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第十二章 放浪編
第15話 酸の海
しおりを挟むその夜、俺は床が無く、地面がむき出しの部屋で寝た。
森でたっぷり昼寝したので、なかなか寝つけない。
銀仮面が用意してくれた、マットレス代わりの枯草と毛布はそのままにしておき、点収納からコケットと毛布を出す。
サイドテーブルも出し、エルファリアのお茶を用意する。
コケットに横になり、腰から下に毛布を掛ける。
それを見たブランが、すぐにおヘソの辺りに上がってきて丸くなる。
猫は沢山寝る動物だからね。本当はスライムだけど。
食事の後で、銀仮面が話したことを考えてみる。
ヤツの言っていることは無茶苦茶だが、こちらが元の世界に帰りたいというのは確かだ。
銀仮面は、もしかすると頭がイイのかもしれない。
パンゲア世界、アリストでは、俺が帰ってこないから家族が心配しているはずだ。
ナル、メル、リーヴァスさん、コルナ、コリーダ、ルル。
家族の顔が次々と浮かんでくる。
不幸中の幸いは、地球世界へ行きたがっていた家族を連れてこなかったことだ。もし、連れてきていたら、彼女たちもこの事態に巻きこむことになっていた。
点ちゃん、これからどうすればいいと思う?
『(Pω・) とにかく、今のままでは、分析しようにも情報が少なすぎます』
そうだよね。
まずは、情報収集っていう方針でいいかな?
『(・ω・)ノ それでいきましょう』
了解。
やること決めたら、なんか眠くなってきたな。
『(*ω*) 昼間、あんなに寝たのに? だいたい、ご主人様は――』
点ちゃんのお叱りの言葉は、薄れゆく意識の中まで入ってこなかった。
◇
昨日、たっぷり睡眠を取ったからか、起きるとまだ夜明け前だった。
『枯れクズ』のネックレスで周囲を照らし、テーブルの上にあるカップを手にする。
エルファリアのお茶は、冷めても風味がよい。
それを飲みほしてから、コケットとテーブルを点収納に一旦しまう。
まだ寝ているブランは、左脇に抱えている。
音を立てないように、小屋から外にでて、その周囲をとり囲む木のカーテンを抜ける。
まだ暗い森の中は、全てが眠っていた。それは俺が好きな風景の一つだ。
夜の森は、どの世界でも変わらないな。
木々と交信する力を使い、開けた場所を探す。
恐らく北だと思える方角に、森の切れ目があった。
木々と話せるようになってから、方角が分かるようになったんだよね。
北に点を飛ばし、それが森を抜けるのを待つ。
森を抜けた場所がどうなっているか、点からの映像を受信する。
森の向こうは草原が広がり、そのさらに北は、耕作地になっているようだ。
俺は偵察に利用した点を使い、その場所へ瞬間移動で跳ぶ。
草地に点ちゃん1号を出し、それに乗りこむ。
はるか上空に1号を固定し、日の出を待つ。すでに空の一部が白みかけているから、間もなく夜が明けるだろう。
さっきしまったばかりのコケットを出し、それに腰掛ける。備えつけのテーブルの上に、蜂蜜が掛かったクッキーと熱々のお茶を出す。
日本で買ってきた砂糖、和三盆を甘味としてお茶に入れる。
今日はたくさん動くことになりそうだから、たっぷりカロリーを取っておこう。
『( ̄ー ̄)つ これで昼寝してゴロゴロしたら太りますよ。大丈夫ですか?』
点ちゃん、その顔は疑ってる、疑ってるね。
そんなことするわけないじゃん。
だけど、クッキー食べたら、少し眠くなってきたな。
起きたばかりだけど、横になってもいいよね?
『(; ・`д・´) 良いわけあるかいっ!』
◇
やがて太陽が顔を出すと、『田園都市世界』の全貌が顕わになってくる。
この世界は海に囲まれた比較的小さな大陸が一つだけあり、後は小さな島が散在している。
荘厳な朝の光に照らされた海は、妙に白っぽい色をしていた。
高度を下げ、海の水を採集する。
海面から二十メートルほどの所から、シリンダー型にしたシールドを下ろしていく。
それが海面に触れたとたん、巨大な触手がシリンダーを海に引きずりこんだ。
もう少し機体を下げていたら、触手がこちらに届いていたかもしれない。
危ないところだった。
触手はタコのような軟体動物のものではなく、黒い殻に覆われ、いくつも節があった。
二つ目のシリンダーは、無事海水を採取して戻ってきた。
点ちゃん、どうだい?
『(Pω・) ふむふむ、かなり強い酸性ですね』
かなり強いってどのくらい?
『(・ω・)ノ 地球世界の基準でpH2ってところでしょうか』
えええっ!
ホントに強い酸性だ。
よく生き物が棲んでるね」
『(Pω・) 恐らく長い年月をかけて、この海に順応したのでしょう』
しかし、この海だと、『海の幸』は期待できそうにないな。
銀仮面が、この世界は人口の割に生産力が低いと言ってたけど、あれは本当かもしれない。
さて、お次は大陸の調査だな。
点ちゃん、行こうか。
『く(・ω・) 了解!』
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