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第十二章 放浪編

第37話 呉越同舟

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 一週間後、ウエスタニア軍とイスタニア軍、それぞれの上層部が集まり、合同会議が開かれることになった。
 この会議に先立ち、俺はヴァルム少尉を通し、イスタニアの軍幹部にも『平和大陸』で記録した映像を見せておいた。
 
「こ、この建物はなんだ?!
 昨日まで、ここにこんなものは無かったはずだぞ!」 

 イスタニアのヴァルム少尉が驚きの声を上げる。
 それはそうだろう。
 目の前にある大きな二階建ては、今朝、俺が土魔術で建てたものだからね。

「さあ、みなさん、こちらへどうぞ」

 俺は、両軍の幹部を大部屋に案内した。
 
「な、なんだ、この部屋は!」

 声を上げたのは、ウエスタニアのモラー少佐だ。 
 部屋の壁はエメラルド色の布で飾られ、それが虹色に光るシャンデリアに照らされ、何とも言えない上品な雰囲気を醸しだしている。
 縦に長い長方形のテーブルは、木目がついた大きなものだが、実はこれ、点魔法で白木に似せて作ってある。
 椅子も点魔法で作った優美なもので、クッションにはエルファリアの『緑苔』を使ってある。
 各国の王族用にと、『ポンポコ商会』で開発中の商品だ。
 
 テーブルの両側に、イスタニアとウエスタリア、それぞれの軍人が階級順に席に着く。
 一番末席の横、テーブルの短い辺に俺が席を占める。

「では、合同会議を始めてください」

 俺は会議の開始だけ告げ、必要がない限り、黙って見守るつもりだ。

「ウエスタニアのモラーだ。
 階級は少佐だ。
 総司令官のカリーナ将軍から、お言葉がある」

 その言葉で、俺から見て左奥に座る、初老の痩せた女性が立ちあがった。

「この度、冒険者シローによりもたらされた情報は、まさに驚天動地のものだった。
 しかし、真実を知った今、これまで通りお互いが争えば、まさにヤツらの思うツボだ。
 この場で忌憚なく意見を出しあい、ヤツらに一泡吹かせてやろうぞ」

 彼女が座ると、イスタニアのヴァルム少尉が発言した。

「イスタニアのヴァルムと申す。
 我らの将軍からも、お言葉がある」

 右手一番奥に座る、がっしりした初老の男性が立つ。

「イスタニア将軍、ダンテである。
 カリーナ将軍の言葉、誠にもっともだ。
 我らが戦えば、ヤツらの見世物になるだけ。
 ぜひ、傲慢な者に目にもの見せてやろう」

 将軍同士が視線を交わし、頷きあった。

「問題は、どうやって海を越え、敵の大陸に攻めこむかだが……。
 シロー殿、何か考えはあるか?」

 ヴァルム少尉がこちらに話を振ってくる。

「皆さんが海を渡ることに関しては、俺がサポートしましょう。
 ただ、俺の方にも条件があります。
 この件で、死人を出さないこと。
 やむを得ない怪我人まではしょうがないですが、誰かを殺すなら俺は協力しません」

「ばっ、馬鹿なっ!」

 左手に座る、目つきの鋭い中年女性が、ばっと立ちあがる。

「我々がどれだけの仲間を失ったと思ってるんだ!
 同じだけの数、ヤツらを殺さんと気が済まん!」

 彼女はテーブルを思いきり右手で殴りつけた後、その手を抱え座りこんでしまった。
 点魔法で作ったテーブルを殴るなんて、馬鹿だね。   
 骨折しているだろうから、後で治してあげよう。

「そいつの言う通りだ!
 どれだけの男が死んでいったか!
 無差別にヤツらを殺してやる!」

 右手に座る、太った男がそう叫ぶ。
 イラついてるねえ。髪が薄くなってるの、その性格が原因じゃないのか?

「無差別とは、どういうことですか?」

 俺は静かに質問した。

「子供から年寄りまで皆殺しだ!」

「ほう、そうか」

 俺の口調が今までと違うからだろう。皆がこちらに目を向ける。
 そして、全員が驚いたような顔で俺を見た。
 
「あんたたちが、この状況を打ちやぶるのに協力はしよう。
 だが、さっき言った通り、この件で一人でも人を殺すことがあれば……」

 先ほど発言した太った男が、ブルブル震えだす。

「お前の国を人から建物まで含め、全て消す」

『(・ω・)ノ ご主人様、マジ顔、マジ顔!』

 あっ、やっちゃった?

『(・ω・) 何人か漏らしちゃってますよ。自重してください』

 ああ、太っちょおじさん、白目むいて気を失ってるな。

 俺は自分の顔を右手でつるりと撫でた。
 
「「「は~……」」」

 みんな、なんかホッとしてるね。
 よかった、よかった。

『(; ・`д・´)つ よくはないっ!』

 この後、会議は具体的な作戦について話しあわれた。 
 俺? ほとんど黙ってたよ。
 だって、口を開こうとすると、みんながビクンビクンするんだもん。 
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