上 下
459 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第70話 帰郷と報酬3

しおりを挟む


「シロー殿、それは!?」

 ミランダさんは、森から出てきた俺を見るなり、そう言った。

「ミランダさん、俺の事は今までどおり、シローでお願いします。
 ところで、”それ” とは?」

「体が光っていますよ」

 えっ!? そうなの?
 点ちゃん、なんとかならない。

『(・ω・) ちょっとやってみる』
  
「おや、光が消えた」 

「よかったです」

 電飾人間にならなくて。

「聖樹様とのお話を、できるならうかがえますか?」

 ミランダさんが、頭を下げる。
 そこには聖樹様への敬意が感じられた。

「もちろんです」

 ◇

 俺はギルド本部の個室で、ミランダさんに聖樹様とのやり取りを話した。
 そのことを伝えていいかどうかは、聖樹様から許可を頂いた。
 どうやって?

 その部屋には、鉢植えの観葉植物が置いてあるのだが、「彼」と話をしたのだ。
 そう、聖樹様に祝福を頂いてから、俺は植物と話ができるようになっていた。
 全ての植物は聖樹様と繋がっているから、お話ししようと思えばいつでもできる。

 木と会話できるっていうのは、聖樹様のところから歩いて帰る途中で気づいたんだけどね。
 点ちゃんは森の木々と話せて、とても喜んでいた。

「シロー殿、ああ、シロー。
 いただいたものが何か、分かってるのかい?」

「ええ、これを見てください」

 聖樹様の所で点ちゃんが回収したものを一つ、点収納から出す。
 テーブルの上に、羽根つきの羽根のようなものがコトリと載る。

「これは?」

「おそらく神樹様の種だと思います」

「えっ!
 そんな大それたものなのかい!?」 
 
「ええ、以前にも見たことがありますから」

「はあ、とんでもないお礼だね、こりゃ。
 これ一つかい?」

「それが一万個ほど――」

「ええっ!?」

「まあ、その数から考えて、どうすればいいか分かってるんですけど」
 
「……この歳になって、大概のことには驚かなくなってるんだけどねえ。  
 あんたは、本当に並外れてるね」

「いや、凄いのは、俺ではなくて聖樹様ですよ」

「まあ、そういうことにしとくけどさ」

「では、これをみなに渡さないといけないんで、帰りますね」

「もっとゆっくりして欲しいんだが、家族が待ってるだろうから仕方ないね。
 次はナルちゃん、メルちゃん、それからポルとミミも連れておいで」

 ポルとミミは、ミランダさんから目を掛けられてるからね。

「ありがとうございます」

 ◇

 ギルド本部から外に出ると、エレノアさんとレガルスさんが立っていた。
 
「シロー君、ルルと世界を守ってくれてありがとう」

 エレノアさんは涙ぐんでいる。

「おい、どうしてルルを連れてこなかった?!」

 レガルスさんは、相変わらずだな。

「今回は聖樹様のお仕事で来ましたから」

「そ、そうでしたか。
 これは失礼しました」

 さすがのレガルスも、その辺はわきまえているようだ。

「次は家族で来ますから」

「絶対だぞ!」
「待ってるわ」

 コリーダを迎えるため、俺は『東の島』エルフ王城へ瞬間移動した。

 ◇

 俺が現われたのは、エルフ王城イビスの中庭だった。
 少し歩いただけで、騎士に見つかってしまう。
 そうなるともう大変だ。
 城からわらわら出てくる騎士が、米つきバッタのように礼をする。
    
 う~ん、これは陛下に頼んで禁止してもらおう。
 俺がそんなことを考えていると、その陛下自らが現れた。

「陛下、お久しぶりです」

「シロー殿!
 娘から聞いておりますぞ。
 この度は世界群の崩壊を未然に防いでいただき、心から感謝する」

「陛下、とにかく静かに話せるところに行きませんか」

「そうだのう。
 ワシの執務室でどうだ?」

「いいですね」

 俺は陛下と二人、国王の執務室へ瞬間移動した。
 窓の外には森が広がる雄大な景色があった。

「こ、これは!?
 例のやつだな。
 しかし、どうもこの移動法には慣れぬな」

 陛下は瞬間移動を体験済みだからね。

「ははは、普通はそうでしょう。
 それより、この度は国宝を下賜していただいたとのこと、ありがとうございました」

「気にせずともよい。
 世界群の危機だ。
 自分や娘たちのためでもある」

「あの笛が戦いの決め手になりましたよ」

「そうであったか!
 役に立ってなによりだ」
 
「ところで、聖樹様からご褒美を頂いております」

「な、なにっ!?
 聖樹様からとな?」

「はい、直接いただきましたよ。
 これがそうです」

 俺は机の上にそれを出した。

「不思議な形のものじゃな」

 俺は羽根つきの羽根のようなものから、直径三センチほどの球を取りだした。

「この白い玉は?」

「神樹の種です」

「おおっ!」

「お城の中庭に植えるといいでしょう」

「そうか、それはありがたい!」

 エルフ王は、本当に嬉しそうだった。

 ◇

 エルフ王が歓迎の宴に招待してくれた。
 彼は俺が大げさなことが嫌いだと分かっているから、テーブルに着いているのは、陛下とお后、そして五人の娘たちだけだ。

 俺は席に着くなり、質問攻めにあっていた。

「シロー、妹とはどうなの?」
「マックやリーヴァスさんは元気?」
「その肩に乗ってる白い生き物はなに?」
「ナルちゃん、メルちゃんは元気?」

 王女たちの質問に、俺は食事をする暇もない。

「これ、お前たち。
 食事が終わってからにしなさい」

 陛下の言葉でやっと料理を味わうことができた。
 食後にデザートとお茶が出ると、また質問が始まった。

「シロー殿、その……あの、子供はお好きか?」

 お后が、恐る恐る尋ねる。
 ああ、何を言いたいかは分かる。

「お母さま!
 そういう話はやめてください」

「でも、コリーダ、これは大切な事よ」

 姉であるシレーネ姫が真面目な顔で妹を見る。

「コルナの話だと、シローはずい分お堅いそうですから」

「ちょっと、モリーネ、何言ってるの!」

 コリーダが赤くなっている。
 しかし、コルナはどんな情報を流したんだ。

「そういえば、シローはどうしてコリーダ姉さまを選んだの?」
「どうして?」

「マ、マリーネ、ポリーネ、何という事を……」

 コリーダは耳まで赤くなってしまった。

「そうですね。
 一目惚れですね」

「「「わああ!」」」

 俺の言葉に四人の王女が歓声を上げる。

「もう、シローの馬鹿!」

 俺は隣で俯いてしまったコリーダの手を握った。

「シロー殿は、もう私たちの家族だよ。
 私たちの家族二人、シローとコリーダが世界群を救ってくれたことは、本当に名誉なことだ」

 陛下の言葉は、礼節と名誉を重んじるエルフらしいものだった。

「私はあなたが無事でいてくれただけで十分」

 お后は席を立つと、コリーダの肩に手を置いた。

「お母さま……」

 長い事、実の母親と心を通わせられなかったコリーダも、今は母の言葉に涙を流している。

「シロー殿、早く帰りたいだろうが、明日だけはこの国にいてくださらんか?」

 いつになく真剣な陛下の表情に、思わず答えてしまう。

「はい……そうします」

 次の日、俺はそれを後悔することになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...