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第十二章 放浪編
第59話 禁書庫
しおりを挟む陛下、シュテインと密談した翌日、侍従が朝早くに寝ている俺を起こしにきた。
抱き枕ならぬ抱きキューちゃんを抱え、いい気持で寝ていたから、起こされた時、かなり不貞腐れた顔をしていたのだろう。年配の侍従さんがしきりに恐縮していた。
いえ、あなたが悪いわけじゃないですからね。
侍従さんに連れられ、城の下層に向かう。途中から通路に窓がなくなったのは、地下まで降りたからかもしれない。
何度か分厚い扉を潜り、通路の突きあたりにある古い木の扉の前まで案内される。
侍従さんがノックすると、中から陛下とシュテインが出てきた。
二人とも目の下に隈があるところを見ると、徹夜で話しあっていたのかもしれない。
「シロー、決めたぞ。
ポータルの情報があるなら、この禁書庫じゃろう。
その情報を、この世界を救うために役立ててくれ」
陛下の声は、しゃがれており、力が無かった。
「シローさん、あなただけが頼りです。
頼みましたよ」
シュテインが俺の肩に手を置く。
その手から震えが伝わってくる。彼はものに動じないタイプに見えるが、さすがに世界が消滅するかもしれないという恐怖にさいなまれているのだろう。
「しかし、シロー、禁書庫は王族でもめったなことでは利用せぬから、どこにポータルの情報があるか分からんのじゃ。
余とシュテインでかなり探してはみたのじゃがな」
なるほど、話しあいだけで疲れたわけじゃなかったのか。
「そこは俺に任せてください。
俺一人だけにしてもらえますか?」
「むう、できれば余も立ちあいたいのじゃが――」
「スキルを使うつもりだから、俺一人じゃないと困るんですよ」
俺の言葉を聞き、シュテインが頷いた。
「分かりました。
ここは冒険者の掟に従いましょう」
皇太子は、その身分にもかかわらず、冒険者の事に詳しいようだ。
「そうしてもらえるとありがたい」
「父上、外で待ちましょう」
「そうするしかないか。
ではシロー、余からも頼むぞ」
「はい、お任せください」
二人は俺の肩を叩くと、重厚な黒い木の扉を開けた。
シュテインが手渡そうとした魔術灯を断り、俺は暗い禁書庫の中に入った。
後ろで扉が閉まる。
まっ暗闇になった部屋を水晶灯で照らすと、そこは思ったより狭く六畳ほどしかなくかった。中央に書見台とサイドテーブルが一つ置いてあり、壁には腰くらいの高さから天井まで、革で装丁された本が並んでいた。羊皮紙の束が置かれた棚もある。それらは特に古いものらしい。
換気施設らきものも見あたらないのに空気は清浄で、地下の一室とは思えなかった。
点ちゃん、周囲に仕掛けはないかな?
『(Pω・) この部屋の環境を維持するための魔術が、幾重にも掛けられているようです』
なるほど、さすが禁書を保管する場所だけはある。
魔術的に温度や湿度を調節しているのだろう。
『(Pω・) 私たちを見張るような仕掛けはないですよ』
じゃ、準備はいいみたいだね。
点ちゃん、ここの本、全部コピーしてくれる?
『ぐ(・ω・) 了解です!』
さて、これで当面すべきことは済んだな。
問題は、点ちゃんのコピーはあっという間に終わるから、どうやってごまかすかだな。
少し昼寝でもするか。
点収納から最新式コケットを取りだし、それに横になる。
これは下にキューの毛を敷き、その上に『緑苔』を載せた二層式のクッションを使っている。
寝心地は最高だ。
『(; ・`д・´)つ こらっ、そこーっ!』
朝早かったからね、点ちゃん、お休みなさい。
◇
俺が昼寝している間に点ちゃんが禁書庫の全書籍全を分析し、次のような事が分かった。
この『ボナンザリア世界』にも、かつてはポータルがあった。
そしてそれを使い、他世界との行き来も行われていた。
ただ、その事は、ごく一部の者だけに秘匿されていた。
そして、約二百年前、そのポータルが突然消えてしまった。
そして、ポータルの事以外にも、驚くべき情報が見つかった。
この国の南西にレッドマウンテンという地域があり、そこにはドラゴンが棲んでいる。
そして、そのドラゴンの生息地には神樹が複数存在するらしい。
これらの資料が本当なら、こちらの世界群がなんとか消滅の危機を免れていたのは、もしかすると、その神樹たちが世界を支えていたからかもしれない。
これは急ぐ必要があるな。
俺が禁書庫の扉から出ると、通路に置いた長椅子に座りウトウトしていた陛下とシュテインがぱっと立ちあがり、駆けよってくる。
「シロー!
