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第十一章 ポータルズ列伝
プリンス翔太編 第7話 学院対抗魔術競技会(1)
しおりを挟むアリストとキンベラ、両国の威信をかけた学院対抗の魔術競技会が翌日に迫った。
競技会の開催地はアリスト国内北部にあるルンダスという町だ。
サザール湖という大きな湖のほとりにある。
ボクが住んでいるアリスト王城から見ると、北西の位置になる。
白い家並みのとても綺麗な町で、ボクは以前から来てみたかったんだ。
アリストが今の王国になる前は、ここに王宮があったそうだ。
日本で言えば、京都のような街かもしれないね。
大会の前日、ボクとルイは早めに現地に入り、町をぶらつき珍しいお菓子を食べたりした。
ルイはとても楽しそうだった。
ボクたちアーケナン魔術学院が使う宿舎は、昔の迎賓館とかで、ものすごく立派な建物だった。
ただ、とても古い建物だから、石の壁や床には、あちこちにひび割れや欠けたところがあった。
建物の石は、日本の大理石に似ていて、つるつるとした手触りだった。
夕方になると大きな部屋に出場選手や会場運営の生徒が集まって、みんなで食事した。
各学年の先生も一人ずつ参加していて、一回生の教師陣からは、ボクの担任マチルダ先生が来ていた。
城下町で食べられるものもあったが、見たことがない料理も多かった。
中国の餃子っぽい料理やシューマイっぽい料理もあって面白かった。
ただ、その味は、ボクにはちょっと塩辛すぎた。
食事の後は、大部屋で輪になり、先輩が過去にあった対抗戦の話をしてくれる。
下級生たちは、みんな真剣に話を聞いていた。
「そのとき、ヴィナスっていう先輩が巨大な水玉を作って、敵のディフェンスごとゴールをぶち抜いたって話しだぜ」
「凄いっ!」
「派手だなあ!」
どうやら、過去に大活躍した選手がいたらしい。
ルイがボクの袖を引っぱる。
「きっと、ショータ様なら、もっと凄いことができますよ」
彼女は、そう耳元で囁いた。
ボクはあまり派手なのは好きではないから、できたとしてもしないだろう。
先輩たちの話が一通り終わると、ボクらは男女別に広いお風呂に入り早めに寝た。
◇
試合当日は、絶好の魔術日和だった。つまり、晴れていて風も無い。
「では、選手入場です」
魔道具で拡大された案内役の声が場内に響きわたる。
ボクたちは、三列になって競技場の中に入った。
「まずは、東側入り口から、アーケナン魔術学院の入場です」
観客席から歓声と拍手が振りそそぐ。
競技場は横に長く、サッカー場にそっくりだった。
「次に、西側入り口から、タルス魔術学院の入場です」
チラリと横目で見ると、ボクたちの左側を青いローブを着た人たちが行進していた。
北側の客席前で、行進が停まる。
「では、各学院代表からの一言」
お立ち台に、青いローブを着た色白の男性が登った。
顔だちは整っているけれど、口の端が片方、キュッと上がっている
顔の半分で笑っているんだろうか、それとも最初からあんな顔なのかな。
「諸君、今日は私の応援に来てくれてありがとう。
存分に楽しんでいってくれたまえ」
ええと、「私」じゃなくて、「私たち」だと思うけど。
ボクは、その人に何か違和感を感じていた。
後ろに立っているルイが小さな声で話しかけてくる。
「ショータ様、あれが例の元皇太子です。
エリュシアスって名前らしいですよ」
へえ、国王を辞めた後は、魔術学院の学生をやってたのか。
でも、話に聞いたような人だと、魔術を教えると危険なんじゃないかな。
元皇太子が台から降りると、ルイのお兄さん、スヴェンさんがそこに立った。
「私たちは魔術学院生徒として、恥ずかしくない競技を行います」
彼がよく通る声でそう言うと、観客席の皆が拍手した。
「それでは、続きましてアリスト国女王陛下からお一言があります」
それまでと違い、案内役の生徒の声が緊張しているのが分かった。
ボクたちから見て正面の観客席五、六列目にいるきらきら光るローブを着た女王陛下が立ちあがった。
それは、弟のボクから見てもすごく威厳がある姿だった。
「アーケナン魔術学院、タルス魔術学院の諸君、全力を尽くし、日頃の研鑽を思う存分に見せて欲しい。
両学院の健闘に期待する」
お姉ちゃんがそう言うと、会場が一瞬シーンとした後、すごい歓声と拍手が沸きおこった。
座るときに隣の太ったおじさんと握手したということは、あれがキンベラの国王かもしれない。
