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第十二章 放浪編
第22話 書庫
しおりを挟む小屋から出た俺は、森の空き地に点ちゃん1号を出した。
中に入り扉を閉めると、くつろぎ空間にあるソファーに腰掛ける。
点ちゃん、ここからどうする?
『(・ω・)ノ まず、書庫でポータルについて書かれた本を見つけましょう』
そうだね。
『旅立ちの儀』まで三十日あるから、その間にいろいろ準備しないとね。
『(・ω・)ノ 『罪科者』全員の記憶は、すでにブランちゃんが収集済みです』
えっ!?
いつの間に?
『(・ω・) 白いベッドがある部屋にいた時、ブランちゃん散歩してたでしょ』
えーっ!
あの間に!?
ブラン、凄いな。
『(u ω u) 全くです。その時、寝てた誰かとは大違いです』
イタタタ、そこを突きますか。
『(^▽^) つんつんしますよーっ!』
嬉しそうだね。
『(; ・`д・´)つ 私につんつんされないように、しっかりしてください!』
へいへい。
『(; ・`д・´)つ そこっ、返事は、「はい」一回!』
はい……なんか、凄いデジャヴ感がある。
◇
コケットでぐっすり眠った俺は、気持ちよく朝を迎えた。
って、今日は雨ですか。
もうちょっと寝てていいよね。
『(; ・`д・´) イイ訳あるかっ!』
点ちゃん1号をしまい、小屋に入ると、銀さんとタムが朝食の用意を始めるところだった。
俺は二人に声を掛け、テーブルにジュースとハチミツクッキーを出す。
「兄ちゃん、これ、すっごくうめーな!」
タムはエルファリア産のジュースが気に入ったようだ。
食事の後、銀さんがタムの頭に手を置き優しく話しかけた。
「タム、今日は大事な話があるの」
「大事な話ってなに、師匠?」
「あなた、私の顔を見たがっていたわね」
銀さんが自分の仮面を指さす。
「それは、ボクが小さな時だよ。
もう、そんなこと言わないから」
「いえ、いいのよ。
私が見てほしいの」
銀さんが仮面を外した。
「これが……師匠のお顔……」
タムが、小さな手で銀さんの顔を撫でる。
「あのね、師匠。
本当は師匠が寝ているとき、何回かお顔を見たことがあるの。
怒る?」
「いいえ、いいのよ、タム」
「ボク、いつもお顔が見えた方がいいな」
「これからは、そうするわ」
タムを抱きしめる銀さんの目からは、涙がとめどなく溢れていた。
◇
銀さんとタムを森の小屋に残し、俺は点ちゃん1号で、『旅立ちの森』上空に来ている。
昨日、『罪科者会議』が開かれた黒い建物が、『旅立ちの森』という名前だと、銀さんから聞いた。
どうして建物に『森』という名前がついているかは、分からないそうだ。
透明化を施した点ちゃん1号から点をばら撒き、『旅立ちの森』の地下施設をマッピングする。
それほど掛からず、地下施設の地図が完成した。
俺は自分にも透明化の魔術を掛け、点ちゃん1号の扉を開ける。
透明にしたボードを扉の前に出す。
今日は小雨が降っているので、滑らないようにボードの上面に凸凹をつけてある。
そのボードに乗りうつり、地面すれすれまで降下する。
一台の自走車が建物の入り口を通るのに合わせ、開いたドアから中に滑りこむ。
マップを頼りに、地下への降り口を探す。
それは入り口から左方向へ少し進んだ所にあった。
ボードに乗ったまま、地下へ降りる。
こうすることで足跡が残らない。
地下の施設も、輪を成すように巡らされた廊下の内側に設けられている。
書庫はその一番奥にあった。
中を調べると、一人だけ人がいる。きっと書庫係の『罪科者』だろう。
外から中に点を入れ、点に付与した闇魔術でそいつを眠らせる。
ボードから降り、点ちゃんが開けてくれたドアから中に入る。
マップで確認していたとおり、中はそれほど広くなく、教室の半分くらいだった。
そこに天井まである大きな書棚が、二列かける五列、合わせて十あった。壁際に置かれた書棚と合わせると、二十ほどになるだろう。
この中から該当する本を探すのは、大変かもしれない。
『(Pω・) ご主人様~、左端、手前の棚へ行ってください』
えっ!?
