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第十二章 放浪編

第17話 家族の絆

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 史郎が見知らぬ異世界に召喚された頃、アリストにいる家族は彼の帰りを待ちわびていた。

「コー姉、パーパのお好み焼き、まだー?」

「メル、パーパは、すぐに帰ってくるって言ってたから、もうすぐだと思うわよ」

「おこ、早くたべたいなー!」

「そうね、あれは、ジューって美味しいもんね」

 史郎を待ちかねるメルを、コルナが慰めている。

「マンマ、パーパはいつ帰ってくるの?」

「もうすぐだと思うわ、ナル。
 さあ、早く学校へ行く用意をして」

 ナルとメルは手を繋ぎ、元気に玄関を出ていった。
 ルルとコルナは、史郎の帰宅が遅れているのを、それほど心配していなかった。史郎の性格をよく知る彼女たちは、彼がどこかにふらりとたち寄っているだろうと考えていたからだ。
 
 買い物に出ていたコリーダが帰ってくると、ルルがリビングに三人分のお茶を用意した。

「ルル、ナルとメルは?」

 お茶に口をつけてから、コリーダが尋ねる。 

「二人は学校へ行ったわ。
 それより、ギルドの方、どうだった?」

「キャロさんの話だと、地球世界からの連絡はまだ無いそうよ。
 アリストギルドからも、向こうに問いあわせたみたいだけど応答がないみたい。
 地球のギルドマスター、白騎士さんがまだ異世界間通信の魔道具に慣れていないから、こちらの問いかけに気づいてないかもしれないそうよ」

「そうだね、あの人、ちょっと頼りなかったわね」

 コルナは白騎士に会った時の事を思いだし、そう言った。
 
「柳井さんに連絡が取れたら、詳しいことが分かるんだろうけど」

 そう言うルルの表情は、落ちついていた。

「それはそうね。
 ルルはシローの事が心配ではない?」

「コリーダ、あなたには、まだ言ってなかったわね。
 私、神樹様から、ご加護を頂いているの」

「ご加護?」

「ええ、強いものではないけれど、ある程度の未来予知ができるの」 

「ええっ!
 それ、凄い事だよね?」

「そうかな。
 とにかく、シローが危機に陥るようなことがあれば、私が何か感じるはずなの」

「そうだったのね、だから落ちついてたのね」

「黙っててごめんなさい」

「いや、これは私が悪かった。
 加護というのは、簡単に他人の前で話していいことではないのだろう?」

「ええ、だけどあなたになら話してもいいの」

「そ、そうか?」

 コルナが立ちあがり、ソファーに座るコリーダの後ろから抱きつく。

「当たり前でしょ、私たち、家族なんだから」

「コルナ……」

 コリーダが目を閉じ、自分の首に回されたコルナの腕を撫でた。

「ねえ、『ポンポコ商会』で衣服部門に力を入れはじめたって知ってる?」

 コルナが急に話題を変えたので、コリーダが戸惑う。

「えっ?
 そうなの?」

「デロリンがキツネさんから聞いてきたんだけど、水着も売るんだって」

「へえ、そんなものまで」

「コルナと話したんだけど、水着を新調しない、コリーダ?」

 ルルが、コリーダに微笑む。

「だが、私のは、まだそれほど着てないのだが――」

「地球世界の資料によると、毎年替えたりするそうよ、水着は」

 地球の文化に詳しいルルが説明する。

「そうなのか?」

「ねえ、新しい水着で、お兄ちゃんを驚かせちゃお!」

「そ、そうだな」

 そう言ったコリーダの手をルルが取り、彼女をソファーから立たせる。

「今日は『やすらぎの家』にキツネさんが来てるそうだから、水着の事、お願いしておきましょう」

「そうよ、コリーダ。
『思いたったら』……ええと、何だっけ?」

「もう、コルナったら、また大聖女様から変な言葉習ったんでしょ?」

「し、失礼ね、ルル!
 変な言葉じゃないもん!」

 三人がワイワイやっていると、冒険者姿のリーヴァスが姿を見せた。

「「「おじい様、お帰りなさい」」」

 ルル、コルナ、コリーダが声を合わせる。

「ただいま。
 ナルとメルは、学校かな?」

「はい、そうです」

 ルルはリーヴァスが手にした荷物を受けとり、仕分けにかかる。
 彼がソファーに座ると、コルナ、コリーダも腰掛けた。 

「シローは、まだなのかな?」

「「はい、おじい様」」

「ふむ、予定より遅れているようだが、彼のことだ。
 心配は要るまい」

「はい、ルルとコルナからも、そう言われました」

「ははは、コリーダは、彼の事がよほど……だな」

「も、もう、おじい様、からかわないでください!」

 コリーダが両頬を手で押さえ俯く。
 
「ナルとメルが、お好み焼きを待ちかねているから、そろそろ帰ってきてほしいです」

「コルナの言うとおりだな」

 遅くなる時、連絡ぐらいするだろうシローがそれをしないのが、リーヴァスには少し気がかりだったが、三人の娘たちを不安にさせてもいけないので、それは口にしなかった。
 
「おじい様、『やすらぎの家』でキツネさんに会ってきます」

 荷物の仕分けが終わったルルが顔を出す。

「ああ、ゆっくりしてきなさい。
 今日の夕方は、みなで『カラス亭』に行くかな」

「まあ!
 メルが喜びます!」

 三人の娘が手を取りあい、離れに向かう後姿を、リーヴァスは微笑みながら眺めていた。
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