587 / 607
第十二章 放浪編
第57話 褒美とモフモフ
しおりを挟む反乱を企てた貴族や兵士が騎士たちにより捕縛された後、俺は侍従に伴われ城の一室に案内された。
二十畳ほどの部屋の壁は金糸銀糸で織りあげたた布が掛けられており、サイドテーブルなどの調度もその落ちついた色合いが質の高さを表していた。
「しばらくこちらでお待ちください」
部屋に入るとすぐ、ブランとキューは、天蓋つきベッドに上がり寝てしまった。
彼らと遊ぼうと思っていた俺は、手持ち無沙汰になってしまった。
部屋には入り口以外に扉が二つあるので、それを開けてみると、片方はおそらく側人用の個室で、もう一方はお風呂とトイレだった。
なんと、お風呂には蛇口がきちんと二つ付いている。
きっと高貴な身分の者が宿泊する部屋なのだろう。
俺は湯舟にお湯を張ると、異世界の風呂を楽しんだ。
点ちゃんに調べてもらうと、この部屋の給湯システムには、やはり魔石が使われており、魔道具の仕組みによってお湯と水が出るようになっていた。
これを考えた人は天才だな。
ポータルズ世界群でも、水の魔道具はあるけど、お湯を出すには特別な魔石が必要だからね。
こいつは売れるぞ!
『( ̄▽ ̄)つ ご主人様が、また悪い顔になってる』
◇
俺が風呂から出て、冒険服を着たタイミングを見ていたかのように、初老の侍従が現われる。
「シロー様、陛下がお呼びです」
「ああ、そう?
着替えなくちゃならないの?」
「いえ、ご自分の服装で構わないとのことでした」
「それは助かる」
迎賓館で着せられていた礼服は、窮屈だったからね。
ベッドで寝ているブランとキューはそのままにして、カーキ色の冒険服を身に着けた俺だけが、侍従に連れられ陛下の元へと向かった。
◇
長い廊下を歩き、金ぴかの大きな扉の前に来る。
扉の前に立っていた二人の騎士が左右に分かれ、俺を通してくれる。
侍従が呪文で開いた扉から、部屋の中に入った。
そこは予想通り玉座の間で、侍従に連れられ立ちならぶ貴族たちが拍手する中を歩くことになった。部屋の奥は何段か高くなっており、そこに据えられたきらびやかな玉座に国王陛下が座っていた。
迎賓館で見せていた穏やかな表情ではなく、引きしまった威厳ある表情の陛下は、俺が立ちどまると声を掛けてきた。
あれ?
膝を着かなくてもいいのかな。
「冒険者シロー、この度の働き、誠にあっぱれであった。
余の友として遇しよう」
ええーっ、なんかめんどくさい事になってないかな。
嫌だなー。
まあ、膝を着かなくていいから楽だけど。
「あっ、そうだ。
陛下、この度の事に関係ある者の名がこちらに」
俺はナゼリア侯爵からブランが引きだした情報を、点ちゃんシートに記録しておいたのだ。
この世界の言語で書かないといけないから、割と手間がかかった。
侍従が俺の手から受けとったシートを騎士の一人に手渡す。
彼がそれを調べた後、陛下の所に持っていった。
「ふむ、確かに。
反乱を企てた者として、ここに名があると思う者は名乗り出よ。
さすれば罪一等を減じよう」
死刑が無期懲役になるってことかな?
背後でドサドサ音がするのは、思いあたる貴族が倒れている音だな。
「シローよ、ここまでしてもらっては、褒美を与えねばならん。
欲しいものを申してみよ」
「そうですね。
お城には禁書庫があると思いますが、そこへ入るのをお許しください」
「ほう、宝石や金を求めぬのじゃな?」
「陛下!
しばしお待ちを!
そのことについては、すぐ決められるのではなく、後ほどでよいかと」
予想していたとおり、陛下の後ろに控えていたシュテインから待ったが掛かる、
「ふむ、だがシローの功績から考えると、些細な報酬だと思うのじゃが」
「父上!
