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第十一章 ポータルズ列伝
点ちゃん編 第1話 点ちゃんとご主人様
しおりを挟むご主人様は、毎日夜になると『ベッド』っていう台に横たわって動かなくなる。
アカシックレコードからの情報だと、これは『寝る』っていう行為なんだって。
本当は夜も相手をして欲しいんだけど、『人間』って生物だから仕方がないみたい。
そういえば、友達のブランちゃんやノワール君、コリン、ポポラやポポロも夜はじっとしてるんだよね。
人間だけでなく、魔獣も夜は寝るみたい。
そういえば、初めてご主人様に会った時、長い事こちらに気づいてくれなくて、本当に悲しかったなあ。
あれに比べれば、今はマシかもね。
そうそう、最近、ご主人様以外の人ともお話できるようになったよ。
凄いでしょ。
今では『くつろぎの家』のお庭にたくさんの神樹様も来てくれたから、とっても賑やかになったの。
それまでは、聖樹様や神樹様、竜王様、ブランちゃんたちやポポラちゃんたちとしかおしゃべりできなかったんだよ。
遠くに住んでたりするから、話し相手はブランちゃんたちだけ。寂しかったなあ。
あ、ご主人様が起きたみたい。もう朝だね。
◇
「ふわ~、点ちゃん、お早う」
『(≧▽≦) オハヨー!』
「今日も元気だね」
『p(≧▽≦)q 元気元気!』
「今日は、朝からギルドに行くから、クッキーとお茶を出してくれる?」
『~旦(^ω^) はーい!』
「あ、ベッドの上じゃなくて、一階のリビングに行ってからでいいよ」
『ぐ(・ω・) 了解』
ご主人様は、時々、言葉が足りないことがあるの。
正確に話しかけてほしいなあ。
◇
ご主人様は、歩いてギルドまでやって来た。
瞬間移動を使えば一瞬なのに、なぜか歩いてギルドまで来ることが多いの。
なんでだろう?
「お早うございます」
「おう、早えな」
この大きなおじさんは、マックさん。ご主人様やリーヴァスさんのお友達だよ。
「ええ、今日はキャロに頼まれて、ギルドの風呂場を改装に来ました」
「おお!
そりゃ、ありがてえ。
もしかして、あれか?
お前ん家のみたいに温泉になるのか?」
「ええ、その予定です」
「そりゃいい!
ありゃいいもんだ。
冒険の疲れがとれるぜ」
部屋に緑色の服を着た、小さな女の人が入ってきた。
この人は、フェアリスっていう種族で、『キャロ』って名前。身体は小さいけれど、ここのギルドマスターなんだよ。
「シロー、お早う!」
「ギルマス、お早うございます」
ご主人様は、キャロちゃんと二人だけの時は、普通に「キャロ、お早う」って言うんだけど、他の冒険者がいるとこんな感じで挨拶するの。
なんでだろう。
『点ちゃんも、お早う!』
わーい、キャロちゃんが念話でご挨拶してくれた!
『(^ω^)ノ キャロちゃん、お早う!』
『今日は、ギルドがお世話になるわね』
『へ(・ω・)へ お風呂作るの、ご主人様の趣味みたいなものだから』
『ありがとう。
何かして欲しいことがあったら言ってね』
『(*'▽') わーい!』
ご主人様が『・』を着けてるから、キャロちゃんとは、時々それでおしゃべりしてるの。すっごく楽しいんだよ。
◇
「点ちゃん、キャロから浴室の隣部屋も使っていいって言われてるんだけど、どうしようか?」
『d(u ω u) そうですね。男女別に二つお風呂を作ればいいんじゃないでしょうか?』
「そりゃいいね!
メンテナンスの手間はかかるけど、その辺はなんとでもなるもんね」
『(・ω・) シールドを浴槽に多層に貼っておいて、汚れたら外せばいいんですよ』
「おっ!
そりゃいいね!
ウチのお風呂も、次のメンテナンスからそれでいくかな」
『(・ω・)ノ お湯の浄化はどうします?』
「そうだね。
実験中の『浄化石』は、どうなってるの?」
『品(Pω・) ほぼ完成してますよ』
「いいね!
