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第十二章 放浪編

第30話 壁の街

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 廃墟の中を三十分ほど歩いたところに、乗り物が置いてあった。
 これは大型の車のようなもので、車輪の代わりにキャタピラーが使われている。
 戦車の上半分をトラックに替えていると言えば分かりやすいだろう。

 車の座席は、三人用のベンチが四列並んだものだった。
 兵士二人が最前列に、ヴァルム大尉と俺が二列目に座る。
 窓には安全のためか、ビニールのような透明なシートが張ってあった。
 車の前部に二門の砲身が見える。かなり口径が大きなものだ。

 キャタピラー車は、何度か道を外れ瓦礫の上を走ったが、性能が良いのか、あまりスピードは落ちなかった。
 俺に足を潰された小柄な兵士が、斜め後ろに座る俺を振りかえり睨んできたが、ヴァルム大尉が自分を見ていると気づくと、さっと顔をそらせた。

 廃墟を抜けると荒れ地が広がっており、その向こうには長く続く壁があった。 
 まだかなり距離があるのに、端が見えないその壁は、俺に万里の長城を思いおこさせた。 
 
 壁に近づくと、その大きさに驚く。
 恐らく高さが二十メートル近くあるだろう。
 壁に幅広の大きな門が見えてきた辺りで、砂利道が白っぽい素材で舗装されたものに変わる。
 その舗装を傷つけないためか、車はスピードを落とした。
 
 金属製の門が内側に開き、車はそこを通って壁の内側に入っていく。
 そこには、意外なほど整った街並みが広がっていた。
 ただ、家はレンガ造りの平屋が多いようだ。
 通りを歩く人は少なく、その人々の服装は白いシャツに茶色のズボンという質素なもので、豊かさは感じられなかった。

 俺を乗せた車は、門から続く大通りをまっ直ぐ進み、三階建ての大きな建物の前で停まった。
 どうやら、街の一区画全部をこの建物が占めているらしい。
 建物の周囲には、ボウガンに似た武器を持った兵士が等間隔に立っているから、おそらく重要な施設なのだろう。

 俺はその施設の横に並ぶ、体育館に似た建物に連れていかれる。
 建物に入ると、ヴァルム大尉は俺だけを連れ、二階に上がった。
 
「ここで待っていてほしい」

 俺が案内された部屋は、飾り気のない部屋で、固い黒ソファーと、金属製のローテーブルだけが置かれていた。
 俺がソファーに座ると、ヴァルム大尉は部屋を出ていった。
 出ていくとき、カチリと音がしたから、ドアをロックしたのかもしれない。
 
「ミー」(そろそろみたい) 

 三人の兵士に会う直前に透明化の魔術を掛けておいたブランが、耳元で教えてくれる。

 点ちゃん、大丈夫かい?

『(・ω・)ノ ふぅーっ、やっと適応できました』

 点ちゃん、おかえりー!

 俺は、この世界に来てから目にしたことを点ちゃんに伝えた。
 
『(・ω・) ふーん、そうでしたか。ところで、あのハエみたいものは何でしょう?』

 点ちゃんが言っているのは、俺が三人の兵士に会った時くらいから、頭上を飛んでいる小さな何かだ。

 点ちゃん、あれって何だと思う?
 
『(Pω・) ちょっと調べますね』

 その小さな何かは、かなり小さく、大きさで言うと小バエくらいしかない。しかも背景によって色が変わるようだから、竜眼を持たない普通の人間には見つけられないだろう。

『(Pω・) ご主人様、あれは小型の観測装置みたいです。映像と音をどこかに送っています』 

 ふう~ん、俺がこの世界に来るのを予測してたとは思えないから、あれはヴァルム大尉を見張っていたか、もしかすると、大量にばら撒かれているのかもしれないね。
 ブランを透明化しておいて正解だったね。

『(・ω・) とりあえず、壊しておきましたー』

 点ちゃん、ありがとう。
 
 しばらくすると一人の少年が入ってきて、俺を別室に案内した。彼も深緑色のジャケットとズボンを身に着けているから、やはり軍人かもしれない。
 案内された部屋は六畳くらいの部屋で、小さなタンスとベッドが置いてあった。
 壁にドアがあったのでそれを開くと、シャワーらしき設備とトイレがあった。

 俺はとりあえずシャワーを浴び、服を着替えた。
 ベッドに横になると、眠気が襲ってくる。
 ブランも俺のお腹に上がり丸くなっている。

『(; ・`д・´) エェーッ! この状況で、また寝るの!?』 
  
 おやすみ、点ちゃん。
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