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第十章 奴隷世界スレッジ編
第67話 終わりと始まり5
しおりを挟むいよいよ、俺たちがスレッジ世界を後にする時がきた。
ワイバーン、天竜族、竜人、アリスト軍ともに、すでにそれぞれの世界へ帰っていった。加藤、畑山さん、エミリー、翔太はアリスト軍と行動を共にした。マックとハピィフェローは、大聖女舞子の護衛として獣人世界へ向かった。
俺たちと一緒にアリストまで行くんだと最後まで駄々をこねていたジェラードは、赤竜族の女傑ゾーラさんに首根っこをつかまれ、引きずられていった。
ミミ、ポルも大聖女護衛に参加し、獣人世界へ帰った。
今この世界に残っているのは、俺たち家族、そして新設されたギルドを補助する冒険者たちだけだ。
「パーパ、ポポラちゃんがね、どうしても一緒に行きたいんだって」
家族用に建てた『土の家』のリビングでお茶を飲んでいると、俺の膝にナルが座り、そんなことを言った。
『ポポラ』というのは、ずっと俺と行動を共にしていたポポに、ナルがつけた名前だ。
「うーん、だけど、ポポラはこの世界にいた方が幸せなんじゃないかな」
「でも、ブランちゃんや点ちゃんと離れたくないんだって」
「そうなの?」
俺は最初にポポラと会った時のことを思いだしていた。
貴族の屋敷で、彼女は俺にウインクしてきたんだっけ。きっと俺とポポラには、縁があったのだろう。
「よーし、それなら連れていってもいいけど、もしポポラが嫌がったら、すぐにこの世界に返すからね。
それでもいいかい?」
「やったー!
パーパ大好き!」
ナルは俺の頬にキスをすると、さっと走っていった。ポポラに報告するのだろう。
ルルが俺の横に座る。
「ナルとメルは、今度の冒険で成長したみたいですね」
「うん、ずい分しっかりしてきたみたいだね」
「帰ったら、また学校に通わせましょう」
「そうだね。
学校に慣れてきたところだったのに、今回は長期休暇になっちゃったからね」
「二人は心配いりませんよ」
「でも、さすがに今回は心配したでしょ?」
「ええ、でも二人が行く世界にあなたがいるって分かってましたから」
「ルル……」
「ちょいと、お二人さん!
なに昼間っからいい雰囲気になってるの!」
「コ、コルナ」
「シロー、エルファリアには、私も連れていってくれるわよね」
「コ、コリーダ、もちろんだよ」
「ははは、仲がよろしいですな」
リーヴァスさん、俺たちの様子を見てたの?
は、恥ずかしい。
『(・ω・)ノ ご主人様は、いつもずっと恥ずかしい事してるでしょ』
ぐはっ!
点ちゃんの突っこみが、だんだん鋭くなってきてる。
◇
「シロー!
本当に、本当に、帰ってしまうのか?」
シリルが目に涙をためている。
俺はお別れの挨拶をするため、一人で女王の私室に来たのだ。
「はい、竜人も全て救出しましたし、もう俺の仕事は終わりましたから」
「やっぱり、わらわを助けてはくれぬのか?」
「シリル様、俺がいなくても、あなたを助けてくれる方はたくさんいます。
それでも本当に困ったことがあれば、ギルドを通せば連絡できますから。
俺はいつでも駆けつけますよ」
「でも、でも、やっぱりお主にいてほしかった……」
俺は中腰になると、小さなシリルを抱きしめてやった。
「あなたは、女王陛下としてふさわしいお人柄です。
アリストの女王陛下も、俺と同じ意見です。
ここが素晴らしい国になるようお祈りしております」
「……シロー、目を閉じてひざまずいてくれ」
「こうですか?」
額に柔らかなものが、そっと触れた。
俺が目を開けると、シリルは後ろを向いていた。
赤くなった耳が髪の間から見えている。
「シリル様、それではお暇します。
そうそう、あなたは私を『お菓子騎士』に任命してくださいましたね」
シリルの前に置いてある、凝った細工の丸テーブルに、お菓子の山が現れた。
「シリル様が大好きなチョコレートです。
暑いと溶けますから、気をつけてください」
「シロー!」
「では、またいつか」
俺は瞬間移動した。
◇
俺たち家族は、スレッジ世界をたつ前に、『大きなるものの国』を訪れた。
二匹のポポが一緒だ。
一匹はポポラで、もう一匹はメルが『ポポロ』と名づけたオスのポポだ。
俺たちは、おばば様がかつていらっしゃった、お社の前に膝まずく。
『おばば様、頂いたご加護のお陰で、全ての竜人を救うことができました。
本当にありがとうございました』
俺が心の中でそう祈ると、杜をなす全ての神樹様が葉音を鳴らした。
◇
お社への挨拶が終わると、巨人が住む里を訪れた。
「シロー殿、『鎮守の杜』と里、そして世界をお救いくださり、感謝しておりますじゃ。 この世界へいらっしゃったときは、またこの里に来てくだされ」
巨人の里長バルクさんが、俺に頭を下げる。
「ははは、お気にせず。
次この世界へきたら、必ず寄らせてもらいますよ」
「えーっ!
ご主人様、もう帰っちゃうの!?」
チビが大きな顔を悲しみで歪めている。
友達になったナルとメルが、そんなチビの手を撫でている。
「チビ、娘たちと友達になってくれてありがとう。
君のお陰で、この世界にいて楽しかったよ」
「ご、ご主人様……」
「それから俺たちはもう友達なんだから、シローって呼んでくれるかい?」
「シ、シロー」
「チビ、またいつか会おうね」
「本当に、本当にまた来てくれる?」
「ああ、約束する」
「分かった。
ボク待ってる、シロー」
俺は点魔法で宙に浮くと、彼の頭を撫でてやった。
「チビ、これは置いていくから、お母さんに渡して。
いっぺんに全部飲まないように」
彼の足元に大樽を十個ほど並べる。
「これは?」
「ハチミツ水だよ。
チビ、これが好きだろう?」
「うん、うう……うわ~ん」
チビが大泣きを始めたので、外にいた彼の母親チーダさんが入ってきた。
息子を抱き、俺の方を向く。
「シローさん、息子の事、本当にありがとうございました。
また、必ず寄ってください」
「ええ、そうさせてもらいます」
俺の家族が里長とチビの両親に挨拶している。
それが終わると、草原に瞬間移動し、そこからセルフポータルでアリストへ帰る予定だ。
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