あれができると、お湯の浄化が楽になるから」
この『浄化石』っていうのは、ご主人様と一緒に考えた魔道具の一つなんだよ。
小さな石に、『融合』っていう魔法を付与してあるの。
お風呂にこの小石をポンと投げこむだけで、お湯が綺麗になる仕組みだよ。
石の中をお湯が通るとき、汚れが石にくっつくようになってる。
汚れた石は集めておいて、何かに使う予定なんだ。
ご主人様は、このアイデアを地球世界で役立てるって言ってた。
◇
「ふう~、終わったな。
点ちゃん、ご苦労様」
『(*'▽') 楽しかったー!』
「点ちゃんは、何でも楽しんでるね」
『(^▽^)/ ご主人様と一緒に遊ぶと楽しいの!』
「ははは、点ちゃんの場合、竜王様と戦うのだって楽しんでたからなあ」
『(*'▽') あれは楽しかったなー! ご主人様、またやって!』
「いや、あれ、俺は死ぬかと思ったから。
もうこりごり」
『(*´з`) ちぇ~っ、残念』
あ、キャロちゃんが来たね。
「シロー、終わったみたいね。
うわっ!
なにこれ!?
ピッカピカじゃない!
それに浴槽が凄く広いわね。
これ、本当にお風呂?」
「ははは、喜んでくれて嬉しいよ」
「お湯はどうやって沸かせばいいの?」
「これを使って」
ご主人様は、キャロちゃんにブランちゃんくらいの大きさの茶色いものを渡した。
形だけなら地球世界の「サツマイモ」っていうのに似てるんだって。
「あれ?
これってなに?
初めて見るわね。
粗布のような手触りね」
「これはね、温泉水が湧きだすアーティファクト。
二つ渡しとくから、みんなには秘密にしておいて。
ここを押すとお湯が出るよ」
ご主人様がアーティファクトを親指で押すと、お湯がぴゅーって出てきた。
「でね、もう一度押すと、お湯が止まるから」
「ア、アーティファクトって秘宝じゃない!
そんなもの、もらっていいの?」
「たくさんあるからね。
それにギルドには、今までお世話になってるから」
「……まあ、シローと点ちゃんがやることは、いつもこんな感じよね。
でも、このアーティファクト、二つもあるんだけど」
「ああ、こっちは男性専用のお風呂。
隣に女性専用のお風呂も作ったから」
「……す、凄いわね」
「まだまだ改良点はあるから、そこはおいおい工夫していくよ」
「ありがとう!
でも、こんな素敵なお風呂を作っちゃったら、冒険者になりたいって人が増えちゃうなあ」
「ははは、アリストギルドが賑やかになるのはいいじゃない」
「まあ、それはそうだけど」
◇
それから数日たって、ギルドのお風呂がオープンしたよ。
冒険者のみんなは、もの凄く喜んでるみたい。
「キャロちゃん、いったい何、あのお風呂!
すっごく綺麗だし、広いし、もう、超気持ちイイ!
それに、なんだかお肌がスベスベするの。
あんなの初めて!」
若い女性冒険者が感動してるね。
「さすが黒鉄シローだぜ!
おれ、風呂嫌いなんだが、あの風呂だけは別だな。
天井と壁に青空の絵が描いてあるって、どんだけ凝ってんだよ」
本当は絵じゃなくて、ご主人様が『点ちゃん写真』って呼んでるものなんだけどね。
「男湯は青空かー!
女湯は夜空だったわよ」
「うっへーっ、凄えや!
そりゃ、見てみてえなあ!
キャロちゃん、時々、女性用の風呂にも入れるようにしてくれよ」
「そうね。
お風呂は一月毎に、男女入れかえようかしら」
「「「おおーっ!」」」
「お、俺はキャロちゃんと混浴でも……」
「「「バカーっ!」」」
相変わらず、ここのギルドは賑やかだね。
だけど、ご主人様って、どうしてお風呂のことになると、あそこまでこだわるのかな。
なぜだか分からないなあ。
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