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第十一章 ポータルズ列伝

銀髪の少女編 第1話 ナルとメル、学校へ行く

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 いつものように朝起きると、妹のメルと二人で部屋の隅にある大きな穴の前に行くの。
これは私たちのパーパが作ってくれた滑り台に続く穴で、この三階からマンマがいる一階まで降りられるんだよ。

 この家は、家族のためにパーパが魔法で建ててくれたの。
 すごいでしょ。屋上にはお花畑やお風呂もあるんだよ。

 いつものように、パーパが教えてくれた『じゃんけん』をする。

「「最初はブー、じゃんけんポン!」」

 本当は、「最初はグー」って言うらしいんだけど、メルが一度「ブー」って間違えた時、パーパがすごく笑ったから、いつも「ブー」って言ってるんだよ。

「ああ、負けちゃった」

 私はチョキを出してメルに負けたの。
 メルはいつも最初にグーしか出さないんだけど、私はお姉ちゃんだから、二回に一回は負けてあげるんだよ。

「じゅあ、メルからねー」

 メルがぴょんと滑り台のトンネルに飛びこむ。

「「「わー!」」」

 滑り台の穴からは、メルの声がこだまして聞こえてくるの。

「「「お姉ちゃん、もういいよー」」」

 メルの合図で私も滑り台に入るの。
 パイプの様になった滑り台は、家の外をぐるりと回って一階まで降りるんだよ。
 上手に滑ったら、すごくスピードが出るんだから。

「わー!」 
  
 いつものように気持ちよくシャーって、トンネルの中を進むの。
 突然辺りが明るくなって、ポーンと体が弾むのよ。
 なぜなら、滑り台の出口にパーパがクッションを置いてるの。
 この緑のクッションは、『コケット』っていうベッドにも使ってあるんだけど、ふわふわで、とっても気持ちいいんだよ。
 ウチに来た友達は、いつもこの滑り台をうらやましがるの。

 でも、実は前から友達のことがうらやましいって思ってることがあるの。
 それはね、学校。

 私と背が同じくらいの子供たちは、みんな学校に行ってるのに、私とメルはなぜかまだ行ってないの。
 パーパやマンマにどうしてって聞いたことがあるけど、二人が困った顔をするから、それからは聞いてないんだ。

 あ、この匂い!
 今日はパーパの朝ご飯ね。
 パーパとマンマは得意料理が違うから、匂いでどちらの料理か分かるんだよ。

 ◇

「お早う、ナル、メル」

 パーパが穏やかなお顔で挨拶してくれるの。
 友達は、あまりかっこよくないねって言うけど、私はパーパのこのお顔が大好きなんだよ。
 だって、見てるだけで、心がホカホカするんだもん。

「お早う。
 二人とも、お顔を洗ってきなさい」

 マンマは、凄く綺麗なの。
 でもお行儀には、とてもうるさいんだよ。
 メルなんか、しょっちゅう叱られてるんだから。

 そうそう、マンマにぴったりくっついていると、なんかフワ~っていい気持になるんだよー。
 ほら、さっそくメルがくっついてる。
 わたしもくっついちゃおう。
 しばらくマンマにくっつくと、すごく元気が出るから不思議なんだ。

「さあ、お顔を洗ってきてね」

 私とメルは、水の『まどーぐ』が置いてあるお部屋に行って、それで顔を洗うの。
 最初は上手く洗えなかったけれど、マンマが教えてくれたから、今は一人でも洗えるよ。

 メルはときどき、てきとーに洗ってるけど、なぜだかマンマにばれちゃうんだよね。
 だから、最近は、きちんと洗ってるみたい。

「おや、二人とも、きちんとお顔が洗えたみたいだね」

 私たちの頭を撫でてくれているのは、じーじなの。
 私もメルもじーじが大好き。だっていろんな楽しい遊びを教えてくれるもの。
 じーじは凄く有名な『ぼーけんしゃ』だって、キツネのおじちゃんが言ってた。
 ウチはパーパもマンマも『ぼーけんしゃ』なんだよ。すごいでしょ。