うちの学院の生徒たちもみんな拍手している。
ただ、隣に並んでいるタリス魔術学院の人たちは、なぜか暗い顔をして俯いていた。
「では、選手は、各控室で待機してください」
進行役の声で、ボクたちは競技場から外に出た。
◇
競技は、基礎能力を競う学年別対抗戦と、判断力やチームワークを競う学院戦に分かれている。
先にある学年別戦は、一回生から順に行うので、控室でゆっくりする間もなく、ボクは競技場に向かった。
一回生の三人が競技場入り口に着くと、案内役の学生が場内中央あたりまで誘導してくれた。
競技場の地面は、白っぽい土でできていて、そこに緑の線が引いてあった。
よく見ると、線は緑の布を帯状にしたもののようだ。
ボクたち三人は、緑の線に沿って五メートルくらい離れ、等間隔に並んだ。
その隣にタルス魔術学園の一年生三人が、やはり同じように並ぶ。
緑の線に沿って、六人が一列に並んだことになる。
ボクたちの右手に当たる観客席から、応援の声が聞こえる。
「ショータ君、がんばってー!」
あれはジーナだね。隣に立ったドロシーが、「全員を応援しなさいよ、全員を!」って怒鳴っている。
「ショータくーん、勝ったらキスしたげる~!」
ララーナさんの応援に、ボクは顔が熱くなった。
「「「がんばれー!」」」
一回生男子クラスメートの声も聞こえる。
審判らしい、白いローブを着た四十才くらいのおじさんが、競技の説明に入った。
この魔術競技会の個人戦に関しては、当日その場にならないと内容を教えてもらえない。これには、魔術の応用力をチェックするという目的があるそうだ。
今回の競技は次のようなものだった。
選手は、緑線の手前から水魔術の玉で的を狙う。
的には二種類あって、赤がアーケナン魔術学院、青がタルス魔術学院の得点になる。
ただし、一つの玉で落とせるのは、一つの的だけで、毎回新しい水玉を作らなければならない。
そして、水魔術に限って、防御に使っても構わない。つまり、ボクたちは、タルス側が、青い的を落とすのを邪魔することができる。
相手選手への直接の攻撃はできない。
ボクたちから、十五メートルくらい離れたところに、二十枚のカードがふわふわ浮かんだ。
きっと、競技サポート役の先生たちが、風魔術で浮かせているのだろう。大きさは、ちょうど葉書くらいだ。
赤いカードがボクたちの前、青いカードが対戦相手の前に浮いている。
防御するときは、相手より遠い的を守らないといけないから、工夫が要るだろう。
管楽器の音が、競技開始の合図だった。
ドロシーともう一人のチームメートが呪文の詠唱を終えると、自分たちの前にある赤い標的を狙って水玉を撃ちだしている。
ボクは少し考えて、ディフェンスを受けもつことにした。
青いマナを集めて水魔術を発動する。
目の前に直径一メートルくらいの水玉が浮かぶ。それをコントロールして、細長い板状にした。
青いカードが並んでいるところにそれを移動させる。
当然、相手の水玉は、ボクが作った水の「盾」にぶつかるだけで、カードまで届かない。
その間にも、ドロシーたちが、一つずつ赤い標的を撃ちおとしていった。
赤いカードが全部地面に落ちると、また管楽器が鳴らされた。
「競技終了!」
魔道具を通して、拡大された声が場内に響く。
青いカードは九枚が空中に残っていた。
横を見ると、まっ青になったタルス学院の生徒が、両手両膝を地に着き震えている。
これは、魔力不足に陥ったときに見られる症状だ。
ボクはすぐに、三人に治癒魔術を施した。
魔力の枯渇が治るわけではないけれど、症状は軽くなるからね。
三人は、ほどなくして担架で運びだされた。
ドロシーともう一人のチームメートは、飛びあがって喜んでいる。
観客の方を見ると、なぜかそちらは、シーンとなっている。
その中から、元気のいい声が聞こえてきた。
「ショータ、すごーい!」
「すごーい!」
声がした方を見ると、銀髪のとても美しい少女が二人、観客席から立ちあがって、こちらに手を振っている。
二人はナルちゃんとメルちゃんで、シローさんの娘だ。
二人の横には、ボクもよく知っている綺麗な女性が三人並んで座っていて、その横には白猫を肩に乗せたシローさんがいた。
やっぱり、来てくれてたんだね。ボクと目があうと、にっこり笑って頷いてくれた。
それを目にしたボクは、心の底から喜びが沸きあがってきたんだ。
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