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第十二章 放浪編

第67話 ポータルを探そう(1)

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 竜の里にある森で出会った神樹様は、俺に祝福と神樹の種をくれた。
 祝福の方は、ドラゴンの言葉が分かり、それが話せるようになるという、俺にとってはなんとも微妙なものだった。だって、ドラゴンとは念話で普通に話せるからね。

 一方、神樹の種は、外皮をむくと中からピンポン玉サイズの青い玉が出てきた。それは、俺が行くべき方向を点滅によって教えてくれるというものだった。ぼんやり青く光る玉を手の上に載せ、身体の向きを変えると、それが点滅する時がある。その時、自分が向いる方角へ進めばいいそうだ。どういう仕組みか分からないが、これはかなりの優れものだ。

 ドラゴンが棲むレッドマウンテンを後にした俺は、点ちゃん1号で北西方向へ飛んでいた。点滅する青い玉を頼りに、時々方向を微調整しながら、ゆっくり機体を飛ばしている。

 やがて、草原が広がる大地の向こうに、石壁に囲まれた大きな街が見えてきた。
 街の周囲をぐるりと飛ぶが、青い玉が指ししめす方向は街の中だった。

 どういうことだろう?
 こんな所にポータルがあるはずないし……点ちゃん、どういうことだと思う?

『d(u ω u) 玉が指す場所が街の中ですから、とりあえずそこに行ってみては?』

 だよねー、やっぱり、点ちゃんは頼りになるね!

『ぐ(≧▽≦) えーっ、そうかなあ』

 こいつ、ちょろいな。

『(*ω*) 何かいいましたか?』

 い、いえ、何にも。

 ◇

 透明化の魔術で姿を消した点ちゃん1号を、街の郊外へ着陸させる。
 街道沿いは人通りが多いから、わざと道がない場所を選んだ。
 普通に歩けば大変だろうけど、俺は木目の紋様を施したボードを浮かべ、足元にブランとキューを乗せ、街の入り口へと向かった。

 石壁の所に立つ門番は、元気そうなお爺さんと逞しい壮年の男だった。

「お、おいっ!?
 一体なんだそりゃ!?」

 四、五人、俺の前に並んぶ順番待ちがいたが、門番の男はそれを飛びこし、ボードに乗った俺に声をかけた。

「ああ、これ、ボードっていう乗り物です。
 面白いものだからって旅の商人から売りつけられちゃいましてね。
 そのまま寝かせとくのもなんだから、こうして使ってみてるんですよ」

「そ、そうか。
 武器ではないなら問題ないぞ」

「武器はこんなのがあります」

 腰のポーチから普段使いの、小型ナイフを出す。

「おう、日常づかいの小物なら、持ってはいってもらってもかまわんぞ」

「ありがとう」

「お前、見たところ冒険者だろう?」

「ええ、よく分かりますね」

「そりゃ、この仕事も長いからな。
 ところでそのちっこい魔獣二匹はお前のものか?」

「ええ、そうです」

 俺は銀のギルド章と、サウダージさんに書いてもらっておいた、従属魔獣の証明書を門番に手渡した。

「おっ!
 お前、銀等級だったのか」

「ええ、なりたてですが」

「早くそれを言え。
 従魔の証明書も確認と。
 では、街に連れてはいってもいいが、従魔の管理には、くれぐれも注意しろよ。
 こいつらが何かすれば、お前の責任になるからな」

 ブランとキューは、おじいさん門番が差しだした手を嗅いでいる。
 このおじいさん、動物好きなのか、とろけそうな顔をしている。

「ははは、まあ、この二匹なら問題を起こすようなことはないだろうがな」

 壮年の門番が、老人に頭を撫でられているブランとキューを指差した。
 目尻の下がった彼は、最後にこう言った。

「俺はペラトだ。
 街で何かあれば、相談に乗るぞ。
 銀ランクの冒険者シロー、ヘルポリの街へようこそ!」

 ◇

 名前が『ヘルポリ』と分かったその街は、思いのほか整備されいた。
 道路は石畳だし、家々も一階が石造り、二階が木造という家が多いようだ。

 人々の表情は明るく、どの店も様々な民族衣装を着たお客で賑わっており、それを見るだけで、この街が交通の要衝であると分かった。

『(Pω・) ええと、この街を西へ抜ければ、国境となっている森があり、その向こうは隣国であるフェーベンクロー公国ですね』
 
 えっ!? 点ちゃん、なんでそんなに詳しいの?

