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第十章 奴隷世界スレッジ編
第79話 報酬と感謝8
しおりを挟む点ちゃん曰く「恥にまみれた」演説をケーナイギルドで俺がしてから三日後に、『神樹戦役』のパレードが開かれることが決まっていた。
これは獣人会議主催で行われるもので、全ての獣人族から族長が集まった。
パレードに参加しようという人々が、『時の島』大陸全土から集まったため、宿泊施設が足りなくなった。
そのため、ケーナイギルドからパーティ・ポンポコリン宛てに急な指名依頼が出された。
依頼内容は、宿泊所の確保だ。
俺は町の北側にある荒れ地に『土の街』を造った。
この街は、これからも使えるように、下水道を完備してある。
十キロほど離れた川から水を引くため、予想外に大掛かりな工事となった。
宿泊施設とは別に、大きな建物を一つ建てた。
これは二階建ての高さがあるもので、中はがらんどうになっている。
小さな体育館くらい広さがある床には、全面マットが敷いてある。
パレードの前日である今日、俺たちは、ここを訪れている。
ナルとメルは、建物に入るなり、床をコロコロ転がって遊んでいる。
やがて、入り口から、大勢の獣人が入ってきた。
各部族の族長たちだ。
大柄な熊人族から小柄な狸人族まで、様々な獣人がいる。
「わーい!
熊のおじさん!」
「猫のおじさん!」
ナルとメルがさっそくじゃれついていく。
族長たちは、最初二人に礼をした後、それぞれが相手をしてくれている。
「お兄ちゃん、これって、ちょっとやり過ぎじゃない?」
コルナが言っているのは、この建物のことだ。
ここは、ナルとメルが族長たちと遊ぶためだけに俺が用意したものだ。
つまり、この施設は一日だけのお遊戯場だ。
「まあ、いいんじゃないかな。
俺たちがアリストに帰ったら、ここを『神樹戦役記念館』にするってアンデが言ってたし」
アンデは、ケーナイを治める、犬人の族長でもあるからね。
「それでもねえ。
お兄ちゃんは、ナルちゃん、メルちゃんにホント甘いんだから」
熊人のお腹でトランポリンをしているメルに手を振りながら、コルナがそう言った。
「そうかなあ」
「こういうのは地球世界で『親バカ』って言うんだって、マイコが教えてくれたよ」
ちょっと意味が違うような気がする。
舞子は、友人のコルナに微妙に意味がずれた言葉を教え、からかっていることがある。
「真竜様のお姿をこうやって拝見できるとは、本当に光栄な事です。ニャ」
俺たちの横に並んだ猫賢者が、ナルとメルを見て目を細めている。
「一度、ドラゴンの姿で遊ばれているのを見たいものじゃ。ニャニャニャ」
「猫賢者様、よろしければ、近いうちに天竜国までご一緒しましょう。
そこでは、竜王様がやっている子竜の学校がありますよ」
「おおおっ!!
本当か、シロー殿!
きっときっとじゃぞ!
ニャニャニャー!」
猫賢者の食いつきが凄いことになっている。
「わ、分かりました」
とりあえず、そう答えて彼の興奮を鎮めておこう。
途中、様子を見にきたポルとミミも遊びに加わり、お遊戯室ではナルとメルの笑い声が夕方まで途切れなかった。
◇
俺たちは、舞子の屋敷にある客室で、食事までのひと時を過ごしていた。
遊び疲れたナルとメルは、すでにぐっすり寝ている。
「毛玉が一杯できちゃいました」
ポルが泣きそうな顔で言う。
彼は自分の尻尾(しっぽ)にブラッシングをしている。
ポルの尻尾がダマダマになったのは、ナルとメルがそれを標的にした『ぽるっぽ』という遊びをしたからだ。
最初、ナルとメルの遊びに参加する予定がなかったポルだが、遊びとなると発揮される、彼女たちが持つ無尽蔵のエネルギーに、族長たちが次々と脱落すると、仕方なくお遊戯に参加することになった。
ポルの尻尾を触りまくるという、『ぽるっぽ』遊びは、彼にトラウマを植えつけるほどキツイらしい。
点ちゃん、お願いできる?
『(・ω・)ノ やってみるー』
点ちゃんは、しばらく何やらしていたが、どうやら解決策を見つけたようだ。
「ポル、点ちゃんが毛玉を取ってくれるそうだから動くなよ」
「えっ、そうですか?
点ちゃん、ぜひお願いします」
点ちゃんにしては、時間がかなっていたな。
『(u ω u)~3 ふう、やっと終わった』
「あれ、あれれっ!?」
「ポル、どうした?」
「なんか、なんか尻尾がおかしいんです」
「おかしい?」
よく見ると、確かにポルの尻尾が変化している。
そこには見慣れたふさふさ尻尾の代わりに、筆のような細い尻尾があった。
点ちゃん、ポルの尻尾が細くなってるよ。
『(・ω・) もつれていた毛は除去しました』
えっ!?
どうしてそんなことに?!
『へ(u ω u)へ だって、あれを全てほどこうと思ったら、『神樹戦役』で使った以上のエネルギーが要求されますよ。常識的に考えて、それは却下しました』
「点ちゃん、ヒドイ……」
自慢の尻尾が残念な事になり、肩を落としているポルからそういう言葉が漏れた。
あれ?
なんかおかしいぞ。
「ポル、点ちゃんが言ってること、聞こえるの?」
「あれ?
そういえば、どうしたんでしょ?!」
なるほど、そういう事か。
点ちゃん、点が着いてる人となら、おしゃべりできるようになってるみたい。
『(・ω・) ご主人様はもう……。そんなことある訳ないじゃないですか』
「そんなことある訳ないじゃないですか」
ポルが点ちゃんの声に続けて復唱する。
『!(@o@)! き、聞こえてる!?』
「聞こえてますよ」
ポルがすかさず答える。
『\(^ω^)/ やったー!!』
こうして、人間との間に会話のチャンネルを手に入れた点ちゃんだった。
聖樹様の加護が影響しているのは、まず間違いないだろう。
あれ?
これって、ルルに告げ口されまくりになるんじゃない?
俺の予想通り、点ちゃんの新能力は、やがて俺の精神をガリガリ削ることになる。
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