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第十章 奴隷世界スレッジ編

第80話 報酬と感謝9

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 舞子の屋敷で夕食を終えたは、コルナを屋敷の外に連れだした。

「お兄ちゃん、ナルとメルの様子が――」

「コルネが見てくれてるよ。
 今は黙ってついてきてほしい」

 俺がそう言うと、コルナは黙った。
 夜の草原に、飛行型の点ちゃん1号を出す。
  
 この日は月がない夜だったから、魔術で造ったゴルフボールサイズの光玉を幾つか宙に浮かせる。
 光玉で照らされ光を帯びた白銀の機体は、とても幻想的だった。

 コルナの手を取り、機体の中に招きいれる。

「うわあ!」

 コルナが思わず声を上げる。
 機内は、この時のために俺が工夫を凝らした内装になっている。
 落ちついた茶色を基調とした色合いで統一してある。
 これは、かつてコルナが住んでいた狐人領の城で見た内装を参考にしてある。
 
「落ちつくなあ」

「さあ、ここに座って」

「あっ、これって――」

「気がついた?
 緑苔で作ったソファーだよ。
 緑苔だけだと柔らかすぎるから、その辺、工夫してある」

 内部にクッションを入れ、それを覆う形で緑苔を入れてある。通常のクッション、緑苔、二層式のソファーだ。

「ふわふわだね~。
 だけど、これだと、すぐに眠くなっちゃう」

「そうでしょ、だからこれを飲んで」

「黒いね。
 地球世界で飲んだ苦い液体じゃないよね?」

 コルナは、コーヒーが苦手みたいだからね。

「ああ、コーヒーね。
 これは違うよ」

 コルナは、それを一口飲んで目を見張った。

「美味しいっ!」

「この味が好きだと思ったよ」

 彼女が好む味からたどり着いたのが、このお茶だった。

「これ、お茶でしょ?
 初めて飲んだけど」

「うん、これはドワーフ族が飲んでいる『鉄茶』って言うんだよ」

「ふうん、『鉄茶』か」

「ああ、ただし、普通のとはちょっと違う極上品だけどね」

 これは、ドワーフ皇国秘蔵のものを、シリル女王陛下が褒美としてくれたものだ。
 世界群にも同じものが二つとないという、極めて貴重なものだ。

「これ、『べらぼうめえ』な高級品ね」

 ああ、また舞子から『べらぼうめえ』なんて言葉を習ったな。

「ああ、そうだよ。
 コルナ、帰りは狐人領に寄るかい?」

「……うーん、コルネにも会えたし、アリストの『くつろぎの家』に帰りたいかな」

「点ちゃんに頼めば、狐人領のお城まで一瞬だよ」

「そうねえ、だけど今回はよしとくわ。
 この後、みんなでドラゴニアに行くんでしょ?」

「ああ、その予定だよ」

「あの子たちに早く会いたいから、今回は狐人領に寄らなくていいよ」

 コルナが「あの子たち」と言ったのは、彼女がお母さん役をしている三体の子竜のことだろう。

「そうだね。
 君がそれでよければ。
 さて、この辺でいいかな」

 点ちゃん1号を、空中で停止させる。

「お兄ちゃん、何が始まるの?」

「お茶を飲みながら楽しんでね」

 暗いから見えないが、点ちゃん1号を停めたのは海の上空だ。
 これからすることには、ここが便利なのだ。

 さあ、点ちゃんいいよ。

 ドーン!

 とりわけ大きな花火が空に咲く。
 花火はとんがり耳が二つついた形をしていた。

「うわーっ、綺麗!
 あっ、あれ、私?」

「そう、コルナ花火だね」

 ドン!
 ドン!
 
 花火が次々に上がる。
 花火は海に映り、同時に二つ上がったように見える。

「あっ、あれはナルとメルね!
 それから、あれがルル、あれがコリーダね」

 花火は続けざまに上がり、夜空を彩っていく。

「あれは、おじい様。
 それから、ミミ、ポル。
 デロンチョコンビのもあるのね」

「そうだよ」

「あの誰かがもう一人の頭を叩いてるのは?」

「ああ、エレノアさんとレガルスさんだね」

「ブラン、ノワール、コリンの花火もあるのね」

 最後にもう一度、特大のコルナ花火が上がった。
 これは、コルナとコルネの姉妹を花火にしたものだ。
 ブランも「ミー!」(最高ー!)と太鼓判を押してくれた。

 花火が終わっても、コルナはしばらく黙っていた。

「エンデさんたちのは?」

「ああ、エンデとデメルは加藤の家族になるだろう?
 だから、今回は花火にしなかった」

「今度やるときは、キツネさんたちの花火も作ってあげて」

「うん、分かったよ」

「あー、楽しかった。
 でも、何でもそうだけど、楽しいことは一瞬ね」

 コルナが鉄茶を飲みほす。
 俺は二杯目をすぐに注いだ。

「一瞬?
 そうでもないよ。
 実は、花火は前座なんだ」

「どういうこと?」

 お茶道具と二つのカップをお盆に移すと、それを部屋の隅に置く。
 指を一つ鳴らすと、テーブルとソファーが消える。
 再び指を鳴らすと、布団のようなマットが現れた。
 大きさは余裕をもって、キングサイズにしてある。

「コルナ、ここに横になってごらん。
 ああ、上を向いてね」

「こう?」

 俺は機内の明かりを全て消した。

「これも、ふわふわね。
 だけど、これ、どういう意味が……ああっ!」

 花火を見た後、少し時間がたったことで、コルナの目は暗さに慣れてきたはずだ。
 そして、透明にした機体の天井を通し、そこには満天の星が広がっていた。
 月が出ていない空だからこそできた芸当だ。

「凄いでしょ」

「……」

 コルナは言葉を失い、空を見上げている。

「点ちゃん、ありがとう!」

『ぐ(≧▽≦) えへへ、どういたしまして』   

「少しだけ、シローと二人きりにしてくれる?」

 コルナが珍しく「お兄ちゃん」ではなく「シロー」呼びになっている。

『(*'▽')ノ はーい。ブランちゃんも、隣の部屋に行こうね』

「ミ、ミー」(まあ、いいよ)

 二人きりになると、コルナが同じく横になった俺の手を握る。
 
「シロー、あなたは、私が夢に見た通りの人だったわ」

「コルナは、最初会ったときより、何倍も綺麗になったよ」

「もうっ!
 それじゃあ、最初が不細工だったみたいじゃない」

「ははは、最初は畏れおおい存在だったから」

「獣人会議議長が?
 そうでもないよ。
『神樹の巫女』なら、まだ分かるけど」

「今回も、世界群を救ってくれた」

「それは、みんなが協力したからでしょ」

「猫賢者様から詳しく伺ったんだけど、修行は命懸けだったそうだね」

「ははは、自分ではそんなこと気にかけなかったけど」

「こうしてここで、世界を救った美女と星を見てるなんて信じられないね」

「び、美女……」

「そう、空の星よりずっと綺麗なね」

「……ぷっ、あはっ、あははははっ――」

「おいおい、真面目に言ってるんだから、笑うのはないだろう」

「ははは、はあ、おかしかった。
 コリーダがね、「シローは時々、凄く面白いことを言う」って言ってたけど、このことだったのね」

「なんか、釈然としないなあ」

 星が急に見えなくなると、唇に柔らかいものが当たった。
 
「これで機嫌直してね」

「……」

 コルナと初めて唇を交わしたと気づいた俺は、闇の中でまっ赤になっていた。
 俺たち二人は、夜が白むまで手を繋ぎ星を見ていた。
 
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