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第十一章 ポータルズ列伝

プリンスの騎士編 第6話 ダンジョンと冒険者(1)

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 今回、ギルドが冒険者体験に選んだ場所は、アリストで最も古くから知られているダンジョンだ。
 名前を『古(いにしえ)の洞窟』という。
 ダンジョンの名前は普通、『〇〇ダンジョン』と、最後に『ダンジョン』とつくのが普通だが、『古の洞窟』は、ギルドが設立された二百年前より、はるか昔から知られているものだ。
 そのため、以前から使われている名前が、今でも通り名として使われている。

 すでに攻略法も確立されており、ダンジョンとしてのランクも鉄ランク、つまり最も攻略が容易なものとなっている。
 トラップの類もなく、出現するモンスターは比較的弱いものばかりで、一階層しかない。広さも狭い部類に入る。

 アリストギルドでは、新人にダンジョン攻略を指導するため、ここが使われることが多い。
 なぜなら、攻略が容易であるということは、それだけ報酬も少ない事を意味する。普通の冒険者が攻略するには『うま味』がないのだ。 

 今回はこのダンジョンの途中までしか攻略しないから、そこに向け歩いている冒険者たちも、みな鼻歌交じりだ。
 ただ、初めてダンジョンに挑む者にとは、やはり特別な思いがあるようだ。

「くう~、やっとダンジョン初挑戦かー!」

 リンド少年が、顔を紅潮させ声を上げる。

「おいおい、リンド!
 今から気合を入れすぎて、ダンジョンでへばらないようにしてくれよ」

 しっかり者のパーティリーダー、スタン少年がすかさず突っこむ。

「そうよ。
 あのシローさんだって、ダンジョンに挑んだのは、冒険者になって一年以上たってからだって言ってたでしょ」

 魔術士である少女スノーが、さらさらのブロンドを頭の後ろで束ねながらそう言った。

「だって、冒険者になってから、ずうーっと行ってみたかったんだよ!」

「ガハハハ!
 リンド、気持ちは分かるぜ!
 ワシも最初は、そうだったからなあ」

 マックがリンドの頭を撫でながら声を掛けた。

「あ、兄貴、わ、私たちは、どうしたら――」

 リーヴァスを「兄貴」と呼ぶことをみんなから拒絶された白騎士は、マックをそう呼ぶことにしたらしい。

「安心しな!
 これだけのメンバーが揃ってんだぜ。
 たとえ寝てても大丈夫だ」

 マックは、前を歩く冒険者たちを指さした。
 どうやら、サポート役で参加した冒険者は、比較的ランクが高い者が多いらしい。

「「リーヴァス様に来てほしかったなー!」」

 黄騎士と緑騎士の声が揃う。
 今回、リーヴァスはお城に用事があるとかで参加していない。それはシローも一緒で、同行するよう白騎士からずい分言われたらしい。
 彼の事だから、茫洋とした顔でのらりくらりそれをあしらった。シローがいないのも白騎士が不安に感じている理由の一つだ。

「プリンスも!」

 黒騎士がぼそりと言う。彼女はプリンスの参加を望んでいたのだろう。ただ、名前だけでなく、すでにアリスト国の正式なプリンスとなったショータがダンジョン攻略に参加するのは、たとえ鉄ランクダンジョンとはいえ、どだい無理な話だ。

「くるくるくるくる、プリンスがきっと来る~♪」
  
 桃騎士は呪文とも言えないものを口にしながら、プラスチックの魔法杖をくるくる回している。
 
「桃騎士がそんなことすると、本当に実現しそうなのが怖いわよねえ」

 白騎士が言葉では呆れながら、なぜか感心したような顔をする。
 
「なに言ってるの!
 実現しそうな、じゃなく、実現するのよっ!」

「無理!」

 桃騎士の無謀な発言は、やはり黒騎士から突っこまれた。
 
「プリンスには、大事な仕事があるからなあ」

 なぜかマックが、彼に似合わぬ神妙な顔でそう言った。

「もうすぐだぞー!」

 前を行くベテラン冒険者から声が掛かる。

「さあ、みんな、こうなったらとにかく気合いよ、気合い!」

 ちょっと投げやりになっているところもあるが、白騎士は、とにかくパーティリーダーらしい発言をした。
 前方に森が見えてくる。

「あれは『霧の森』の南端ですね。
 森に入ってすぐのところに『古の洞窟』があるはずです」

 一見たよりなさそうに見えるスタン少年は、きちんと下調べしてきたらしい。まだ若いのに、さすがパーティリーダーと言えた。

「ウチのリーダーと交換したいわね」

 黄騎士の言葉が白騎士の胸をえぐる。 
  
「スタン、いい」

 黒騎士の言葉で白騎士は膝をついた。

「白騎士ー、落ちこまないの。
 私はあんたに期待してるんだから」

 珍しくまじめな桃騎士の言葉に、白騎士が立ちあがりかける。

「壁っ、壁っ、壁っ、白壁~っ♪」

 魔法杖を四角く振りながら放った桃騎士の言葉は、やはり、白騎士にクリティカルヒットした。
 彼は両手両膝を地面に着き、涙を流している。

「おい、そんなことしてる間はねえぞ!
 ダンジョンはすぐそこだ!」

 マックに襟首をつかまれ宙吊りにされた白騎士は、なぜだか子猫っぽかった。

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