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第十二章 放浪編

第18話 老人のいない街

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 頭髪を剃った人々が歩く中を、銀仮面が進んでいく。
 ゆっくり歩く人々の表情は、おしなべて柔らかかった。急いでいるものや、眉間にシワを寄せている者は一人もいない。かといって、笑顔の者もいなかった。
 俺には、そのことが不自然に思われた。

 家々は、全て同じ形、同じ大きさの平屋で、色までオフホワイトに統一されている。窓から見えるカーテンも、全て同じものが使われているようだ。
 銀仮面は、周囲の家と較べると三倍ほどありそうな建物に入って行く。この建物は二階建てのようだ。
 広く開かれた戸口から中に入ると、ほぼ正方形の室内には、二人掛けサイズの小さな長方形テーブルが十脚ほど置かれていた。
 床はなく、白い小石が敷きつめられていた。
 半分ほどのテーブルには人が着いており、木のボウルに入った何かを食べていた。 

 銀仮面に促され、テーブルに着く。
 テーブルには椅子が一つしかないので、隣のテーブルの椅子をこちらに動かし、そこに座る。

 部屋の奥から十二、三歳の少年が出てくる。頭髪が無いから性別がはっきりしない。もしかすると、少女かもしれない。
 彼は手に持ったお盆を俺たちのテーブルに置いた。お盆には木のボウルと木のスプーンが二つずつ載せられていた。
 俺は、ボウルの中身を見てがっかりした。
 それは森の隠し小屋で口にした西洋粥(ポーリッジ)だった。
 
 少女が礼をして部屋の奥に消える。銀仮面は、例のごとく仮面の下端を少し持ちあげ、木のスプーンで粥を食べている。
 俺は食べないと決め、部屋の中を見回した。
 部屋には棚や、飾りといったものが一切なく、同じ服を着た人々が黙って食事する姿と相まって、殺風景極まりなかった。
 
 今になって気づいたが、俺たち以外、一つのテーブルに一人しか座っていない。たまたまそうなのか、意図的にそうしているのか分からないが、それで余計にこの場所が寒々しくなっていた。
 食べ終えた者は、木のボウルとスプーンを奥の壁に開いた小窓のところに置くと、外に出ていく。
 誰も、お金を払っていないようだ。
 ここって食事はタダなのか?
 タダでも、あのお粥は食べたくないけどね。

 お客は、誰一人おしゃべりしていない。お互いに挨拶すら交わさなかった。
 ただ、銀仮面の横を通る時だけは、彼に深く頭を下げる。 
 銀仮面が食べている間に、表の道を例の『自走車』が一度だけ横切った。
 
 街ごとお通夜のような、この雰囲気はどうも好きになれないな。
 銀仮面を追い、食堂のような場所を出た俺は、歩きながらそんなことを考えていた。

 ◇

 次に銀仮面が立ちよったのは、やはり二階建ての大きな建物だった。さっきの「食堂」と較べても三倍以上の大きさだ。
 建物は円筒形でその周囲は円形の庭となっており、そこには芝生のような草が生えていた。
 そして、この建物は全て黒く塗られていた。
 建物の周囲を取りかこむように、円形の道が走っており、それは四車線くらいの幅があった。
 そこから放射状に道が出ているようだから、もしかすると、ここが町の中心かもしれない。

 正面にある大きな扉を開け、銀仮面が中に入っていく。
 俺はその後を追ったが、重要施設らしい建物に門番らしき者も、守衛らしき者もいないのが不思議だった。
 
 入ってすぐ、正面に大きな内扉があったが、銀仮面はそちらには向かわず、入り口右手にある階段を登っていく。
 緩やかな、そして長い階段が終わると、湾曲した二階の廊下に出た。おそらく円筒形である建物の外壁に沿って廊下が設けられているようだ。

 廊下を少し歩くと、左手に飾りがある扉が現われた。
 銀仮面は、その扉を開ける。

 そこには、ソファーベッドのようなものがいくつか置かれ、七八人が思い思いの格好でくつろいでいた。   
 その内、一人が近づいてきて声をかける。

「同士、これは?」

 俺を指さしたヤツの声からは、性別、年齢を判別することができなかった。なぜなら、この部屋にいる者は、全て銀色の仮面を着けていたからだ。
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