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第十二章 放浪編
第16話 ぴかぴかの街
しおりを挟む大陸の上に戻り、高度を調節してその形と大きさを観察する。
大陸の形は円をしている。余りにもその形が綺麗なので、もしかすると、人の手が加わっているかもしれない。
大きさは、オーストラリア大陸の半分くらいだろうか。
南八割は、緑に覆われており、都市らしきものは小規模なものが一つだけだ。高度を下げると、小さな集落がいくつか散らばっているのが見えてきた。
どう見ても、人口は少なそうだ。
さらに高度を下げると、都市以外は、ほとんどが耕作地だと分かる。
これだと人口も増えようがないだろう。
そして、なぜか酪農のようなことをしている様子はなかった。家畜らしきものがいないのだ。
これで、ますます銀仮面が言っていた、「低い生産力」が裏づけられることになった。
俺は大陸の全体、そして各地域を点写真として記録しておく。
もちろん、大陸全土に、調査用の点をばら撒いておく。
小屋に残して来た点が、銀仮面と少年が起きて活動を始めたことを伝えてきたので、元居た森の上空まで移動する。
点ちゃん1号の機内でボードを出し、それに乗ってから機体をしまう。
透明化の闇魔術を掛けたボードを地表まで下げる。
ちょうど、昨日昼寝した辺りに降りると、木立から、棍棒を持ったタム少年が飛びだしてきた。
「シロー!
無事だったのか!?」
どうやら、昨日あれほど俺の事を怖がっていたのに、一応心配してくれたらしい。
「お早う、タム。
ちょっと散歩してたんだ」
「この森には、恐ろしい『悪魔』が沢山いるんだぞ。
お前なんか、ぱくっと食べられちゃうんだからな」
「そうか、心配かけたな」
「し、心配なんかしてないからなっ!」
ツンデレ少年は顔を赤くしている。
「それより、昨日のアレ、もう無いのか?」
「アレ?
ああ、お好み焼きのことか」
「ふうん、『オコノミヤキ』って言うのか」
「もう、朝ご飯は食べたのか?」
「いや、まだだよ」
「じゃ、今日は『クッキー』ってのを食べさせてやろう」
「そ、そうか?
もう一度、『オコノミヤキ』が食べたかったなあ」
「じゃ、また、昼食にでも出してやるよ」
「その『チュウショク』ってなんだ?」
「ああ、あれが空のてっぺんに来る頃に食べる食事だ」
俺は木々の上に顔を出した、太陽を指さす。
「シロー、食事は朝と夕方に二回だけだぞ」
「そうか。
俺の世界では、三回だった。
俺はここでも一日三回食事するから、よければタムも付きあえよ。
一人で食事するのは寂しいからな」
「一人で食べるのが寂しいって、変なヤツだな、シローは」
もしかすると、この文明では食事は一人でするのが普通なのかもしれない。
俺とタルは、木立に隠れた小屋に向かった。
◇
蜂蜜を掛けたクッキーに、タムが大喜びした朝食の後、銀仮面は、俺を連れて街に行くと告げた。
白猫は、小屋に残していくよう言われる。
小屋から少し離れた所にある茂みには、軽四自動車をさらに小型にしたようなものが隠されていた。
黄色いタイヤが、前に一つ、後ろに二つ着いている。
それは二人乗りで、後ろに小さな荷台のようなものがついていた。
俺に生成り色の長そで長ズボンを手渡した銀仮面は、少し離れておれの服装を確認し、気になる所を整えていた。
目隠し替わりだろう、俺は黒い布をかぶらされ、膝を抱える形で、荷台に乗せられた。
念入りに、布らしきもので覆ってある。
荷台には、折りたたんだ毛布が何枚か敷かれているから、銀仮面が『自走車』と呼ぶ車が走りだしても、地面から伝わる揺れをかなり防いでくれた。
それでも、長い時間その姿勢だったから、下にしていた左肩から左腰にかけて、かなり痛くなった。
『自走車』がやっと停まる。
肩をポンポンと叩かれたので身体を起こす。
「痛たた……」
さすがに、身体が強張っている。
黒い布が取られると、そこが薄暗い倉庫のような場所だと分かる。
小さな体育館ほどあるその空間には、袋詰めにされた何かが沢山積みあげられていた。
袋には、白いものと黒いものがあった。
「これは何なの?」
「それ『ウイー』と呼ばれる穀物だ」
白い袋を指さした俺に、銀仮面が答える。
「で、こっちの黒いのは?」
「そ……それは、肥料だ」
不自然な間が、明らかに怪しいけど、ここは黙っておいてあげましょう。
倉庫の入り口は、大きな両開きの扉になっていて、俺たちが外に出た後、銀仮面はそれを片方ずつ閉めていた。
どうやら、カギは掛けないようだ。
倉庫を出た所は裏路地だったのだろう、人影はない。
しかし、一つ角を曲がり、大きな通りに出ると、思った以上に人通りがあった、
住人は総じて小柄で、見た目の年齢が七才くらいから二十才過ぎの人までで、三十代以上にみえる者は一人もいなかった。
全員が生成りのワンピースを着ている。
彼らは、銀仮面に深くお辞儀していく。
街は非常に清潔で、ゴミと言うか、チリ一つ落ちていないようにみえた。
まさに、ぴかぴかだね。
どうやら、彼は高い地位にいるらしい。
人々が、俺の方をチラリと見る視線は、頭に巻いた茶色い布にむけられていた。
森の小屋を出発する前、銀仮面は俺にそれを取るように言ったが、下から黒髪が出てくると、少し考えた後、また布を頭に巻くよう指示したのだ。
それはそうだろう。
この世界の住民は、みんな頭の毛をぴかぴかに剃りあげていた。
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