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第十一章 ポータルズ列伝
キャロ編 第5話 ギルドの夕方~夜
しおりを挟む昨日は夕方にごたごたがあって、あまりギルドの様子を話せなくてごめんなさい。
今日は、がんばってウチを紹介するわ。
夕方になると、討伐、採集に行っていたほとんどの冒険者が帰って来て、ギルドが賑わうという話はしたわね。
その後は、食事をしたり、お酒を飲んだりすることが多いの。
ギルドの受付がある部屋があるでしょ。
そうそう、壁に依頼の紙が貼ってある部屋よ。
あの部屋にいくつか置いてある丸テーブルで、皆が食事やお酒を飲むの。
ちょっと冒険者たちの話を聞いてみましょうか。
「しかし、昨日のハゲは許せんかったよな」
「「「キャロちゃん、イジメた!」」」
「二度とあんなことがねえように、気をつけようぜ、みんな!」
「「「おー!」」」
「ところで、お隣さん。
今日の討伐はどうだった?」
「ああ、『ブレイブズ』の皆さんか。
森の中で、ゴブリンの群れと遭遇しちまってよ。
死ぬかと思ったぜ。
あんたらの方は、どうだった?」
「もうからっきしさ。
俺たちゃ、ワイバーンを探しに行ったんだが、一匹も見えねえから帰ってきたぜ。
これじゃ、大赤字だ」
食べたり、飲んだりだけではなく、パーティ同士で、その日の討伐を自慢し合ったり、情報を交換したりするのよ。
これも、冒険者の大事な仕事なの。
「ワイバーンって、本当にいるのかね」
「昨日、『ハピィフェロー』がダートンまでの街道沿いで一度に三匹も見たらしいぜ」
「かーっ!
また、あいつらに先越されたか。
例のゴブリンキング討伐から、あいつら調子づいてるな」
「まったくだ、俺たち『やさしい悪魔』もあやかりたいぜ」
「そういや、例のルーキー、最近姿を見ねえけどどうしたんだ?」
「ああ、シローのことだろ?
お前らがちょうどダンジョンに遠征してた時、獣人国へ行ったぜ」
「へー、ってことは、ポータル潜ったんだな」
この世界は、他の世界と『ポータル』っていう門のようなモノで繋がってるの。
だから、それを使えば、他の世界へ移動することもできるのよ。
「ああ。
冒険者になってそうたってねえのに、すげえヤツだよな」
「確かにな。
それにヤツは、ランクが上がっても偉ぶらねえからな」
「シローのヤツ、女王陛下やリーヴァスさんとも知りあいだっていうぜ」
「雷神リーヴァスか!
凄えな。
お前ら、あの人が戦うところ見たことあるか?」
「いや。
でも、お城勤めを辞めて、ギルドで指導役をするって聞いてるぜ」
「なにっ!
