷地と禁足地を隔てていた。
ナゼルが手に持つ、ニ十センチはあろうかという大きな鍵を、柵に取りつけられた黒い金属製の大きな扉にある鍵穴へ入れる。
ガチャリ
大きな金属音に続き、ナゼルが金属扉を両手で押す。
ギイイ
そんな音を立て、扉が向こう側に開いた。
◇
柵の中に入ったのは俺だけだ。
ナゼルは最後まで一緒に入るとごねていたが、シュテインが柵の外に残ると言うと、あっさり手のひらを返した。
こういうのを「チョロイン」って言うのかね。
『( ・・)Φ カキカキ』
はっ! 点ちゃん、それ覚えるのヤメてーっ!
ふう、大事な仕事の前に疲れちゃったなあ。
近くで見ると、庭の木々は、さらに大きく感じられた。
一抱えどころか、五人で手を繋がないと根元が抱えられないような大木が珍しくない。
俺はその中を迷う事なく、ある方向へ進んでいく。
そちらから、温かな波動が感じられるからだ。
神樹様の波動に間違いない。
木立の間に、下生えの草が無く円形に地面がむき出しになっている場所があった。
その中心に、瑞々しく青葉を茂らせた若木があった。
若木といっても、根元は三抱えほどありそうだ。
周囲の木よりは細く、背も低いが、その存在感は圧倒的だった。
凄いね、これは。
『(^▽^)/ 神樹様、こんにちはー!』
あっ、点ちゃんが先に挨拶しちゃったよ。
『……君、誰だい?』
『(^▽^)/ 点ちゃんですよー!』
『もう一人の君は?』
『神樹様、初めまして。
シローと申します』
『ボクは『幸せの木』って名前なんだ』
『お名前があるのですね』
『そうだよ。
ボクを救ってくれた女の子が名前をつけてくれたんだ』
『そうでしたか』
きっと、石像のモデルとなった少女のことだろう。
俺は、ここに来た理由を伝えることにした。
指を鳴らし、上空で待機中だった点ちゃん1号からブランとキューを呼びよせる。
本当はブランだけでいいのだが、キューだけが1号に残ると寂しいだろうからね。
「ミー?」(ここどこ?)
「キュ?」(森?)
ブランとキューは、俺を見上げている。
『ブランちゃん、神樹様と聖樹様に関する俺の記憶をこの方に伝えてくれるかな?』
「ミミュー!」(分かった!)
ブランが定位置である俺の左肩に跳びあがる。
右前足を伸ばし、その肉球をしばらく俺の額に着けていた。
彼女にしては時間が掛かっているのは、神樹様、聖樹様に関する記憶を全て検索しているからだろう。
俺の肩から跳びおりたブランは、神樹様の根元に近づくと、その木肌に右前足を着けた。
『!』
神樹様が光り、その光が輪となって周囲に広がった。
身に受けたそれは、今まで何度も体験した神樹様の祝福に似ていたが、どこか違っていた。
むしろ、聖樹様の祝福に近い。
やがて光が収まり、しばらくしてから神樹様の念話が伝わってきた。
『そうだったんだね……』
『神樹様?』
『ボクがみんなと違うのは、それが理由だったのか』
『どういうことでしょう?』
『最近、他の神樹たちと自分が違うって気づいたんだ』
『?』
『ボクは、聖樹という存在だと思う』
『えええっ!?』
『(!ω!) なんじゃーそりゃー!』
俺と点ちゃんの驚きが重なる。
『それで、困ってたんだ』
『神樹様、困っていたとは?』
『君は、ボクがどのくらいでこの大きさになったか、分かるかい?』
『うーん、十年か、二十年くらいですか?』
神樹様の中には、成長が早い方もいらっしゃるからね。
『一年だよ』
『『えっ、一年!?』』
『まだ、芽生えて間もないから、これで済んでるけど、これからさらに大きくなるはずだよ』
エルファリアにいらっしゃる、聖樹様の大きさを思いだした。
『……そうなると、この街は――』
『そうなんだ、ボクの中に取りこまれちゃう』
俺は人のいい門番や、くつろげるカフェに集う気のいい街の住民を思いだした。
『それで困ってたんだ』
神樹様、いや、聖樹様の若木からは、戸惑ったような念話が伝わってきた。
『だけど、君の記憶を見せてもらって、そうなる必要はないと気づいたんだ』
『どういうことでしょう?』
『君は、ポータルを探してるんだよね』
『ええ、そうですが……』
『ボクがポータルの神樹になればいいんだ』
『えっ!?
そんなことができるんですか?』
『神樹は聖樹になれないけれど、聖樹はどの神樹にでもなれる。
今なら、ボクにはそれが分かるんだ』
『しかし、この世界に聖樹様が現われたのは、世界群が崩壊しないためにだと思うのですが』
『よく分かってるね。
ボクの存在は、世界群の要請から生まれるんだ』
『それなら、聖樹様が神樹になってしまうと、この世界群が危ないのでは?』
『ボクが聖樹として成長するのが早いか、この世界を含む世界群が崩壊するのが早いか、ぎりぎりのところだった。
だけど、君がこの世界と君が元いた世界を繋げれば、向こうの聖樹の力で、確実にこちらの世界群が崩壊をまぬがれる』
なるほど、そういうことか。
『この街も救われるしね』
聖樹様から、甘く爽やかな波動が伝わってくる。
『神樹様、いえ、聖樹様はそれでよいのですか?』
『シローと言ったね、それがボクの望みなんだ』
『……分かりました。
俺にできることなら、ぜひお手伝いさせてください』
『これは君にしか頼めないことだからね』
俺にしか頼めない?
『そうだね、光と闇が七度変わる頃に、もう一度ここに来てくれる?』
七日後ってことだな。
『はい、分かりました』
『では、ボクはすぐに準備にかかるから、もう行って』
『では、またその時に』
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