469 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編
第80話 報酬と感謝9
しおりを挟む舞子の屋敷で夕食を終えたは、コルナを屋敷の外に連れだした。
「お兄ちゃん、ナルとメルの様子が――」
「コルネが見てくれてるよ。
今は黙ってついてきてほしい」
俺がそう言うと、コルナは黙った。
夜の草原に、飛行型の点ちゃん1号を出す。
この日は月がない夜だったから、魔術で造ったゴルフボールサイズの光玉を幾つか宙に浮かせる。
光玉で照らされ光を帯びた白銀の機体は、とても幻想的だった。
コルナの手を取り、機体の中に招きいれる。
「うわあ!」
コルナが思わず声を上げる。
機内は、この時のために俺が工夫を凝らした内装になっている。
落ちついた茶色を基調とした色合いで統一してある。
これは、かつてコルナが住んでいた狐人領の城で見た内装を参考にしてある。
「落ちつくなあ」
「さあ、ここに座って」
「あっ、これって――」
「気がついた?
緑苔で作ったソファーだよ。
緑苔だけだと柔らかすぎるから、その辺、工夫してある」
内部にクッションを入れ、それを覆う形で緑苔を入れてある。通常のクッション、緑苔、二層式のソファーだ。
「ふわふわだね~。
だけど、これだと、すぐに眠くなっちゃう」
「そうでしょ、だからこれを飲んで」
「黒いね。
地球世界で飲んだ苦い液体じゃないよね?」
コルナは、コーヒーが苦手みたいだからね。
「ああ、コーヒーね。
これは違うよ」
コルナは、それを一口飲んで目を見張った。
「美味しいっ!」
「この味が好きだと思ったよ」
彼女が好む味からたどり着いたのが、このお茶だった。
「これ、お茶でしょ?
初めて飲んだけど」
「うん、これはドワーフ族が飲んでいる『鉄茶』って言うんだよ」
「ふうん、『鉄茶』か」
「ああ、ただし、普通のとはちょっと違う極上品だけどね」
これは、ドワーフ皇国秘蔵のものを、シリル女王陛下が褒美としてくれたものだ。
世界群にも同じものが二つとないという、極めて貴重なものだ。
「これ、『べらぼうめえ』な高級品ね」
ああ、また舞子から『べらぼうめえ』なんて言葉を習ったな。
「ああ、そうだよ。
コルナ、帰りは狐人領に寄るかい?」
「……うーん、コルネにも会えたし、アリストの『くつろぎの家』に帰りたいかな」
「点ちゃんに頼めば、狐人領のお城まで一瞬だよ」
「そうねえ、だけど今回はよしとくわ。
この後、みんなでドラゴニアに行くんでしょ?」
「ああ、その予定だよ」
「あの子たちに早く会いたいから、今回は狐人領に寄らなくていいよ」
コルナが「あの子たち」と言ったのは、彼女がお母さん役をしている三体の子竜のことだろう。
「そうだね。
君がそれでよければ。
さて、この辺でいいかな」
点ちゃん1号を、空中で停止させる。
「お兄ちゃん、何が始まるの?」
「お茶を飲みながら楽しんでね」
暗いから見えないが、点ちゃん1号を停めたのは海の上空だ。
これからすることには、ここが便利なのだ。
さあ、点ちゃんいいよ。
ドーン!
とりわけ大きな花火が空に咲く。
花火はとんがり耳が二つついた形をしていた。
「うわーっ、綺麗!
あっ、あれ、私?」
「そう、コルナ花火だね」
ドン!
ドン!
花火が次々に上がる。
花火は海に映り、同時に二つ上がったように見える。
「あっ、あれはナルとメルね!