俺、絶対あの人と討伐行きたいよ」
「あんたなんかじゃ、まだまだ無理よ」
「リリー、そりゃねえだろ。
こう見えて、俺、銀ランク長えんだぜ」
「私、一度リーヴァスさんが戦うところを見たことあるのよ」
「おいっ、本当か!?」
「そりゃ、凄え。
で、どうだったい、あの人の戦いは?」
「どうだったもなにも……センライ地域知ってるでしょ」
「おサルさんが、いるところだろ?」
「ホワイトエイプね。
あそこに盗賊団が現れたでしょ」
「そういや、三年程前に、そういうことがあったな」
「盗賊団のボスが騎士崩れでね。
騎士団が何度か討伐に向かったんだけど、ボスが騎士の手口をよく知ってるから、なかなか討伐できなかったのよ」
「ああ、それは俺も聞いたことあるな」
「センライの隣にタリー高原あるでしょ。
その日、私たちは、そこでコボルト討伐をして、帰る途中だったの」
部屋の皆が、リリーさんの周りに集まってきたわ。冒険者は、話し上手が多いのよ。
「森から出てホッとしたから、油断しちゃったのね。
木立に隠れてた盗賊団に囲まれちゃったのよ。
敵は二十人以上、私たちは六人でしょ。
もう絶対絶命。
死を覚悟したわ」
パーティは、最低二人から組めるけど、役割分担があるから五人以上のものが多いわね。
「せめて何人か道づれにしてやろうと、私が剣を抜いた途端、盗賊が全員地面に転がってたのよ」
「魔術かい?」
「いえ、多分近接戦闘だと思う。
リーヴァスさんが、二十人を一瞬で無力化したのよ」
「ほ、ホントかよ。
こうして直に聞いても信じられねえぜ」
「リーヴァスさんが、剣を抜くところは見なかったの?」
「それが、私が見た時には、穏やかに微笑む彼が立ってるだけだったのよ」
「ひゃー、カッコイイ!」
「あこがれちゃうな~」
「さすが『雷神リーヴァス』だな!」
その方が、十年前に迷子の私をこのギルドに紹介したの。
私がここで大事にされてるのは、そういう理由もあるかもしれないわ。
ああ、リリーさんのお話はまだ続いているわね。
「結局、私たちがしたのは、ロープで盗賊を縛るだけ。
それなのに、私たちも一緒に盗賊を討伐したってことにしてくれたのよ」
「いいなー、私もそんな目に遭ってみたい」
「馬鹿ね!
死にかけて、本当に怖かったんだから」
「じゃ、パーティ『バラの棘(とげ)』は、大儲けだったな」
「ああ、その頃は、『白いウサギ』に入ってたから。
皆、盗賊の懸賞金までもらってホクホクだったわ」
冒険者は、様々な理由で所属パーティを変えることも多いの。
ずっと一つのパーティにいる方が珍しいのよ。
「いくらくらいもらったんだ?」
「確か、一人銀貨五十枚くらいだっけ」
(作者注:銀貨五十枚=約五十万円)
「はーっ!
なんだそりゃ。
うらやましすぎるぜ」
「ああ、そん時知りあってたら、おごってもらえたのにな」
「馬鹿ね。
銀貨五十枚なんか、装備一式交換してお終いよ」
冒険者は、儲けも多いけれど、出費も多いの。
装備の費用はもちろん、そのメンテナンス、怪我をした時のポーション、宿泊代や食事代。
きちんと考えてお金を使わない人は、続けられない仕事なの。
だから、冒険者になる人は多いけれど、冒険者を続けられるのは、ほんの一握りね。
今ここで、食べたり飲んだりしているのは、その一握りの人たちってわけ。
あ、キッチンのカウンターからシェフが顔をのぞかせたわ。
「おーい、ラストオーダーだぜ」
「じゃ、おれ、この酒もう一杯」
「私も、もう一杯もらおうかな」
「俺もー」
故郷でフェアリスが造るお酒に比べると、人族のお酒は今ひとつだけど、それなりには飲めるわね。
私も時々飲むのよ?
え?
私の年?
お酒が飲める年だってことだけ教えとくわ。
「みなさん、聞いてね」
「お、キャロちゃん!」
「ギルマス!」
「昨日は、助けてくれてありがとう。
最後の一杯は、私のおごりよ」
「やったー!」
「わーい!」
「だから、キャロちゃん好きー!」
「さすが、俺の天使、キャロちゃんだぜ」
変な発言も混じってるけど、みんなが喜ぶなら安いものね。
「ギルマス、そいつら甘やかさないほうがいいですぜ」
シェフが呆れ顔で忠告してくれるの。
「シェフはひっこんでろー」
「そうだそうだー」
「へいへい、どうせもう店じまいだよ」
まあ、こういう感じでギルドの夜は更けていくの。
どうだったかしら。
ギルドの事が少しは分かってもらえたかな。
実は、ポータルズ世界のギルドにはまだまだ秘密があるのよ。
でも、それは、また別の機会に。
長いこと話を聞いてくれてありがとう。
アリストに来ることがあったら、気軽にうちのギルドに立ちよってね。
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