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第十一章 ポータルズ列伝

銀髪の少女編 第8話 ナルとメル、嬉しくなる

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『たちあいにん』になった女の人が後ろに下がると、ブロワがこう言ったの。

「サプライズ子爵家当主が一子《いっし》ブロワ、参る」

 けっとーって、むずかしい言葉を使うのね。なに言ってるのか分からないわ。

 おヒゲはジュモンを唱えてるわね。あれは、火のジュモンね。 
 ウチのコルナお姉ちゃんが得意だから知ってるの。
 でも、呪文を唱えるなんてダメね。
 パーパなんて呪文を唱えなくてもすごい魔法が使えるんだから。

 ああ、おヒゲのおじさんは、火の玉を飛ばす魔術でメルを狙うみたいね。
 まあ、やってみればいいわ。
 ブロワは、剣で私にかかってくるみたい、

 最初におヒゲの火の玉が、メルに向かって飛んだわ。
 メルは、ひょいってよけてる。
 当り前よね。あんな遅い魔術なんて、当たるはずがないわ。

 よそ見してたから、ブロワがすぐ近くに来てたの。
 剣で私に切りかかってきたけど、それは遅すぎて、あくびが出るくらいだったわ。
 剣をかわした私が、ブロワの胸をちょんと押すと、彼はころころ転がって、輪になって見ている人たちの外まで出ちゃった。
 ブロワは倒れたままだから、あとはおヒゲのおじさんね。

 あれ? 
 メルしかいない。
 あー、あんな遠くの木から足が生えてる。

 私とメルは、本当はエインシェント・ドラゴンだから、人族より少し力が強いの。
 (作者注:エインシェント・ドラゴン=古代竜、竜の上位種、人化能力を持つ)

 周りを取りかこんでいた生徒たちから、すごいハクシュ。
 お姉ちゃんたちが、メルにお菓子を渡してる。

 あんなに食べるとママにしかられちゃうから、半分もらってあげるわ。

 ◇

 私たち二人がみんなに取りかこまれていると、まっ赤な顔をした、太ったおじさんがドスドス走ってきたの。
 誰だろう。

「決闘は中止じゃ。
 いや、やり直しじゃ」

『たちあいにん』をした女の人が、前に出てくる。

「私は今回の決闘の立会人ですが、あなたは?」

「ワシは、サプライズ子爵じゃ。
 お前は誰じゃ」

「分からないの?」

 あれ? よく聞くと、この声、どこかで聞いたことある。

「どこの馬の骨とも知れぬ者を、知っとるはずがなかろうが!」

 女の人は、少し笑ったように見えたわ。
 それから、ゆっくり帽子を取ったの。
 きれいな長い黒髪がふわりと広がった。
 やっぱり。
 あの声、どこかで聞いたことがあると思ったんだよね。

「サプライズ、主《あるじ》の顔を忘れたか」

「ゲッ! 
 じょ、女王陛下……」

 私、「ゲッ」って言った人、初めて見た。

「あっ、じょおーさまー」

 メルが女王様にくっついてる。
 私も、女王様にくっついちゃお。

「二人とも大変だったね」

 女王様が、私たちの頭をいい子いい子してくれたの。

「あ、パーパ!」

 急にすぐそばにパーパが現れてびっくりしたの。
 これもパーパの魔法なの。

「ボー、あんたこの子たちに何かあったらどうするの!」

 なんかパーパがしかられてる。

「い、いや、そうならないように――」

「万一があるでしょうが、万一が!」

「そ、それはそうだけど……」

「まあ、いいわ。
 久しぶりに、いい気分転換になったから」

 そこで女王様はくるりと振りかえって、膝をついているおじさんの方を見た。

「サプライズ、お前と息子の行状は、本来なら爵位抹消と領地取りあげじゃ」

「そ、それだけは、それだけは、どうかご勘弁を」

 サプライズは、女王様の前でガマルみたいになってるの。
 青くなってるからよけいにガマル。(作者注:ガマル=地球のカエルに似た魔獣)

「だが、この男がそういう処分は望まぬからの」

 女王様がパーパの方を指さした。

「お主の処分は、保留といたそう」

 サプライズが、ホッとした顔をしたわ。
 こいつ、甘いわね。

「ただし」

 女王様が、少し笑いながら次の言葉を言ったの。
 すごくきれいな女王様がそうすると、とっても怖い。

「これから、ナル、メルに誰かから決闘の申しこみや襲撃があれば、それが誰であれ、保留は取りけしじゃ」

「ひいいっ!」

「よくよくこの二人の周囲に気をつけることじゃ」

 さすが女王様ね。
 さっきまで敵だったサプライズ家が、いつのまにか、たのもしい味方になってる。

「ああ、ボー、この後、あんたん家のあれに入りに行ってもいいわよね」

 パーパの名前はシローなんだけど、女王様と勇者だけは、ボーって呼ぶの。
 女王様がパーパに言ってるのは、屋上にある『おんせんじゃぐじー』ね。
 時々おしのびで入りにきてるもん。

 パーパは大げさなおじぎをして、こう言ったの。

「かしこまりました、女王様」

「馬鹿っ!」

 パーパと女王様は『しんゆー』だから、いつもこんな感じなの。

 ◇

 次の日から、学校では、イジメがなくなったみたい。
 キャシーの笑顔がすごく増えたの。
 だから、私もメルもとってもうれしいの。
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