上 下
468 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第79話 報酬と感謝8

しおりを挟む

 点ちゃん曰く「恥にまみれた」演説をケーナイギルドで俺がしてから三日後に、『神樹戦役』のパレードが開かれることが決まっていた。
 これは獣人会議主催で行われるもので、全ての獣人族から族長が集まった。
 パレードに参加しようという人々が、『時の島』大陸全土から集まったため、宿泊施設が足りなくなった。
 そのため、ケーナイギルドからパーティ・ポンポコリン宛てに急な指名依頼が出された。
 依頼内容は、宿泊所の確保だ。

 俺は町の北側にある荒れ地に『土の街』を造った。
 この街は、これからも使えるように、下水道を完備してある。
 十キロほど離れた川から水を引くため、予想外に大掛かりな工事となった。
 
 宿泊施設とは別に、大きな建物を一つ建てた。
 これは二階建ての高さがあるもので、中はがらんどうになっている。
 小さな体育館くらい広さがある床には、全面マットが敷いてある。

 パレードの前日である今日、俺たちは、ここを訪れている。
 ナルとメルは、建物に入るなり、床をコロコロ転がって遊んでいる。
 やがて、入り口から、大勢の獣人が入ってきた。
 各部族の族長たちだ。
 大柄な熊人族から小柄な狸人族まで、様々な獣人がいる。

「わーい!
 熊のおじさん!」
「猫のおじさん!」

 ナルとメルがさっそくじゃれついていく。
 族長たちは、最初二人に礼をした後、それぞれが相手をしてくれている。

「お兄ちゃん、これって、ちょっとやり過ぎじゃない?」

 コルナが言っているのは、この建物のことだ。
 ここは、ナルとメルが族長たちと遊ぶためだけに俺が用意したものだ。
 つまり、この施設は一日だけのお遊戯場だ。
 
「まあ、いいんじゃないかな。
 俺たちがアリストに帰ったら、ここを『神樹戦役記念館』にするってアンデが言ってたし」

 アンデは、ケーナイを治める、犬人の族長でもあるからね。

「それでもねえ。
 お兄ちゃんは、ナルちゃん、メルちゃんにホント甘いんだから」

 熊人のお腹でトランポリンをしているメルに手を振りながら、コルナがそう言った。

「そうかなあ」

「こういうのは地球世界で『親バカ』って言うんだって、マイコが教えてくれたよ」

 ちょっと意味が違うような気がする。
 舞子は、友人のコルナに微妙に意味がずれた言葉を教え、からかっていることがある。

「真竜様のお姿をこうやって拝見できるとは、本当に光栄な事です。ニャ」

 俺たちの横に並んだ猫賢者が、ナルとメルを見て目を細めている。

「一度、ドラゴンの姿で遊ばれているのを見たいものじゃ。ニャニャニャ」

「猫賢者様、よろしければ、近いうちに天竜国までご一緒しましょう。
 そこでは、竜王様がやっている子竜の学校がありますよ」

「おおおっ!!
 本当か、シロー殿!
 きっときっとじゃぞ! 
 ニャニャニャー!」

 猫賢者の食いつきが凄いことになっている。
 
「わ、分かりました」

 とりあえず、そう答えて彼の興奮を鎮めておこう。
 途中、様子を見にきたポルとミミも遊びに加わり、お遊戯室ではナルとメルの笑い声が夕方まで途切れなかった。

 ◇

 俺たちは、舞子の屋敷にある客室で、食事までのひと時を過ごしていた。
 遊び疲れたナルとメルは、すでにぐっすり寝ている。

「毛玉が一杯できちゃいました」

 ポルが泣きそうな顔で言う。
 彼は自分の尻尾(しっぽ)にブラッシングをしている。
 ポルの尻尾がダマダマになったのは、ナルとメルがそれを標的にした『ぽるっぽ』という遊びをしたからだ。

 最初、ナルとメルの遊びに参加する予定がなかったポルだが、遊びとなると発揮される、彼女たちが持つ無尽蔵のエネルギーに、族長たちが次々と脱落すると、仕方なくお遊戯に参加することになった。
 ポルの尻尾を触りまくるという、『ぽるっぽ』遊びは、彼にトラウマを植えつけるほどキツイらしい。

 点ちゃん、お願いできる?

『(・ω・)ノ やってみるー』
  
 点ちゃんは、しばらく何やらしていたが、どうやら解決策を見つけたようだ。

「ポル、点ちゃんが毛玉を取ってくれるそうだから動くなよ」

「えっ、そうですか?
 点ちゃん、ぜひお願いします」

 点ちゃんにしては、時間がかなっていたな。

『(u ω u)~3 ふう、やっと終わった』 

「あれ、あれれっ!?」

「ポル、どうした?」

「なんか、なんか尻尾がおかしいんです」

「おかしい?」

 よく見ると、確かにポルの尻尾が変化している。
 そこには見慣れたふさふさ尻尾の代わりに、筆のような細い尻尾があった。

 点ちゃん、ポルの尻尾が細くなってるよ。

『(・ω・) もつれていた毛は除去しました』
 
 えっ!?
 どうしてそんなことに?!

『へ(u ω u)へ だって、あれを全てほどこうと思ったら、『神樹戦役』で使った以上のエネルギーが要求されますよ。常識的に考えて、それは却下しました』

「点ちゃん、ヒドイ……」

 自慢の尻尾が残念な事になり、肩を落としているポルからそういう言葉が漏れた。

 あれ?
 なんかおかしいぞ。

「ポル、点ちゃんが言ってること、聞こえるの?」

「あれ?
 そういえば、どうしたんでしょ?!」

 なるほど、そういう事か。
 点ちゃん、点が着いてる人となら、おしゃべりできるようになってるみたい。

『(・ω・) ご主人様はもう……。そんなことある訳ないじゃないですか』
 
「そんなことある訳ないじゃないですか」

 ポルが点ちゃんの声に続けて復唱する。

『!(@o@)! き、聞こえてる!?』

「聞こえてますよ」

 ポルがすかさず答える。

『\(^ω^)/ やったー!!』

 こうして、人間との間に会話のチャンネルを手に入れた点ちゃんだった。
 聖樹様の加護が影響しているのは、まず間違いないだろう。

 あれ?
 これって、ルルに告げ口されまくりになるんじゃない?

 俺の予想通り、点ちゃんの新能力は、やがて俺の精神をガリガリ削ることになる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

優しさを君の傍に置く

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:587

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:38

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:145

【R18】伯爵令嬢は悪魔を篭絡する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:6

悪役令息なのでBLはしたくないんですけど!?

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:553

黄金郷の白昼夢

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:73

先輩の旦那さんってチョロいですね~♪

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

生まれながらに幸福で

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...