 ああ、そうそう。
 私とメルもパーパやマンマと一緒に『ぼーけん』したことがあるんだよ。
 エルフの国に行ったんだけど、すごく楽しかったなー。
 また、行きたいなー。
 ポータルっていう黒い穴に入る時が、ちょっとだけ怖いんだけどね。

 ◇

 あっ、今日は『まくじー』が来てる。

 まくじーは、本当は「マック」という名前だけど、じーじやパーパの友達みたい。
 だからよくウチに来て、一緒にご飯を食べるんだよ。
 すっごく大きいんだから。
 前に『ぼーけん』の途中で会った、熊のおじちゃんくらい大きいんだよ。

 ウチは、いつも家族全員で食事するの。
 コルナお姉ちゃん、コリーダお姉ちゃんも一緒だよ。 
 だから、いつだったか、パーパだけが長いこと『ぼーけん』でいなかったときは、さみしかったなあ。

「「いただきまーす」」

 ウチはいつもこの合図で食事が始まるの。パーパの世界で使ってる言葉なんだって。
 あっ、今日もミルクがある。私もメルもミルクが大好きだから、ミルクが無いと、とっても残念なんだよ。
 嵐の時なんかは、ミルクが買えないからすごく悲しかったの。
 でも、今は、パーパが魔法の箱からいつでもミルクを出してくれるから大丈夫。

「ナル、メル、食べ終わったかな?」

「うん」

「今日は、パーパから大事な話があるよ」

 なんだろう。前にパーパがそう言ったときは、『ぼーけん』に行っちゃったんだよね。
 メルが悲しそうな顔をしているから、きっと私も同じ顔だと思う。
 私は何か怖くて、目をぎゅっとつぶったの。

「ナル、メル、学校に行ってみない?」

 えっ!?

「二人が嫌なら行かなくてもいいんだからね」

 驚いて、すぐに声が出なかったの。
 でも、メルは違ったみたい。

「学校いくー!」

 すぐにそう答えたの。それで、私もやっと声が出せたわ。

「学校に行きたい!」

 パーパがニコニコしているから、私たちの答えで良かったみたいね。
 でも、学校っていったいどんなところかしら?

 ◇

 朝ご飯のあと、マンマがお皿を洗うのを、私とメルで手伝ったの。
 これはいつものことだから、もうお皿を割らなくなったよ。

 そのあと、初めて見る服をマンマが着せてくれて、お出かけすることになったの。
 私は緑のワンピース、メルはピンクのワンピースね。
 胸の所についてる飾りは『ボーケン』の時にキツネ人(びと)が住んでる町で、自分で選んで買ったんだよ。
 あの時は、たしか、じーじがお金を払ってくれたっけ。

 ときどきメルの服がいいなって思うこともあるけど、私は目の色が緑だから、緑の服が似あうってパーパが言ってた。

 私がパーパ、メルがマンマと手をつないで町を歩いたの。
 私たちは、ウチからあまり出ないから、こうやって町を歩くととっても楽しい。

 みんながこっちを見てるわ。なぜだろう。
 みんなの髪が茶色いのに私とメルの髪が白いからかな。
 パーパの髪なんか黒いんだよ。いつも茶色い布で隠してるけど。

 ◇

 うわー、大っきな建物だなー。
 前にお城に行ったときはもっと大きかったけど。

「ナル、メル、これが学校だよ」

 えっ!? 学校って、こんなに大きいの?

 学校の門が開いて、優しそうな女の人が出てきたの。
 ウチで働いているニーナさんと同じくらいかな。
 ニーナさんが五十才だから、そのくらいかも。

「シロー様ですね。
 女王陛下からうかがっております。
 どうぞこちらへ」

 シローっていうのはパーパの名前だよ。
 女王って、パーパのお友達っていうお姉ちゃんの事だね。
 二人は『ちきゅー』っていう世界から、この世界にやってきたんだって。

 私たちは、女の人と一緒に、大きな建物に入っていったの。
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