『(・ω・)ノ 王都の図書館に行きましたよね』  

 ああ、シュテインに連れていってもらったね。

『d(u ω u) あの時、あそこにあった本をコピーして分析したんです』

 え? あんなに短い間によくこの街の事を調べることができたね。
 それより、どうしてこの街に来るって分かってたの?

『(・ω・)ノ そんなの分かってませんよ』

 じゃあ、どうやって……まさか!?

『(Pω・) 図書館の本は全てコピー、分析しておきました』

 点ちゃん、凄い!

『p(≧▽≦)q わーい、ご主人様に褒められちゃった!』

 いや、褒めるのも褒めますが、本当に驚きですよ。
 さて、どこかに落ちつける場所はないかな?

 適当な場所を探して歩いていると、一軒の店が目に留まった。
 そこは木造の二階建てで、こげ茶色の木材で統一されている。長いグラスが描かれた地味な看板が軒下にぶら下がっている。

 ブランとキューを、上空で待機させてある点ちゃん1号に瞬間移動で戻してから、黒い金属製のドアノブに手を掛ける。 
 重い木の扉を開くと店の中は思いのほか広く、そして、窓が小さく内装の色も茶色で統一しているからか、落ちついた暗さがあった。 
 
「うん、いいな」

 思わず声が出るほど、一目でそこが気に入ってしまった。ポンポコ商会で飲食店を出すなら、こういったくつろげる雰囲気にしたいものだ。
 カウンターには街の人らしい軽装のお客さんが何人か座り、いくつかあるテーブル席の方が、むしろ空いていた。

「いらっしゃい」

 店主らしい初老の男性が、顔が映るほど磨かれた木のカウンターの向こうから、声を掛けてきた。
 俺は一番手前のカウンター席に座った。

「こんにちは」

「お客さん、旅の人だね?」

 顔立ちのいい店主が低い落ちついた声でそう言った。

「ええ、たった今、この街へ着いたところです」 

「ようこそ、ヘルポリへ。
 この街を楽しんでいってくださいよ」

「ええ、そのつもりです。
 ずい分、賑やかな街ですね」

「ははは、そうですか?
 ちょっと前までは、ほんと寂れてたんですよ。
 今は別天地ですね」

「何かあったんですか?」

 俺の言葉で、カウンターのお客たちと店主が意味ありげに顔を見合わせた。

「この街はな、兄ちゃん、とんでもなく悪い領主が治めてたのさ」

 俺の隣に座る、太ったおじさんがそう言った。
 彼の手首には、青黒い筋がついていた。

「皇太子様と竜騎士様が、そいつらを退治してくれたんだよ」

 おじさんの向こうに座る色っぽい女性が話を続ける。

「皇太子様?」

 俺はシュテインを思い浮かべたが、話に出てくる皇太子が彼とは思えなかった。

「ああ、第一皇太子シュテイン様だよ。
 あんなに美しい王子様は、他の国にもいないだろう。
 その上、国民のことを守ってくださる。
 あたいが貴族なら、惚れてたね」

 ええっ! 本当に、あのシュテインなの?

