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第十二章 放浪編

第55話 お好み焼きと陰謀(下)

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 ティーヤム王国の王都、その王城にある迎賓館で、俺は国王一家のために食事を提供している。

「次が楽しみだわ」

 いや、そんなに期待されても、出すものは替わりませんから。
 
 俺は腰のポーチに触れ、点収納からお好み焼きを出した。
 さて、ここまで、こちら世界群のみんなに受けてきたお好み焼きだが、国王陛下への受けはどうかな?

「史郎さん、次はオコ焼きですか?」

 シュテイン皇太子が訊いてくる。

「はい、そのつもりですが」

「父上、オコ焼きは、熱くないと美味しくないと聞いております」

 シュテインのその言葉で、陛下たちの後ろに立つお毒見役が身じろぎする。
 陛下のお毒見役が、意を決した顔で陛下に話しかける。

「陛下、熱いものなどお召しあがりになってはいけません!」

 陛下は俺の方を向き、こう言った。

「シロー、オコ焼きは、熱くないと美味しくないというのはまことか?」

「はっ!
 間違いなく、冷めると美味しさは大きく損なわれます」

 陛下の後ろに立つお毒見役が、それだけで殺せるような視線を俺に送ってくる。
 陛下は侍従の一人を呼ぶと、彼に何か耳打ちしている。
 侍従は、慌てて部屋を飛びだしていった。

「シロー、少し待ってくれ。
 その間、この酒をもう少し味わわせてもらうぞ」

 ◇

 しばらくすると、俺の右にある扉が開き、五人の男たちが入ってきた。
 沢山飾りが付いた立派な服装と、それぞれ年齢が高いところを見ると、かなり上級の貴族らしい。
 彼らは国王の側に行くと、何か話しった後、その一人が懐から羊皮紙を取りだした。
 国王がそれにサインする。

「シロー、喜べ!
 たった今、大臣たちと話し合い、『オコ焼き令』を出したぞ。
 いかなる者も、オコ焼きは熱いうちに食べよという法令じゃ。
 これで気兼ねなく熱いオコ焼きが食べられるぞ、あはははは!」

 あはははは、じゃないよ、全く!
 こんなことなら、きちんと『お好み焼き』だって訂正しておけばよかったよ。

『(; ・`д・´)つ 突っこむとこ、そこ!?』

 絶望した顔のお毒見役が、俺が点収納から出したばかりのお好み焼きを口にする。

「熱っ!
 旨っ!」

 口にしてしまったお毒見役が、しまったという顔をした後、絶望の表情で天井を仰ぐと、その顔を両手で隠し膝を着いた。 
 おい、いくらなんでも、それは大げさだろう!

 それを見た陛下が、お好み焼きを一口食べる。
 
「熱っ!
 旨っ!」 

 それ、お毒見役と同じ反応……。

「お父様、これ、おひひいです、むきゅむきゅ」

 ルナーリア姫の無邪気な反応には、心が洗われるよ。

「これ、旨っ!
 あっ、美味しゅうございます」

 シュテインの婚約者、セリカ嬢が慌てて言いなおす。

「まあ、セリカさん、遠慮はいらないですのよ」

 お妃様が、鷹揚に話しかける。 
 しかし、彼女もお好み焼きを口にしたとたん……

「熱っ!
 旨っ!」

 さすが夫婦、陛下と同じ反応でしたね。

 ◇

「なにっ!
 陛下の一家がお城から迎賓館に出向いてると?」

 反乱を企てる貴族たちの盟主ナゼリア侯爵は、その知らせに自分の耳を疑った。

「それは間違いないな?」

「はい、たった今、使いの者が知らせて参りました。
 いかがしましょう?」

 警備の厳重な王城内ならともかく、迎賓館なら少数で襲ってもなんとかなる。

「すぐに貴族たちに知らせよ!
 兵を出せるだけ出せとな!
 遅れたら、ワシが作る新王国では平貴族に降格だと告げよ!
 急げっ!」

「はっ!」
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