560 / 607
第十二章 放浪編
第30話 壁の街
しおりを挟む廃墟の中を三十分ほど歩いたところに、乗り物が置いてあった。
これは大型の車のようなもので、車輪の代わりにキャタピラーが使われている。
戦車の上半分をトラックに替えていると言えば分かりやすいだろう。
車の座席は、三人用のベンチが四列並んだものだった。
兵士二人が最前列に、ヴァルム大尉と俺が二列目に座る。
窓には安全のためか、ビニールのような透明なシートが張ってあった。
車の前部に二門の砲身が見える。かなり口径が大きなものだ。
キャタピラー車は、何度か道を外れ瓦礫の上を走ったが、性能が良いのか、あまりスピードは落ちなかった。
俺に足を潰された小柄な兵士が、斜め後ろに座る俺を振りかえり睨んできたが、ヴァルム大尉が自分を見ていると気づくと、さっと顔をそらせた。
廃墟を抜けると荒れ地が広がっており、その向こうには長く続く壁があった。
まだかなり距離があるのに、端が見えないその壁は、俺に万里の長城を思いおこさせた。
壁に近づくと、その大きさに驚く。
恐らく高さが二十メートル近くあるだろう。
壁に幅広の大きな門が見えてきた辺りで、砂利道が白っぽい素材で舗装されたものに変わる。
その舗装を傷つけないためか、車はスピードを落とした。
金属製の門が内側に開き、車はそこを通って壁の内側に入っていく。
そこには、意外なほど整った街並みが広がっていた。
ただ、家はレンガ造りの平屋が多いようだ。
通りを歩く人は少なく、その人々の服装は白いシャツに茶色のズボンという質素なもので、豊かさは感じられなかった。
俺を乗せた車は、門から続く大通りをまっ直ぐ進み、三階建ての大きな建物の前で停まった。
どうやら、街の一区画全部をこの建物が占めているらしい。
建物の周囲には、ボウガンに似た武器を持った兵士が等間隔に立っているから、おそらく重要な施設なのだろう。
俺はその施設の横に並ぶ、体育館に似た建物に連れていかれる。
建物に入ると、ヴァルム大尉は俺だけを連れ、二階に上がった。
「ここで待っていてほしい」
俺が案内された部屋は、飾り気のない部屋で、固い黒ソファーと、金属製のローテーブルだけが置かれていた。
俺がソファーに座ると、ヴァルム大尉は部屋を出ていった。
出ていくとき、カチリと音がしたから、ドアをロックしたのかもしれない。
「ミー」(そろそろみたい)
三人の兵士に会う直前に透明化の魔術を掛けておいたブランが、耳元で教えてくれる。
点ちゃん、大丈夫かい?
『(・ω・)ノ ふぅーっ、やっと適応できました』
点ちゃん、おかえりー!
俺は、この世界に来てから目にしたことを点ちゃんに伝えた。
『(・ω・) ふーん、そうでしたか。ところで、あのハエみたいものは何でしょう?』
点ちゃんが言っているのは、俺が三人の兵士に会った時くらいから、頭上を飛んでいる小さな何かだ。
点ちゃん、あれって何だと思う?
『(Pω・) ちょっと調べますね』
その小さな何かは、かなり小さく、大きさで言うと小バエくらいしかない。しかも背景によって色が変わるようだから、竜眼を持たない普通の人間には見つけられないだろう。
『(Pω・) ご主人様、あれは小型の観測装置みたいです。映像と音をどこかに送っています』
ふう~ん、俺がこの世界に来るのを予測してたとは思えないから、あれはヴァルム大尉を見張っていたか、もしかすると、大量にばら撒かれているのかもしれないね。
ブランを透明化しておいて正解だったね。
『(・ω・) とりあえず、壊しておきましたー』
点ちゃん、ありがとう。
しばらくすると一人の少年が入ってきて、俺を別室に案内した。彼も深緑色のジャケットとズボンを身に着けているから、やはり軍人かもしれない。
案内された部屋は六畳くらいの部屋で、小さなタンスとベッドが置いてあった。
壁にドアがあったのでそれを開くと、シャワーらしき設備とトイレがあった。
俺はとりあえずシャワーを浴び、服を着替えた。
ベッドに横になると、眠気が襲ってくる。
ブランも俺のお腹に上がり丸くなっている。
『(; ・`д・´) エェーッ! この状況で、また寝るの!?』
おやすみ、点ちゃん。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる