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第十章 奴隷世界スレッジ編
第70話 帰郷と報酬3
しおりを挟む「シロー殿、それは!?」
ミランダさんは、森から出てきた俺を見るなり、そう言った。
「ミランダさん、俺の事は今までどおり、シローでお願いします。
ところで、”それ” とは?」
「体が光っていますよ」
えっ!? そうなの?
点ちゃん、なんとかならない。
『(・ω・) ちょっとやってみる』
「おや、光が消えた」
「よかったです」
電飾人間にならなくて。
「聖樹様とのお話を、できるならうかがえますか?」
ミランダさんが、頭を下げる。
そこには聖樹様への敬意が感じられた。
「もちろんです」
◇
俺はギルド本部の個室で、ミランダさんに聖樹様とのやり取りを話した。
そのことを伝えていいかどうかは、聖樹様から許可を頂いた。
どうやって?
その部屋には、鉢植えの観葉植物が置いてあるのだが、「彼」と話をしたのだ。
そう、聖樹様に祝福を頂いてから、俺は植物と話ができるようになっていた。
全ての植物は聖樹様と繋がっているから、お話ししようと思えばいつでもできる。
木と会話できるっていうのは、聖樹様のところから歩いて帰る途中で気づいたんだけどね。
点ちゃんは森の木々と話せて、とても喜んでいた。
「シロー殿、ああ、シロー。
いただいたものが何か、分かってるのかい?」
「ええ、これを見てください」
聖樹様の所で点ちゃんが回収したものを一つ、点収納から出す。
テーブルの上に、羽根つきの羽根のようなものがコトリと載る。
「これは?」
「おそらく神樹様の種だと思います」
「えっ!
そんな大それたものなのかい!?」
「ええ、以前にも見たことがありますから」
「はあ、とんでもないお礼だね、こりゃ。
これ一つかい?」
「それが一万個ほど――」
「ええっ!?」
「まあ、その数から考えて、どうすればいいか分かってるんですけど」
「……この歳になって、大概のことには驚かなくなってるんだけどねえ。
あんたは、本当に並外れてるね」
「いや、凄いのは、俺ではなくて聖樹様ですよ」
「まあ、そういうことにしとくけどさ」
「では、これをみなに渡さないといけないんで、帰りますね」
「もっとゆっくりして欲しいんだが、家族が待ってるだろうから仕方ないね。
次はナルちゃん、メルちゃん、それからポルとミミも連れておいで」
ポルとミミは、ミランダさんから目を掛けられてるからね。
「ありがとうございます」
◇
ギルド本部から外に出ると、エレノアさんとレガルスさんが立っていた。
「シロー君、ルルと世界を守ってくれてありがとう」
エレノアさんは涙ぐんでいる。
「おい、どうしてルルを連れてこなかった?!」
レガルスさんは、相変わらずだな。
「今回は聖樹様のお仕事で来ましたから」
「そ、そうでしたか。
これは失礼しました」
さすがのレガルスも、その辺はわきまえているようだ。
「次は家族で来ますから」
「絶対だぞ!」
「待ってるわ」
コリーダを迎えるため、俺は『東の島』エルフ王城へ瞬間移動した。
◇
俺が現われたのは、エルフ王城イビスの中庭だった。
少し歩いただけで、騎士に見つかってしまう。
そうなるともう大変だ。
城からわらわら出てくる騎士が、米つきバッタのように礼をする。
う~ん、これは陛下に頼んで禁止してもらおう。
俺がそんなことを考えていると、その陛下自らが現れた。
「陛下、お久しぶりです」
「シロー殿!
娘から聞いておりますぞ。
この度は世界群の崩壊を未然に防いでいただき、心から感謝する」
「陛下、とにかく静かに話せるところに行きませんか」
「そうだのう。
ワシの執務室でどうだ?」
「いいですね」
俺は陛下と二人、国王の執務室へ瞬間移動した。
窓の外には森が広がる雄大な景色があった。
「こ、これは!?
例のやつだな。
しかし、どうもこの移動法には慣れぬな」
陛下は瞬間移動を体験済みだからね。
「ははは、普通はそうでしょう。
それより、この度は国宝を下賜していただいたとのこと、ありがとうございました」
「気にせずともよい。
世界群の危機だ。
自分や娘たちのためでもある」
「あの笛が戦いの決め手になりましたよ」
「そうであったか!
役に立ってなによりだ」
「ところで、聖樹様からご褒美を頂いております」
「な、なにっ!?
聖樹様からとな?」
「はい、直接いただきましたよ。
これがそうです」
俺は机の上にそれを出した。
「不思議な形のものじゃな」
俺は羽根つきの羽根のようなものから、直径三センチほどの球を取りだした。
「この白い玉は?」
「神樹の種です」
「おおっ!」
「お城の中庭に植えるといいでしょう」
「そうか、それはありがたい!」
エルフ王は、本当に嬉しそうだった。
◇
エルフ王が歓迎の宴に招待してくれた。
彼は俺が大げさなことが嫌いだと分かっているから、テーブルに着いているのは、陛下とお后、そして五人の娘たちだけだ。
俺は席に着くなり、質問攻めにあっていた。
「シロー、妹とはどうなの?」
「マックやリーヴァスさんは元気?」
「その肩に乗ってる白い生き物はなに?」
「ナルちゃん、メルちゃんは元気?」
王女たちの質問に、俺は食事をする暇もない。
「これ、お前たち。
食事が終わってからにしなさい」
陛下の言葉でやっと料理を味わうことができた。
食後にデザートとお茶が出ると、また質問が始まった。
「シロー殿、その……あの、子供はお好きか?」
お后が、恐る恐る尋ねる。
ああ、何を言いたいかは分かる。
「お母さま!
そういう話はやめてください」
「でも、コリーダ、これは大切な事よ」
姉であるシレーネ姫が真面目な顔で妹を見る。
「コルナの話だと、シローはずい分お堅いそうですから」
「ちょっと、モリーネ、何言ってるの!」
コリーダが赤くなっている。
しかし、コルナはどんな情報を流したんだ。
「そういえば、シローはどうしてコリーダ姉さまを選んだの?」
「どうして?」
「マ、マリーネ、ポリーネ、何という事を……」
コリーダは耳まで赤くなってしまった。
「そうですね。
一目惚れですね」
「「「わああ!」」」
俺の言葉に四人の王女が歓声を上げる。
「もう、シローの馬鹿!」
俺は隣で俯いてしまったコリーダの手を握った。
「シロー殿は、もう私たちの家族だよ。
私たちの家族二人、シローとコリーダが世界群を救ってくれたことは、本当に名誉なことだ」
陛下の言葉は、礼節と名誉を重んじるエルフらしいものだった。
「私はあなたが無事でいてくれただけで十分」
お后は席を立つと、コリーダの肩に手を置いた。
「お母さま……」
長い事、実の母親と心を通わせられなかったコリーダも、今は母の言葉に涙を流している。
「シロー殿、早く帰りたいだろうが、明日だけはこの国にいてくださらんか?」
いつになく真剣な陛下の表情に、思わず答えてしまう。
「はい……そうします」
次の日、俺はそれを後悔することになった。
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