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第十二章 放浪編

第34話 ゲーム

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 煉瓦がむき出しの壁に縦横一メートルほどの白いスクリーンが現われる。
 もちろん、点ちゃんが、シールドに白い色を着け設置したものだ。

 もう一つの大陸からの映像が、そこに映しだされた。
 それは映画館のような場所で、前にある壁面に映像が映っている。
 映像は廃墟を上空から見たもので、深緑色の軍服を着たイスタニアの兵士三人が壁の陰で身を潜めていた。
 画像の左上には、緑色と赤色、二つの文字が並んで表示されており、それぞれ「3」と「5」を表していた。
 数字は俺が見知った『学園都市世界』の文字だった。

 イスタニアの兵士は、少し離れた所にいる赤色の軍服を着た三人を壁の陰からうかがっているようだった。赤い軍服の三人は、くつろいだ様子でおしゃべりしている。
 深緑色の軍服を着た男の一人が、右手を大きく振った。
 彼らは隠れていた壁から身を起こし、ボウガン型の兵器を構えると、赤い軍服の三人に狙いを定めた。

 しかし、次の瞬間、その三人のうち二人が倒れる。画面上では、三人の後ろから急襲した二人の赤い軍服が映っていた。
 一人残った兵士の反撃が、赤い軍服の一人を倒したが、もう一人残った方に撃たれてしまった。
 おとり役としておしゃべりのフリをしていた三人が、戦闘があった場所に駆けつける。
 その兵士がヘルメットを取ると、短く刈ったブロンドの髪が現われた。顔つきからして女性のようだ。 
  
 画面の数字は、緑色が「0」、赤色が「4」に変わっていた。
 客席から聞こえてきた声には、喜びを表すものと落胆を表すもの両方があった。

「畜生! 
 こんなことならウエスタニアに賭けときゃよかったぜ!」
「ははは、男が女に勝てるわけないだろう!」
「くそう、ここんところの稼ぎがパーだぜ!」
「また勝っちゃった」
 
 どうやら、観客席に座る人々は、画面の向こうで行われていた戦闘に賭けていたらしい。
 点ちゃんシートの映像が一度消え、今度は別の場所が映しだされた。

 ◇ 
 
 そこはかなり広い部屋で、大きな「C」字型のテーブルが置かれていた。俺は『田園都市世界』でほぼ同じテーブルを見たことがある。
 その外側に沿って、十人程の男女が座っている。
 部屋の奥から見た画像には、左側に女性、右側に男性が分かれて座っていた。
 二十台後半から、六十代まで、年齢層はばらばらだった。
 全員が、ゆったりした白いローブを羽織っている。
 男女とも、長く伸ばしたブロンドの髪を、頭の上で冠状にまとめる独特の髪型をしていた。

 部屋の前には大きなディスプレイがあり、そこには数値やグラフが表示されている。
 右奥、ディスプレイに一番近い所に座る男性が発言した。 
 
「これが今期の『戦争大陸』に関するデータだ」

「ウエスタニア側の人口が、やや多いのではないか?」

 左奥に座る、高齢の女性が指摘する。

「そうなのだ。
 今日の議題は、どうやってウエスタニアの人口を間引くかだ」

「イスタニア側の兵器の性能を少し上げたらどうかしら」

 若い女性が発言する。

「人口調整に兵器改良で対応する案は、すでに何度も考えられたことだ。 
 武器の性能を上げはじめると、それがエスカレートしてしまう。
 お前も、『ゲームオーバー』の事は知ってるだろう」

「はい。
 ウエスタニア、イスタニアともに、戦略兵器を使用し、サンプル全てが失われた事件です」

「そうだ。
 あれの二の舞は、もうごめんだからな」

「経済活動を活性化させ、過剰人口を処理するためには、あの大陸の『ゲーム』が必要だ」

 右奥から三番目に座る男が目をつぶったまま、そう言った。

「そういえば、かつては生まれたものを殺処分していたこともあったらしいですね?」

 先ほどの若い女性が尋ねる。

「お前、どうしてそれを……まあ、お前の家柄なら、知っている者もいるだろうな。
 とにかく、今では殺処分などという非人道的なことは、この『平和大陸』で行われておらん」

 ここで、右の奥から二番目に座る男が、おもむろに発言した。

「ところで、本題に入る前に一つ報告がある」
 
 最初に発言した、左奥に座る年配の女性が、じろりと彼を見た。

「ライナス、いつも黙っているあなたが発言するとは珍しいわね。
 いったい、何かしら?」

 ライナスと呼ばれた男は、彼女の方は見向きもせず、そのまま発言を続けた。

「イスタニアで、二機の『ハエ』が故障した」

「あなた、そんな取るに足らない事を、わざわざここで持ちだすというの?」

 先ほどの女性が、呆れたように言う。
 しかし、続いたライナスの言葉で彼女は顔色を変えることになる。

「その『ハエ』の故障には、『稀人』が関わっているらしい」

「なんですって!」
「なんだと!」
「本当か!」

 言葉は違えど、全員が驚きの声を上げた。
 彼らの言葉で『稀人』というのは、異世界人のことだ。

「もし、それが本当なら、厳しく見張る必要がある」

 右奥に座る老人が、厳しい口調でそう言った。

「そういえば、『ゲームオーバー』も、『稀人』が関わっていたらしいですね」

 若い女性の発言で、皆の動揺が増す。

「そうなのだ。
 万が一、『戦争大陸』のサンプルに、『ゲーム』の事が知られてみろ」

「あそこと、この『平和大陸』は海で遠く隔たっていますから、まさか、彼らがこの都市に攻めてきたりしないでしょうが、万一に備えないといけませんね」
 
 三十代に見える男が、そう発言した。

「そうだな。
 警備兵には、重火器を装備させておくか」
「海岸線の警戒網も強化した方がいいわね」
「現地に追加の『ハエ』を送ってはどうかしら?」

 各自が口々に対策を出しはじめる。

「とにかく、この事は、ライナス、お前が責任をもって対処しろ」

 右奥の老人の言葉に、ライナスが頷いた。

「ウエスタニアの人口調整に関する議論は後回しだ。
 ライナスが十分な情報を集めた後、再び『賢人会議』を開こう」

 ◇

 最後に『賢人会議』という言葉まで飛びだした映像に、俺は衝撃を受けていた。
 かつて『学園都市世界』において、獣人たちを奴隷として、そして魔道具の材料として利用していた研究者グループが名乗っていたのが、まさに『賢人』だったからだ。
 そして、何より、『平和大陸』の人々が、『戦争大陸』の人々をどう扱っているかということに強い嫌悪感を覚えた。
 
『(・ω・)ノ ご主人様ー、これはまた遊べそうだね』

 まあね、点ちゃんはいつもそんな感じだよね。

 いつも変わらない、能天気な点ちゃんに、少し救われた気がした。
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