上 下
589 / 607
第十二章 放浪編

第59話 禁書庫

しおりを挟む

 陛下、シュテインと密談した翌日、侍従が朝早くに寝ている俺を起こしにきた。
 抱き枕ならぬ抱きキューちゃんを抱え、いい気持で寝ていたから、起こされた時、かなり不貞腐れた顔をしていたのだろう。年配の侍従さんがしきりに恐縮していた。
 いえ、あなたが悪いわけじゃないですからね。

 侍従さんに連れられ、城の下層に向かう。途中から通路に窓がなくなったのは、地下まで降りたからかもしれない。
 何度か分厚い扉を潜り、通路の突きあたりにある古い木の扉の前まで案内される。
 侍従さんがノックすると、中から陛下とシュテインが出てきた。
 二人とも目の下に隈があるところを見ると、徹夜で話しあっていたのかもしれない。

「シロー、決めたぞ。
 ポータルの情報があるなら、この禁書庫じゃろう。
 その情報を、この世界を救うために役立ててくれ」

 陛下の声は、しゃがれており、力が無かった。

「シローさん、あなただけが頼りです。
 頼みましたよ」

 シュテインが俺の肩に手を置く。
 その手から震えが伝わってくる。彼はものに動じないタイプに見えるが、さすがに世界が消滅するかもしれないという恐怖にさいなまれているのだろう。

「しかし、シロー、禁書庫は王族でもめったなことでは利用せぬから、どこにポータルの情報があるか分からんのじゃ。
 余とシュテインでかなり探してはみたのじゃがな」

 なるほど、話しあいだけで疲れたわけじゃなかったのか。

「そこは俺に任せてください。
 俺一人だけにしてもらえますか?」

「むう、できれば余も立ちあいたいのじゃが――」

「スキルを使うつもりだから、俺一人じゃないと困るんですよ」

 俺の言葉を聞き、シュテインが頷いた。

「分かりました。
 ここは冒険者の掟に従いましょう」

 皇太子は、その身分にもかかわらず、冒険者の事に詳しいようだ。
 
「そうしてもらえるとありがたい」

「父上、外で待ちましょう」
 
「そうするしかないか。
 ではシロー、余からも頼むぞ」

「はい、お任せください」

 二人は俺の肩を叩くと、重厚な黒い木の扉を開けた。
 シュテインが手渡そうとした魔術灯を断り、俺は暗い禁書庫の中に入った。
 後ろで扉が閉まる。
 まっ暗闇になった部屋を水晶灯で照らすと、そこは思ったより狭く六畳ほどしかなくかった。中央に書見台とサイドテーブルが一つ置いてあり、壁には腰くらいの高さから天井まで、革で装丁された本が並んでいた。羊皮紙の束が置かれた棚もある。それらは特に古いものらしい。
 換気施設らきものも見あたらないのに空気は清浄で、地下の一室とは思えなかった。

 点ちゃん、周囲に仕掛けはないかな?

『(Pω・) この部屋の環境を維持するための魔術が、幾重にも掛けられているようです』

 なるほど、さすが禁書を保管する場所だけはある。
 魔術的に温度や湿度を調節しているのだろう。

『(Pω・) 私たちを見張るような仕掛けはないですよ』

 じゃ、準備はいいみたいだね。
 点ちゃん、ここの本、全部コピーしてくれる?

『ぐ(・ω・) 了解です!』

 さて、これで当面すべきことは済んだな。
 問題は、点ちゃんのコピーはあっという間に終わるから、どうやってごまかすかだな。
 少し昼寝でもするか。

 点収納から最新式コケットを取りだし、それに横になる。
 これは下にキューの毛を敷き、その上に『緑苔』を載せた二層式のクッションを使っている。
 寝心地は最高だ。

『(; ・`д・´)つ こらっ、そこーっ!』

 朝早かったからね、点ちゃん、お休みなさい。

 ◇

 俺が昼寝している間に点ちゃんが禁書庫の全書籍全を分析し、次のような事が分かった。

 この『ボナンザリア世界』にも、かつてはポータルがあった。
 そしてそれを使い、他世界との行き来も行われていた。
 ただ、その事は、ごく一部の者だけに秘匿されていた。
 そして、約二百年前、そのポータルが突然消えてしまった。
 