 美少女と見まがうようなシュテインが、荒事の中にいる光景が思いうかばない。

「あの時は、ほんと地獄に天使だったぜ」

 カウンター席の一番奥に座る痩せた中年男性が、自分の手首を撫でながらそう言った。彼の手首にも、隣のおじさんと同じ、青黒い筋があった。

「この二人なんか、鉱山で働かされていたんだよ」

 先ほどの女性が、おじさんたちを指差した。

「ありゃ、地獄だったぜ」
「本当に、よく生きのびたもんだよな」

 おじさんたちは、そんなことを言いながら頷きあっている。
 恐らく、手首の変色は、手かせを着けられていたからだろう。
 加藤には見せられないな。
 ヤツがこんなものを見たら、それこそ国が滅ぶぞ。

「そうだ。
 あんた、まだ街に来たばかりだったな。
 中央広場に行ってみな、いいものが見られるぜ」

 隣のおじさんが、俺の肩を叩く。

「それより、あんた、何を注文するんだ?」

 店主が板に書かれたシンプルなメニューをカウンターに載せる。
 字は読めるのだが、それが何か分からない俺は彼に任せることにした。

「おススメをお願いします」

「ああ、じゃあ、マラアクで決まりだな」

 出されたのは、背の高いグラスに入った、薄桃色のジュースだった。
 添えられたタンブラーでかき混ぜてから、口を着ける。

「!」

 少しとろみがある冷えたジュースは、上品な甘さがなんともいえない。

「旨いですね!」

 俺が感嘆の声を上げると、店主が得意げに微笑んだ。

「これは、何のジュースですか?」

「マラアクの実を絞ったもんだよ。
 この辺りの森で獲れるんだが、美味しいからだろう、実が成ると魔獣と人間が競争で採ってしまうんだ」

「へえ、そうですか」

「森の奥には木がしなるほど成ってるっていうんだが、魔獣が強くてそこまで人が入れないんだよ」

「なるほど」

「だから、あんたに出したそれ一杯で、銅貨十五枚もするんだぜ」

 地球の物価換算で千五百円ほどか。
 それほど高くないな。

「魔獣って、どんなヤツですか?」

「そりゃ、色々いるんだが、マラアクの実を採るのは、『エイク』っていう白い魔獣だ」

 そうだ、肝心の事を尋ねないと。

「この街に洞窟や大きな木はありますか?」

 ポータルは、そういった場所にあるからね。

「ははは、兄ちゃん、さすがに街中に洞窟はねえぞ、ははは」

 俺の言葉が笑いのツボに入ったのか、隣のおじさんが、俺の背中をバンバン叩きながら笑っている。

「大きな木はどうです?」

「それも、街中にあるはずないだろう、ははは」

 そこで、色っぽい女性が口をはさんだ。 

「いや、あるよ、大きなのがたくさん」

「えっ!? 
 あるんですか?」

「おいおい、そんなものどこに……もしかして、ナゼルんとこのあれか?」

 一番奥のカウンター席に座る痩せた男性が、声を震わせた。

「兄ちゃん、大きな木ならあるが、それに何かしようと考えてるんなら諦めな。
 そこは、国の禁足地だ。
 入っただけで、首が飛ぶぞ」

 そのとき、背後で店の扉が開く音がした。

「ナゼルさん、いらっしゃい」

 マスターが気安く声を掛ける。
 振りむくと、二十台半ばだろう凛々しい感じの女性が立っていた。上品な服と肩の長さに揃えたブロンズの髪が、育ちの良さをうかがわせる。

 たった今、聞いた話の中にナゼルという名があったはずだが……。

「彼女はこの店の常連なんです。
 さきほど話に出た禁足地は、この方の屋敷にあります」

 禁足地が屋敷にある?
 その意味が理解できなくて、俺は首を傾げた。

 シュッ

 その首に、女性が腰から抜いた短剣の刃が当てられる。
 
「禁足地のことを嗅ぎまわる、お前は何者だ?」

 女性の声は、やはり凛々しいものだった。
 この場合、殺意が込められているから、凛々しいどころじゃないけどね。

『へ(u ω u)へ やれやれ、あいかわらずのんびりしすぎですよ、ご主人様は』  

 何があっても性分は変えられないからね。 
 三つ子の魂百まで、って言うでしょ

『( ・・)Φ メモメモ』

 あー! 点ちゃんが、また変な言葉覚えてる!
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