どうか、後ほどになさってください!」
シュテインの必死な表情に動かされたのだろう。陛下は心を決めたようだ。
「シロー、すまぬが褒美は後ほどでかまわぬか?」
「はっ、畏まりました」
「それとは別に、料理への報酬も出さねばならぬな。
何か希望はないか?」
「そうですね……私は冒険者ですが、商売も手掛けておりまして。
恐れながら、城下にお店を開く許可を頂ければと思います」
「おお、そんなことでよいのか?
すぐに手配しよう。
シュテインよ、これには異存なかろうな?」
「はっ!」
「そうじゃ、こちらからも、もう一つ頼みがあるのじゃが、それも後にするかな。
では、ただ今から、このシローはワシの友人じゃ。
みな、そのつもりで彼を遇せよ」
振りかえると、貴族たちがこちらに頭を下げている。
面倒くさいことになったな。
侍従に促され、礼をしてから玉座の間を出てブランとキューが寝ている部屋に戻った。
◇
部屋で美しいメイドさんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、シュテイン皇太子が部屋に入ってきた。
「シロー殿、父上からの報酬を保留にして済まなかったな」
「いえ、王族の方としては当然の判断だとおもいます。
それから、俺の事は今まで通り、『シロー』とお呼びください」
「ならば、その方も私を『シュー』と呼んでくれるか?」
「ええ、そうしましょう」
俺の答えに、なぜか皇太子は頬をピンク色に染めている。
美形は何をしても絵になるね、まったく。
『(*'▽')つ ご主人様が、皇太子の美貌に嫉妬してるー』
ええ、どうせ俺の顔は、ぼうっとした顔ですよ。
『(・ω・)づ いや、そこまで落ちこまなくても』
◇
シュテイン皇太子に連れられ別室に案内された俺は、ソファーに並んで座るお后様とルナーリア姫と再会した。
「シロー、先ほどは私たちを助けてくれて、本当にありがとう。
その服装の方が、あなたに似合っているわね」
お后様は、つかい慣れないくだけた言葉を意識して話しているからか、ややぎこちない。
「ねえ母様、いいかしら?」
ルナーリア姫が、母親にお願いする顔を向ける。
「ええ、いいわよ」
ソファーから跳びおりた少女が、俺の腰の辺りに抱きつく。
「シロー、ありがとう!」
不敬かなと思いながら、ルナーリア姫の頭を撫でる。
「姫様、あのときは凄くカッコよかったですよ」
「えへへへ」
ルナーリア姫が満面の笑顔を浮かべる。
それは、孤児院でロキたちが見せた笑顔と全く変わらなかった。
「シロー、あのね、お願いがあるの。
あの白いの、また抱っこできる?」
お后様の方に目をやると、彼女が微笑みながら頷く。
『点ちゃん、ブランとキューは起きてるかな?』
『(・ω・)ノ 二人とも、ちょうど起きたところだよ』
『ありがとう』
「姫様、あの子たちを今すぐに呼びますからね」
指を二回鳴らすと、俺の足元に寝起きのブランとキューが現われる。
並んであくびしているのが、すごくカワイイ。
「うわーっ!」
ルナーリア姫は、俺から教えられたとおりに、そっとブランを抱きかかえる。
ブランが、舌で姫の頬を舐めた。
「きゃっ、くすぐったい!
うふふっ」
しばらくすると、姫の手からブランが跳びおり、俺の肩に跳びのった。
ルナーリア姫は、キューを抱えあげる。
「ほわ~!
ふわんふわんね!」
「姫様、こういうのをモフモフと言うんですよ」
「モフモフ?」
「そう、モフモフ」
「モフモフだ~!」
ヒマワリのような笑顔になったルナーリア姫を、母親のお后様、兄のシュテインが、目を細めて見守っていた。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる