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第十一章 ポータルズ列伝

点ちゃん編 第3話 点ちゃんと銀髪の少女

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 ご主人様がギルドでお風呂を改造した日、そして、泥棒が『くつろぎの家』にやって来た日、ナルちゃんとメルちゃんがいつものように学校から出てくる。

 なぜそれを点ちゃんが見てるのかって?

 これは、ナルちゃんについてた『・』から分かれた『・』なの。 
 ナルちゃんの頭から少し上に浮いて、二人を見ているんだよ。

 今日も、二人は仲良しの女の子と一緒に帰ってるね。
 
「ナルちゃん、パン屋さんで新しいお菓子を買ってかえろ!」

「うーん、買いたいけど、私もメルもお金を持っていないのよ、キャシー」

 ぽっちゃりした背が低い女の子が、目を大きくする。

「えーっ?
 ナルちゃんち、お金持ちでしょ?」

「よく分かんない」

「おこづかい、もらわないの?」

「うーん、欲しいときに買ってもらうの」
「買ってもらうー」

「そっか……じゃあ、私が買って分けたげる」

「でも、学校の行きかえりには、お菓子を食べちゃダメって言われてる」

「あははは、メルちゃんは、よく食べるもんねえ」
 
「食べるー」

 女の子たち三人が、そんなことをおしゃべりしながら歩いているところに、二人の男性が近づいてきた。

「あっ、デロンチョだっ!」

 メルちゃんが、大きな声を上げる。

「デロリンさん、チョイスさん、お帰りなさい」

 ナルちゃんが挨拶したこの二人は、ご主人様の家で働いているの。
 デロリンさんは太った中年の人族、チョイスさんは若いエルフだよ。

「ナルちゃん、メルちゃん、ただいま。
 二人とも学校から帰るところ?」

 デロリンさんが、丸い顔にお日様のような笑顔を浮かべて話しかける。
 
「デロリンさん、ナルちゃんにお菓子買ってあげて!」

 彼と顔見知りのキャシーが、いきなりお願いしてるね。

「えっ?
 どうしたの?」

 そう尋ねたのはチョイスさん。

「ナルちゃんがね、お金を持ってないんだって。
 だから、お菓子が買えないの」

「うーん、キャシーちゃん、それはナルちゃんとメルちゃんのマンマがダメって言うと思うな」

 チョイスさんは、エルフという種族に特徴的な長い耳をぴくぴくさせた。

「えーっ、ちょっとくらいいいじゃない」

「だめだよ。
 そんなことしたら、俺たち、ルルさんから叱られちゃう」

 チョイスさんは、なぜか顔色が青くなってる。
 キャシーちゃんは、まだまだ言いたいことがあったみたいだけど、それはできなかったの。
 なぜなら、小さな青い旗を持ち、冒険者服を着たお姉さんが、話しかけてきたからなんだ。
 青い旗には、座った姿の白猫が描かれてる。その白猫は、なぜか右手を肩の辺りに上げた格好をしていた。

「あのう、ちょっとお尋ねしますが……」

 お姉さんは、なぜか大人のデロリンさん、チョイスさんにではなく、ナルちゃんに話しかけてる。

「はい、なんでしょう?」
 
 ナルちゃんは、すぐそれに答えたの。子供なのに、凄くしっかりしてるでしょ。父親であるご主人様が自慢するわけだよね。

「あのう、私、マスケドニアから来た、『白ネコ旅行社』の者ですが」

「すみません、何のご用でしょう?」

 さすがに、デロリンさんが話に割りこんだね。

「あのう、今日は『ポポの散歩』はないんでしょうか?」

「ないよー」

 答えたのは、メルちゃん。

「ポポロの散歩は、休養日と『水の日』だけだよ。
 今日は『風の日』だよ」

 メルちゃんが言ってる『水の日』『風の日』と言うのは、一週間六日の内、三番目と四番目に当たるんだ。
 人間は、どうしてわざわざ、日にちに名前をつけるんだろう?

 あれ? メルちゃんの説明を聞いた、お姉さんが座りこんじゃった。

「ど、どうしよう!
 大変なことになったわ!」

「一体、どうしたんです?」

 青い顔をしたお姉さんに、チョイスさんが話しかけた。

「私、ミネリと言います。
 マスケドニアの王都から、有名なポポの散歩を見に来ました」

 女の人はそう言うと、道の脇にある公園を指さしたの。
 おばさんやおじさん、お婆さんやお爺さん、合わせて三十四人がそこにいた。
 みんな、チラチラこちらを見ている。
 きっと銀髪の少女がポポを散歩してるっていうのは、聞いたことがあるんだね。
 他の人たちはブロンドの髪なのに、ナルちゃんとメルちゃんは、銀髪だから目立つんだよ。

「このままでは、お客さんに申し訳がたちません。
 どうか、散歩の日を今日にずらしていただけませんか?」

「ダメ!」

 あら、メルちゃんは厳しいなー。
 お姉さんが泣きそうになってる。

「ポポはね、「せんさい」な魔獣だから、散歩は決めた日にするようにって、パーパから言われてるの」

 ナルちゃんが、きちんと理由を話してる。

「そ、そんなあ……」

 まだ座り込んでいるミネリお姉さんが泣きだしちゃった。
 デロリンさんと、チョイスさんも困った顔をしてる。
 しょうがないなあ。
 ご主人様に念話しよう。

『(・ω・)ノ ご主人様ー!』

『あれ、これはナルと一緒にいる点ちゃんだね?』 

『(^ω^) そうですよー。ナルちゃんたちがちょっと困ってるの』 

『どうして?』

『(・ω・)ノ かくかくしかじかです』

『あー、そういえば、ミツさんがマスケドニア支店に旅行部門を作ったって言ってたね』

『(・ω・) なーんだ、『白ネコ旅行社』ってご主人様の会社だったの?』

『そうだね。
 ポポの散歩が見たいのか。
 点ちゃん、こういうアイデアはどう?』

 それからご主人様と、「遊び」の打ちあわせをした。

『(^▽^)/ わーい、おもしろそう!』

『ナル、メル、聞こえるかい?』 

 ご主人様は、ナルちゃんとメルちゃんに念話であることを伝えたの。

「やったー!」
「わーい!」

 突然、二人の子供たちが歓声をあげたので、ミネリって女の人も、キャシーやデロリンさん、チョイスさんも驚いてる。

「ナルちゃん、メルちゃん、どうしたの?」

 キャシーちゃんが尋ねてる。 

「今から空を飛ぶの」
「ベンちゃん、ベンちゃん!」

 二人が何を言っているか分からないキャシーちゃんが、キョトンとした顔をしてる。
 地面に大きな影ができたね。
 上空を二匹の大きな魔獣が飛んでる。
 彼らの棲み処、『黒い森』から、ご主人様が二匹を瞬間移動させたんだよ。

「な、なんだありゃっ?!」
「おい、あれって……」
「ま、まさか、ワ、ワイバーン!」
 
 公園に集まってた旅行者が、悲鳴を上げる。
 そんな人たちに、ナルちゃんが声をかけてる。

「今日はポポの散歩をしないかわりに、ワイバーンと空中散歩をします」

「さ、散歩!?」
「ワ、ワイバーンと!?」
「ど、どういうことだ!?」

 旅行者が騒いでいるところから少し離れて、二匹のワイバーンが静かに着地した。
 ナルちゃんとメルちゃんが、そこに駆けていく。
 二人が近づくと、ワイバーンたちが首を地面に着けた。

「「いい子いい子ー!」」

 銀髪の少女二人がワイバーンの頭を撫でている。
 ワイバーンは、気持ちよさそうに目を細めた。
 旅行者はみな凍りついたように動きを停め、それを見ている。
 
 ナルちゃんとメルちゃんはワイバーンの尻尾を伝い、その背中に乗った。

「ベンちゃん、飛んで!」

 メルちゃんが、ワイバーンに声を掛ける。
 二匹のワイバーンがぴゅーって、空に舞いあがった。
 二匹は上空で大きな円を描くと、公園のすぐ上をぐるぐる飛びだした。

 それ気づいた街の人たちが騒ぎだしたみたい。

「な、なんだっ!?」
「ワイバーンかっ!」
「あっ、背中になんか載ってるわ!」
「ナルちゃんとメルちゃんだね」
「なーんだ」
「いつものことだな」
「ふう、よかった」

 街の人たちの騒ぎが急に収まったの。
 みんな、ナルちゃんとメルちゃんが魔獣に乗るのを見慣れてるからね。
 街の人たちが静かになると、今度は旅行者たちが騒ぎだしたの。

「ホ、ホントにワイバーンに乗ってる!」
「なんてこった!」
「凄いわっ!」

 公園の上を飛んでいたワイバーンが降りてきたよ。
 ナルちゃんとメルちゃんを地面に下ろした二匹の魔獣は、ぴゅーってお空に消えちゃった。
 棲み処にしている『黒い森』に帰ったんだね。

 旅行者が、二人の周りに集まってきた。

「二人とも凄いわ!」
「お名前は、なんていうの?」
「お菓子食べない?」

 旅行者のおじさん、おばさんが手渡すお菓子で、ナルちゃんとメルちゃんの両手は一杯になってる。
 デロリンさんに肩車してもらって、友達二人が飛ぶのを見ていたキャシーちゃんが笑ってる。

「お菓子いっぱいもらえたね」

「うんっ!
 もぐもぐ」
「メルったら、まだ食べちゃダメだよ!」

 ナルちゃんとメルちゃんは、真竜が人化している姿だから、人間の食べ物が彼女たちに害にならないか、いつも『・』がチェックするんだよ。
 今回もらったお菓子は、どれも大丈夫みたい。

『(・ω・)ノ 二人とも、食べていいよ』

「わーい!」
「マンマに怒られないかしら?」

 メルちゃんはすぐにお菓子を食べだしたけど、ナルちゃんはマンマが気になってるみたい。

『(・ω・)ノ ナルちゃん、マンマに話したら、食べてもいいって』 
 
「やったー!
 キャシー、これ上げる!」

 三人の子供がお菓子に夢中になっているのを、デロリンさんとチョイスさんは微笑んで見守っている。

 旅行者は、まだ座りこんでいる案内役のお姉さんをとり囲んだ。

「こんな刺激的な旅行は初めてじゃよ!」
「ほんに、孫に自慢できるわのう!」
「でも、ワイバーンに乗って空を飛ぶ少女って、信じてもらえるかしら?」
「そりゃそうだ、あはははは!」
「ええ旅行に案内してもうたわ」

 どうやら、ミネリさんは、案内役の務めを果たしたみたい。
 よかったね。
 やっと立ちあがった彼女が、ナルちゃんとメルちゃんにぺこぺこ頭を下げている。

 でも、なんで頭を何度もさげるとき、「ぺこぺこ」って言うのかな?
 そんな音なんかしていないのに。
 今度ご主人様に尋ねてみよう。

 ◇

 デロリンさん、チョイスさん、ナルちゃん、メルちゃんは、四人並んで『くつろぎの家』まで帰ってきた。
 大人たち二人は、外を回って離れの『やすらぎの家』へ向かったね。

 ナルちゃんとメルちゃんは、お庭を見て驚いている。
 別の『・』がお庭に出したポポロ、ポポラが見える。黒猫ノワール、白猫ブラン、猪っ子コリンもいるね。

「あれ?
 ポポロとポポラがお庭に出てる!?
 カギ閉めるの忘れてたかなあ」

 ナルちゃんは、そう言うと、ポポロとポポラを『ポポのお家』へ連れていく。
 メルちゃんは、ノワールに何か話しかけてる。

 みんな家の中に入っちゃったから、神樹様たちとおしゃべりでもしようかな。
 神樹様と話すのは好き! 
 だって、すっごく楽しいんだよ。
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