どうであった?
何か分かったか?」
「はい、陛下。
分かったことをお伝えしますね」
俺はポータルと神樹のことを伝えた。
「レ、レッドマウンテン……」
シュテインは、その地名を聞いて青くなっている。
「俺は今からそこに行って神樹様に会ってくるよ」
「シローさん、しかし、レッドマウンテンにはドラゴンが棲んでいますよ」
「ああ、そうらしいね。
どんなドラゴンがいるか楽しみだね」
「「……」」
あれ、俺、何かいけないこと言っちゃった?
◇
人払いしてもらった王城の中庭には、俺とブラン、キューの他は、陛下、お后様、シュテイン、ルナーリア姫と数人の近衛騎士だけがいる。
「では、陛下、行ってきます」
「ドラゴンの生息地に行くのに、本当に軍を連れていかなくてもよいのか?
それより、このような場所で何をするつもりじゃ?」
「急ぐので、空から現地に向かいます」
「シローさん、それは飛んでいくってことかな?」
「シュテイン、そうだよ」
「君は飛行魔術が使えるの?」
「ああ、使えるよ。
ただ、今回はこれに乗っていくけどね」
俺が指を鳴らすと、長さ二十メートルほどある白銀の機体が現われる。
「「「……」」」
みんなが目と口を大きく開けている。
そんなに驚かなくてもいいと思うけど。
「キレイ!
シロー、これはなあに?」
ルナーリア姫が無邪気に言う。
そうそう、こういう反応が欲しいんだよね。
「姫様、これは『オコ焼き騎士』の乗り物です」
「美味しいの?」
「乗り物ですから、これは食べられませんが、中には美味しいものがたくさん用意してありますよ」
「うわーっ!
乗せてくれるの?」
「今回はお仕事ですから無理ですが、それが終われば姫様をお乗せしますよ」
「きっと!
シロー、きっとよ!」
「ええ、もちろんです」
『(・ω・)ノ 加藤さんも言ってたけど、ご主人様は子供に甘いよね』
特に甘くしているつもりはないんだけどね。
「陛下、では行ってまいります」
「……おお、これに乗っていくのか?
しかし、どこにも入り口は見えぬのじゃが。
馬のように、上にまたがるのか?」
俺が指を鳴らすと、機体の側面に入り口が現われる。
ブランを肩にのせ、キューを抱えて機体に乗りこみ、みんなに手を振る。
「では、仕事が終わったら、また帰ってきます」
「頼んだぞ、シロー!」
「お願いしますよ、シロー!」
陛下とシュテインも俺に手を振っている。
「シローさん、くれぐれも気をつけて」
お后様は心配顔だ。
「シロー、早く帰ってきて!」
ルナーリア姫が泣きそうな顔をしている。
「ええ、姫様、またモフモフしましょうね」
「モフモフ……ひっく」
泣きかけた姫様に背を向け、機体のくつろぎ空間に置いてあるソファーに腰を下ろす。
「じゃ、点ちゃん、レッドマウンテンへ出発ー!」
『(; ・`д・´)つ こらーっ! 自分だけくつろぐなーっ!』
点ちゃんのお叱りの声を聞きながら、点収納から日本茶と煎餅を出す。
「今日は日本茶の気分なんだよな~」
『(; ・`д・´)づ いい加減にしろーっ!』
あれ、なんで点ちゃんに叱られてるんだろう、俺?
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