上 下
499 / 607
第十一章 ポータルズ列伝

プリンス翔太編 第12話 守るべきもの

しおりを挟む

 競技会が終わってお城に帰ると、エミリーがボクに飛びついてきた。
 彼女は、地球世界から来ている同い年の少女なんだ。
 ボクは驚いた。いつも静かな彼女がこんなに感情を露わにすることは珍しいんだ。

「ショータ! 
 すごくかっこよかったよ!
 特に最後、壁をドーンってやったの」

 エミリーは青い目をキラキラさせて、魔術競技会の話をした。シローさんに透明化の魔術をかけてもらって客席にいたらしい。ただ、最後の『花火』は、見ずにお城へ帰ったそうだ。
 いろんな場面でボクが他の人に負けられないのは、特別な事情があるからなんだけど、一番の理由がエミリーなんだ。

 彼女は、偉大な存在である聖樹様から、特別なお役目を頂いている。どんなお役目かは、ここでは言えないけどね。そして、ボクが彼女の『守り手』をおおせつかっているんだ。
 言葉通り、エミリーを危険から守るお役目なんだよ。ボクの魔力が普通より大きいことも、きっとそれが関係していると思う。
 ボクが大きすぎる魔力を暴走させないように、魔術の先生とシローさんが話しあった上で、ボクをアーケナン魔術学院に留学させることに決めたそうだよ。

「ショータ、お庭に行こう!」

 エミリーがボクの手を引っぱる。
 城のお庭は森のようになっていて、そこには神獣様が住んでいる。ボクとエミリーは、神獣様と遊ぶのが日課になってるんだ。

 ◇

 次の日、学校に行くと、クラスのみんながボクの所に集まってきた。

「ショータ、お前、すげえな!」

 ヒゲのお兄さんが話しかけてくる。

「最後のドーンってやつ、も~しびれちゃった!」

 ボクの左腕を抱えたジーナが、ブロンドのポニーテールを揺らす。

「ショータ、私に水魔術教えてね」

 眼鏡のドロシーが、赤い顔でボクの右手を握った。

「うふん、ショータ~、私にもいろいろ教えて~」

 ララーナさんが、ボクの肩に手を置いて背中に体を押しつけてくる。

「あんたたち! 
 プリンスから離れなさいっ!」

 いつの間にか、戸口にルイが立っていた。
 皆が、さっと散って席に着いた。

「今日の放課後、シローさんが、お家の方に来てほしいとのことでした」

 ルイはそう言うと、みんなを見まわしてから教室を出ていった。
 教室は、シーンとしている。
 少しすると、誰かがポツリと言った。

「プリンス」

 やばい。秘密にしていたのに、プリンスだとばれちゃったかも。

「プリンス……ショータ様にぴったりのお名前」

 ジーナが、うっとりした顔でこちらを見ている。それより、「様」ってどうかな。同級生なのに。

「プリンスよ」
「プリンスね」
「プリンスだな」

 皆が、口々にささやく。
 ああ、これはもうだめだね。みんなは、ボクが本当にプリンスだとまで思ってないみたいだけど、あだ名がついちゃった。
 地球の小学校でも、あだ名は「プリンス」だったんだよね。

 これで、ボクがプリンスって呼ばれないのは、シローさんの家だけになっちゃった。今日は、学校帰りにあそこで癒されよう。

 シローさんの家に行くことを思うと、ボクの心は羽のように軽くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

罪人として生まれた私が女侯爵となる日

迷い人
ファンタジー
守護の民と呼ばれる一族に私は生まれた。 母は、浄化の聖女と呼ばれ、魔物と戦う屈強な戦士達を癒していた。 魔物からとれる魔石は莫大な富を生む、それでも守護の民は人々のために戦い旅をする。 私達の心は、王族よりも気高い。 そう生まれ育った私は罪人の子だった。

処理中です...