それから、あれがルル、あれがコリーダね」
花火は続けざまに上がり、夜空を彩っていく。
「あれは、おじい様。
それから、ミミ、ポル。
デロンチョコンビのもあるのね」
「そうだよ」
「あの誰かがもう一人の頭を叩いてるのは?」
「ああ、エレノアさんとレガルスさんだね」
「ブラン、ノワール、コリンの花火もあるのね」
最後にもう一度、特大のコルナ花火が上がった。
これは、コルナとコルネの姉妹を花火にしたものだ。
ブランも「ミー!」(最高ー!)と太鼓判を押してくれた。
花火が終わっても、コルナはしばらく黙っていた。
「エンデさんたちのは?」
「ああ、エンデとデメルは加藤の家族になるだろう?
だから、今回は花火にしなかった」
「今度やるときは、キツネさんたちの花火も作ってあげて」
「うん、分かったよ」
「あー、楽しかった。
でも、何でもそうだけど、楽しいことは一瞬ね」
コルナが鉄茶を飲みほす。
俺は二杯目をすぐに注いだ。
「一瞬?
そうでもないよ。
実は、花火は前座なんだ」
「どういうこと?」
お茶道具と二つのカップをお盆に移すと、それを部屋の隅に置く。
指を一つ鳴らすと、テーブルとソファーが消える。
再び指を鳴らすと、布団のようなマットが現れた。
大きさは余裕をもって、キングサイズにしてある。
「コルナ、ここに横になってごらん。
ああ、上を向いてね」
「こう?」
俺は機内の明かりを全て消した。
「これも、ふわふわね。
だけど、これ、どういう意味が……ああっ!」
花火を見た後、少し時間がたったことで、コルナの目は暗さに慣れてきたはずだ。
そして、透明にした機体の天井を通し、そこには満天の星が広がっていた。
月が出ていない空だからこそできた芸当だ。
「凄いでしょ」
「……」
コルナは言葉を失い、空を見上げている。
「点ちゃん、ありがとう!」
『ぐ(≧▽≦) えへへ、どういたしまして』
「少しだけ、シローと二人きりにしてくれる?」
コルナが珍しく「お兄ちゃん」ではなく「シロー」呼びになっている。
『(*'▽')ノ はーい。ブランちゃんも、隣の部屋に行こうね』
「ミ、ミー」(まあ、いいよ)
二人きりになると、コルナが同じく横になった俺の手を握る。
「シロー、あなたは、私が夢に見た通りの人だったわ」
「コルナは、最初会ったときより、何倍も綺麗になったよ」
「もうっ!
それじゃあ、最初が不細工だったみたいじゃない」
「ははは、最初は畏れおおい存在だったから」
「獣人会議議長が?
そうでもないよ。
『神樹の巫女』なら、まだ分かるけど」
「今回も、世界群を救ってくれた」
「それは、みんなが協力したからでしょ」
「猫賢者様から詳しく伺ったんだけど、修行は命懸けだったそうだね」
「ははは、自分ではそんなこと気にかけなかったけど」
「こうしてここで、世界を救った美女と星を見てるなんて信じられないね」
「び、美女……」
「そう、空の星よりずっと綺麗なね」
「……ぷっ、あはっ、あははははっ――」
「おいおい、真面目に言ってるんだから、笑うのはないだろう」
「ははは、はあ、おかしかった。
コリーダがね、「シローは時々、凄く面白いことを言う」って言ってたけど、このことだったのね」
「なんか、釈然としないなあ」
星が急に見えなくなると、唇に柔らかいものが当たった。
「これで機嫌直してね」
「……」
コルナと初めて唇を交わしたと気づいた俺は、闇の中でまっ赤になっていた。
俺たち二人は、夜が白むまで手を繋ぎ星を見ていた。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
罪人として生まれた私が女侯爵となる日
迷い人
ファンタジー
守護の民と呼ばれる一族に私は生まれた。
母は、浄化の聖女と呼ばれ、魔物と戦う屈強な戦士達を癒していた。
魔物からとれる魔石は莫大な富を生む、それでも守護の民は人々のために戦い旅をする。
私達の心は、王族よりも気高い。
そう生まれ育った私は罪人の子だった。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる