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第十二章 放浪編
第44話 異世界のギルド
しおりを挟む若い衛兵に教えてもらった特徴の建物を探し、大通りを歩いていく。
街の家は木造の平屋が多いが、造りはしっかりしているようだ。
人々の表情が明るいから、比較的豊かな暮らしをしているのだろう。
駆けまわって遊んでいる子供たちの笑顔が印象的だった。
ナルとメルは、元気にしてるかな?
『(・ω・)ノ ご主人様ー、ギルドらしき建物を通りすぎたよ』
あちゃー、いつものうっかりだね。
◇
ギルドはこの街で見た一番立派な建物で、木造二階建てだが横幅が二軒分あった。
衛兵が言っていたように、屋根の上にドラゴンの風見鶏がある。
両開きの扉を押し、中へ入る。
木の受付カウンター、食事もできる丸テーブル、そして壁に貼られた依頼書、それはどこから見ても、俺が知るギルドそのままだった。
ちょっとジーンとしてしまう。
「おい、入り口で立ちどまんなよ!」
後ろから声を掛けられ、横に寄る。
入ってきたのは、右のこめかみに傷がある大柄な男だった。
男は皮の袖なしジャケットを素肌の上に着ており、その前を開けているので、引きしまった大胸筋と腹筋が丸見えだった。大胸筋の上には、首から吊った銀色のメダルが光っている。
カウンターに並んでいた若い冒険者が横にどける。
どうやら彼はこのギルドの大物らしい。
肩に背負っていた革袋をドンとカウンターに置いた。
「メッジーナさん、ご苦労様」
受付は人懐こい笑顔の女性だった。恐らく二十台後半だろう彼女は、大きな胸を強調するような服装を着ていた。右目の下にある泣きボクロが印象的だった。
「おう、スミルちゃん、今回はいい仕事ができたぜ」
「さすがは銀ランクですね。
確か、オークの調査でしたよね?」
「ああ、はぐれが何匹かいたから、狩ってきた。
調査報告は、個室へ行けばいいか?」
「はい、個室でお待ちください。
すぐにギルマスが行きますから」
どうやら、依頼の仕組みも、俺が知っているギルドと同じようだね。
これなら、馴染みやすいかも。
前に並んだ若い冒険者が報酬受けとりの手続きを終え、俺の番になった。
「ご用件は?」
「ええと、キキット村から来たシローと言います。
冒険者になりたいんですが」
詰め所で発行してもらった、仮の身分証を受付カウンターに置く。
「ええと、新規登録となると、銀貨一枚となりますが」
「それが、『悪魔の森』で魔獣に襲われて、お金を落としてしまったんです」
「『悪魔の森』!
よく逃げのびましたね」
「ええ、運が良かったみたいです」
「そうですね、何か換金できるような素材はありますか?」
うーん、これは困った。
魔獣の素材は売るほど点収納に入っているけれど、その魔獣がこの世界にいるかどうか分からないからね。
「ええと、魔石は売れますか?」
「もちろんです。
見せてもらえますか?」
俺は腰のポーチに手を入れ、そこから取りだすようなふりをして、点収納から魔石を二十個ほど取りだした。
魔石はなるべくクラスが低い魔獣のものを選んである。
「ああ、これはスライム、これはゴブリンの魔石ですね。
こちらは見たことがありません。
少し鑑定に時間が掛かってもいいですか?」
「うーん、すぐ鑑定できるものだけお願いできますか?」
「分かりました。
そうすると、ええと……銀貨六枚ですね」
「ありがとう。
では、その一枚をギルド登録につかいます」
「分かりました。
……こちら、鉄ランクの冒険章と入門書です」
俺は、それらと残りの銀貨を手にし、カウンターを離れた。
とりあえず、この世界のお金を稼ぐために、依頼書をチェックするかな。
◇
掲示板には、採集依頼、討伐依頼がごちゃ混ぜで貼ってあった。
アリストギルドでは、それぞれの依頼で場所を分け、しかもランク順に依頼書を並べていたから、何から何まで同じという訳でもないようだ。
点ちゃんが予想したように、こちらの世界群が、百五十年から二百五十年ほど前に、向こうの世界群から分かれたとすると、ギルドの制度や仕組みの変化も、いくらか異なるだろうからね。
ドン
そんな音がしたので横を見ると、さっき受付にいたごつい冒険者が、驚いた顔で床に腰を着いている。
『(・ω・) この人、ご主人様を押しのけようとしたみたいですよ』
ああ、依頼書の前に俺がいたから、邪魔に思ったんだね。
それで、押しのけようとして『物理攻撃無効』の反動を喰らったと。
自業自得だね。
「おい!
お前!
謝れ!」
ええと、ゴブリン十体、銀貨五枚か。安いな~。
それに比べ、オークは一体で、銀貨一枚、これは割がいいな。
「おい、お前!」
ドン
おっ、この依頼すごいじゃん、調査だけで金貨三枚。
あー、調査地が『悪魔の森』近くなのか。なるほどねえ。
キューちゃんたち、かなり怖がられてるな。
本当は、カワイイ上にモフモフな魔獣なのに。
ドン
さて、どの依頼にするかなあ。
ドン
それより、さっきからドンドン煩いですよ。
俺が振りかえると、血だらけになったおじさんが、腕を抱え床に這っている。
彼の横には、短剣がころがっていた。
『(・ω・)ノ この人、さっきからご主人様を、後ろから攻撃してたんですよ』
えっ? そうだったの?
さっきからドンドン聞こえてたのは、彼が床に叩きつけられる音だったのか。
ギルドの中が、ざわついている。
受付の女性や他の冒険者たちが、遠巻きにこちらを見ているのだ。
これ、やっちゃった?
『(・ω・)ノ 最初の「ドン」で気づきましょうよ』
いや、依頼書読むのに夢中だったから。
『へ(u ω u)へ やれやれ、ご主人様はのんびりしすぎですよ、全く!』
人垣の後ろから、グラマラスな女性が出てくる。
彼女は、光沢のある茶色い革のジャケット、ズボンを身に着け、右目に黒い眼帯を着けていた。
「おい、お前、ちょっとこっちへ来い!」
彼女は低い声でそう話しかけてきた。
俺はすごすごと個室に連行された。
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