 そして、ポータルの事以外にも、驚くべき情報が見つかった。
 この国の南西にレッドマウンテンという地域があり、そこにはドラゴンが棲んでいる。
 そして、そのドラゴンの生息地には神樹が複数存在するらしい。

 これらの資料が本当なら、こちらの世界群がなんとか消滅の危機を免れていたのは、もしかすると、その神樹たちが世界を支えていたからかもしれない。
 これは急ぐ必要があるな。

 俺が禁書庫の扉から出ると、通路に置いた長椅子に座りウトウトしていた陛下とシュテインがぱっと立ちあがり、駆けよってくる。

「シロー!
 どうであった?
 何か分かったか?」

「はい、陛下。
 分かったことをお伝えしますね」

 俺はポータルと神樹のことを伝えた。

「レ、レッドマウンテン……」

 シュテインは、その地名を聞いて青くなっている。

「俺は今からそこに行って神樹様に会ってくるよ」

「シローさん、しかし、レッドマウンテンにはドラゴンが棲んでいますよ」

「ああ、そうらしいね。
 どんなドラゴンがいるか楽しみだね」

「「……」」

 あれ、俺、何かいけないこと言っちゃった?

 ◇

 人払いしてもらった王城の中庭には、俺とブラン、キューの他は、陛下、お后様、シュテイン、ルナーリア姫と数人の近衛騎士だけがいる。

「では、陛下、行ってきます」 

「ドラゴンの生息地に行くのに、本当に軍を連れていかなくてもよいのか?
 それより、このような場所で何をするつもりじゃ?」

「急ぐので、空から現地に向かいます」

「シローさん、それは飛んでいくってことかな?」

「シュテイン、そうだよ」

「君は飛行魔術が使えるの?」

「ああ、使えるよ。
 ただ、今回はこれに乗っていくけどね」

 俺が指を鳴らすと、長さ二十メートルほどある白銀の機体が現われる。

「「「……」」」 

 みんなが目と口を大きく開けている。
 そんなに驚かなくてもいいと思うけど。

「キレイ!
 シロー、これはなあに?」

 ルナーリア姫が無邪気に言う。
 そうそう、こういう反応が欲しいんだよね。

「姫様、これは『オコ焼き騎士』の乗り物です」

「美味しいの?」 

「乗り物ですから、これは食べられませんが、中には美味しいものがたくさん用意してありますよ」

「うわーっ!
 乗せてくれるの?」

「今回はお仕事ですから無理ですが、それが終われば姫様をお乗せしますよ」

「きっと!
 シロー、きっとよ!」

「ええ、もちろんです」

『(・ω・)ノ 加藤さんも言ってたけど、ご主人様は子供に甘いよね』

 特に甘くしているつもりはないんだけどね。

「陛下、では行ってまいります」

「……おお、これに乗っていくのか?
 しかし、どこにも入り口は見えぬのじゃが。
 馬のように、上にまたがるのか?」

 俺が指を鳴らすと、機体の側面に入り口が現われる。
 ブランを肩にのせ、キューを抱えて機体に乗りこみ、みんなに手を振る。

「では、仕事が終わったら、また帰ってきます」

「頼んだぞ、シロー!」
「お願いしますよ、シロー!」

 陛下とシュテインも俺に手を振っている。
 
「シローさん、くれぐれも気をつけて」

 お后様は心配顔だ。 

「シロー、早く帰ってきて!」

 ルナーリア姫が泣きそうな顔をしている。

「ええ、姫様、またモフモフしましょうね」

「モフモフ……ひっく」

 泣きかけた姫様に背を向け、機体のくつろぎ空間に置いてあるソファーに腰を下ろす。

「じゃ、点ちゃん、レッドマウンテンへ出発ー!」

『(; ・`д・´)つ こらーっ! 自分だけくつろぐなーっ!』 

 点ちゃんのお叱りの声を聞きながら、点収納から日本茶と煎餅を出す。

「今日は日本茶の気分なんだよな~」

『(; ・`д・´)づ いい加減にしろーっ!』

 あれ、なんで点ちゃんに叱られてるんだろう、俺?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...