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第十章 奴隷世界スレッジ編

第83話 心やすらぐ場所

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 俺たち家族は二十日間に及ぶドラゴニア世界での滞在を終え、パンゲア世界アリスト国にある『くつろぎの家』に帰ってきた。
 リーヴァスさんだけは、少しの間ドラゴニアに残っている。
 彼はネアさんの家に住まわせてもらい、そこから新築されたギルドに通っている。
 ベテランであるリーヴァスさんからの助言助力は、設立間もないドラゴニアギルドにとって価千金だろう。
   
 俺はここのところ、『くつろぎの家』の拡張に取りくんでいる。 
 街の一区画全部を使えるので自由度が高く、土魔術で試行錯誤しながら改良を重ねている。 
 最初、外周に壁を巡らせたり、『地球の家』のように建築物で中庭を囲むことも考えたが、最終的には、外壁の無い開放的なデザインに落ちついた。
 外壁が無い公園をイメージしてもらうといいだろう。

 壁をめぐらさないかわりに、敷地の外縁にぐるりと神樹の種を植えた。
 中庭には、すでに『光る木』の神樹様が育っているから、それを中心に小さな森のようになる予定だ。
 全体の外観に関しては、『巨人の里』にあった『鎮守の杜』や狐人領の大木と共生する家を参考にした。
 
 中庭として使っていた広場は、以前よりはるかに広くなり、芝生に似た草を植えている。これは丈が高くならず、刈りこむ必要がない優れものだ。
 
 草がしっかり根づくまで庭が使えないコリンと二匹のポポは、家族の誰かが散歩することで、ストレスを発散している。
 二匹のポポは大量の草を食べるから、俺が世話をすることが多い。瞬間移動で草原地帯まで連れていくのだ。
 俺が留守の間、彼らのエサが蓄えられるように、円塔型のサイロも造った。サイロの上部には小部屋が設けられ、見晴らし台にもなっている。
 
 そういえば、ナルとメルは、『神樹戦役』で活躍したご褒美に、女王陛下から『魔獣大使』の称号を頂いた。
 これは、彼女たちがかつてエルフ王からもらったものと同様、国内で好きなだけ魔獣に乗れるというものだ。
 ナルとメルはこの権利を使い、ポポラとポポロに乗り、街中を散歩することもある。
 そんな時は、町の子供たちがその後についてぞろぞろ歩く姿が見られる。それを見るため、遠くの町からやってくる観光客が現れた。
 ピンクのカバに似た動物、ポポはこうして街の名物になった。
 そのため、ナルとメルは決まった曜日に、ポポの散歩をしている。

 ◇

 改良を重ねていた『くつろぎの家』だが、大まかな形は整ってきた。
 新しく用意した建物もほぼ完成したから、パーティーを開くことにした。   
 招待状を送った人全員から、参加の知らせを受ける。

 昼から始まったパーティーは、いくつかの場所に分かれて行われた。
 
 子供たちは、三倍にも拡張された中庭で駆けまわっている。ナル、メル、イオ、ポポラ、ポポロ、そして巨人族のチビはここにいる。この日は肌寒く、午後から小雨が降っていたのだが、上をシールドで覆われた広場からは、暗くなるまで子供たちの笑い声が聞こえていた。

 ◇

 お茶好きやお菓子好きは、『くつろぎの家』屋上にある東屋(あずまや)でくつろいでいる。ルル、コリーダ、エンデ、ドワーフの女王シリル、俺はここだ。
 シリルは国政があるから参加は無理だと思ったのだが、絶対参加すると言って聞かなかったらしい。
 そのため、デメルが臨時に母国へ帰り、代理を務めている。彼女がそれに応じたのは、俺が加藤とのデートをセッティングすると約束したからだ。デメルは畑山女王から、加藤とのお月見デートの話で散々あおられたらしい。何やってんのかね、女王様は。

