上 下
475 / 607
第十一章 ポータルズ列伝

キャロ編 第3話 ギルドの昼 

しおりを挟む
 お昼前になると、ギルドに居る人が、ぐっと減るの。

 みんな討伐や採集に出かけちゃうからね。
 討伐と採集を受けつけるカウンターがあるのだけど、そこに座ってる女性二人も、暇そうにしているわ。
 若くて可愛い感じの方がミリーさん、落ちついた大人の女性がシェリルさん。
 二人とも、冒険者に凄く人気があるの。

 そうね、この時間にギルドにいるのは、よほどのベテランか、入ったばかりの初心者が多いわ。
 ああ、貼りだされた依頼書の前でまごついているのは、最近冒険者になったばかりのリンド君ね。

「リンド君、どうしたの?」

 まだ十五才のリンド君は、小柄な上に童顔だから、年齢よりずっと幼く見えるわ。

「あ、ぎ、ギルマス……」

「分からないことがあったら、遠慮なく聞けばいいのよ」

「ええと、ボク、字が読めないんです」

 ああ、そういうことか。冒険者は、学歴が無くてもなれるから、中には字が読めない人もいるの。この世界なら、字が読めるのは、五人に一人くらいね。

「どんな依頼が希望なの?」

「できれば討伐依頼で、簡単なものがいいです」

「そうね。
 でも、君には、まだ討伐は早いかな。
 慣れるまでは、絶対に一人で出かけちゃだめよ。
 ちょっと待ってね」

 私は、ちょうどギルドに入ってきた兄妹に声を掛けた。

「スタン君、スノーちゃん、ちょっと来てくれる?」

 スタン君は十七才で銅ランク、スノーちゃんは十六才で鉄ランクなの。

「君たち、パーティ組みたいって言ってたよね」

「ええ、誰かいい人がいましたか?」

「試しに、この子とパーティ組んでみてくれない?」

「えっ? 
 この子ですか? 
 君、成人してるの?」

この国では、冒険者になれるのは成人、つまり15歳以降なの。

「してるよ! 
 もう冒険者だよ」

 リンド君は、幼く見られた事で、ちょっと腹を立てているみたい。

「スタン君、今回も採集依頼でしょ?」

「ええ、白雪草の依頼があれば受けようかと思ってます」

「いい判断だわ。
 確か、『聖騎士の森』で白雪草の依頼があったはずよ。
 できたらそれに、このリンド君を連れていってほしいの」

「えっ、でもボク、やっぱり討伐の方が……」

リンド君は、討伐依頼が貼ってある壁をじっと見てるわ。全く分かっていないわね。

 冒険者になるときに渡す、革表紙の本があるんだけど、それには初心者がすべきこと、してはいけないことがきちんと書いてあるの。
 でも、字が読めなかったり、めんどくさがって読まない人が多いのよ。
 そういう人は、早いうちに怪我をして引退するか、命を失うわね。

 そういえば、瞬く間に金ランクになった、あのぼーっとした少年は、字が読めないから教えてくれって、私に頼んだわ。
 やっぱり、一流はスタートから違うってことよね。

「リンド君、シローって知ってる?」

「もちろん知ってますよ。
 あっという間に金ランクになった、有名なルーキーでしょ。
 ボクは、彼に憧れて冒険者になったんです」

 自分が目標とする人の名前を聞いて、リンド君は目がキラキラしてるわ。

「これは、スタン君たちにも聞いてほしいの。
 彼が選んだ最初の依頼が何だったか、知ってる?」

「有名な、ゴブリンキング討伐ですか?」

 彼に詳しいリンド君が、すかさず答えたわね。

「外れ。
 白雪草の採集よ」

「「えっ!?」

 どうやら、凄く驚いたようね。

「彼は、もう一人の女の子と採集に行ったんだけど、普通の三倍以上白雪草を採ってきたのよ」

「へー、すごいですね」

 スタン君が感心してるわ。

「彼も字が読めなかったけど、冒険者入門書を読んでくれるよう私に頼んだの。
 それがどういうことか分かる? 
 一人前の冒険者になるには、小さなことからコツコツ丁寧に積みあげるしかないのよ」

 三人の目がキラキラ輝く。

「ボク、きちんと基礎から積みあげますっ!」

 リンド君、急に元気になったわね。

「君、白雪草の採集だけど一緒に行くかい?」

 スタン君が、自分からリンド君を誘ったわ。

「はいっ!」

「お兄ちゃん、私にもきちんと教えてよ」

「分かってるって」

 三人は、採集コーナーで依頼書を読み始めたようね。
 スタン君は字が読めるから、リンド君とスノーちゃんはよく話を聞いているみたいね。

 こういうことも、ギルマスの仕事なの。ただ、少し慣れたら、後は本人任せ。
 だって、命が懸かってくる依頼も多いから、全て自己責任で行うの。
 一流の冒険者は、技術はもちろんだけど、判断力が大切なのよ。
 これは、私が冒険者を見ていて気づいたことね。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...