点ちゃん、もう見当がついてるの?
『(Pω・) 下から二段目、左から三冊目を取ってください』
これかな?
『(*'▽')つ 目次をチェックしてください』
ええと、なになに、『β世界の環境』
あれっ!?
この文字って、どこかの文字と似てるよね。
『(Pω・) 学園都市世界のものと似てますね』
あっ、ホントだ!
だから見覚えあったのか。
これを書いたのは、学園都市世界の研究者かもね。
ええと、目次はどうなってるかな。
前書き
一、β世界の概要
二、大気組成、重力、自転周期
三、気候、地理、地質
四、生態系
五、環境改変、移住の可能性
六、その他
そうだな、とりあえず、六の「その他」ってところを見てみるか。
『(・ω・)ノ ご主人様、誰か来るよー。本は一度棚に戻した方がいいかも』
えっ!?
マップを見ると、確かに動く点がこの部屋に近づいてきている。
俺は慌てて本を元の場所に返すと、入り口から一番遠い場所に移動した。
プシュー
そんな音を立て、入り口の扉が開く。
息を殺し自分の気配を消す。
「おい、二十号!」
あっ、睡眠の闇魔術解除と。
「う、うう、あっ、二号!」
「寝てたのか。
お前、たるんでるぞ!」
「す、すみません」
「書庫に湿気は禁物だ。
雨に濡れた時は、清浄室を使ってから入れと言ってあっただろう」
「あのう、清浄室は使ったんですが……」
「なら、なぜ廊下に水滴が落ちてる!」
あちゃー、ボードから垂れた水滴が、廊下に落ちてたんだね。
いつものうっかり、またやっちゃったか。
「ど、どうしてでしょう……」
「清浄室の調子が悪いのかもしれんが……」
二号の足音が、コツコツと響き、俺がさっきまでいた本棚の辺りで停まった。
「こんなところまで水滴が垂れてるぞ!」
本棚の陰から覗くと、銀仮面が書棚を調べている。
彼の手は、俺が本を押しこんだ辺りに伸びた。
ヤバい!
「おい、お前!
本の中を見たんじゃないのか?」
「い、いえっ!
そんなことはしていません!」
「ここへ来てみろ!」
背がやや低い銀仮面が、二号の横にやってくる。
「あっ!」
やってきた銀仮面が、声を上げる。
「これを見てみろ!
本が上下逆だ!」
「き、きっとこの前のクリーニング後に……」
「言い訳は要らんっ!
お前、この件に関する報告書を出せ」
「そ、そんな……」
「それとも、規則違反で、今ここで『権利』をはく奪されたいか?」
「ひいっ!
わ、分かりましたっ!
すぐに報告書を書きます!」
二号は本棚を回りこみ、俺がいる場所へ近づいてくる。
どうする?
ヤツをどこかへ跳ばすか?
銀仮面は、俺が姿を消している場所から、ほんの二、三歩のところで床を調べていたが、首を傾げて立ちあがった。
「ふむ、まさかな……」
彼はそんな言葉を残し、部屋から出ていった。
「な、なんでこんなことに……」
書庫係の銀仮面が、情けない声を漏らすのが聞こえた。
『(・ω・)ノ ご主人様、本のコピーは終わったよー』
おお!
じゃあ、あの本を持っていかなくても大丈夫なんだね?
『d(・ω・) 大丈夫』
しかし、点ちゃんは凄いね。
たったあんだけの時間で、本を一冊コピーしちゃったんだね。
『(・ω・) 一冊じゃないよ』
ん? どういうこと?
『(・ω・)ノ□ ここにある本全部コピーしといたよ』
……。
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