「シロー、この冷たいお菓子はなんじゃ!
 凄く美味しいのう」

「シリル様、それはアイスクリームというお菓子です。
 俺の故郷から持ってきました」

「さすがお菓子騎士じゃのう」

 いつもナル、メルの面倒をみているルルは、小さなシリルが気になるらしく、アイスがついた彼女の口元を拭いてやったり、世話を焼いている。
 
 ◇

 女王畑山や大聖女舞子、コルナたちお風呂好きは、新しく建てた大浴場で温泉浴を楽しんでいる。ここは水着着用だから、マスケドニア王や軍師ショーカ、エルフ国王一家も入浴中だ。シリルに頼まれ、スレッジ世界から連れてきた彼女の父である前ドワーフ皇帝と、前帝国国王もここにいる。
 ちなみに、この二人、同じく入浴を選んだギルド長ミランダさんに失政を厳しく叱責され、小さくなっていた。まあ、これは仕方ないよね。
 大浴場は、縦二十五メートル、横十メートル、深さ一メートルから三メートルという三日月形もので、水を入れたらプールとしても使える。これはナルとメルが泳ぎを覚えるために造った。
 温泉の雰囲気が出るよう、自然石で縁を囲んである。
 足湯ができるような場所や、短いながらウオータースライドできる場所、打たせ湯や滝行ができる場所も作ってある。

「シロー、いくらかかっても構わん!
 あれを王宮に造ってくれ」

 マスケドニア王からそう言われたが、さすがに断っておいた。だって、これ作るのもの凄く手間がかかるんだよ。それにいくつもアーティファクト使ってるからね。

 ◇

 昼からお酒が飲みたい人は、離れである『やすらぎの家』を増築して作ったラウンジに集まった。
天竜の長や、竜人のラズローとジェラード、アリストギルドのマスターであるキャロとその父フィロ、前ギルマスのマック、天竜国から帰ってきたばかりのリーヴァスさん、そしてネアさんも、こちらに参加した。酒が飲めない加藤も、なぜかここでジュースを飲んでいる。
 ちなみに、ジェラードはコリーダと一緒にお茶を楽しみたがっていたが、東屋は使える人数が限られるため、渋々こちらに参加している。

「リーヴァスさん、聞いてくださいよ。
 シローはね、いつも俺に冷たいんです」

 ジェラードがそんなことを言ってリーヴァスさんにからみ、彼を困らせたらしい。
 素面に戻ったとき、ラズローからこっぴどく叱られていた。

 ◇

 夕方になると、広場に集まり、みんなでバーベキューをする。
 ずっと駆けまわっていた子供たちは、お腹が減っていたのだろう、みなガツガツ食べると、すぐにウトウトし始めた。彼らは新しく作った格技場にマットを敷き、そこで寝かせた。
 チビは普通の家屋には入れないからね。
 ちなみに、この日バーベキューで使ったお肉は、地球から持ちこんだA5級のもので、日頃、比較的固い肉に慣れているみんなは、その柔らかさと極上の味に驚いていた。
 日本の牛肉が異世界の人々に認められた瞬間だった。

 お、これって商売にできるんじゃないの?

『( ̄ー ̄) まあ、それはできるでしょうねえ』

 最近、点ちゃんは不愛想な顔が多いよね。

『( ̄ー ̄)つ 誰のせいやねん!』

 不愛想突っこみ、ありがとさんです。
 
 ◇

 パーティーが終わり、俺が皆を彼らの世界、彼らの国へ送る。
 家に帰ってきたら、すでに深夜だった。

 大浴場で入浴を済ませた俺は、家族とラウンジに集まった。 
 
「みんなお疲れさまでした。
 いいパーティーだったね」

「そうですね。
 皆が気ままにする、今日のようなパーティーもたまにはいいですね」

 ルルがそう言って笑う。

「お兄ちゃん、点魔法を一番使ってるのこういう所だよね」

『(・ω・)ノ コルナさん、よく分かってるー』

「点ちゃんも大変だねえ」

『ぐ(u ω u) そうなんです。ご主人様は分かってくれませんからね』

「いつもご苦労様、点ちゃん」

『(^▽^) コリーダさん、ありがとう』

「シローをよろしく頼みますぞ」

『(^▽^) ワーイ、リーヴァスさんに頼まれちゃった』

「ミー!」(点ちゃん、凄いね!)

 みなさーん、俺の事、忘れてませんか?

『(・ω・)ノ あ、ご主人様、いたの?』

 ううう。

「ミ~……」(よしよし……)

 ブランに頭をぺしぺしされ、涙にくれる俺だった。

――――――――――――――――
第十シーズン『奴隷世界スレッジ編』終了
第十一シーズン『ポータルズ列伝』に続く
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