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第十章 奴隷世界スレッジ編

第63話 終わりと始まり1

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 ソラルとガーベルは、その地位をはく奪された。
 新しくその座に着いたのは、元の皇帝、国王ではなかった。
 彼らは、それぞれが娘と息子の犯したことへの責任を取った形だ。

「シロー、どうしても助けてくれぬのか?」

 俺はドワーフ皇国王城にある女王の私室で、シリルからそう頼まれていた。

「シリル様、いや、女王シリル、あなたなら立派に国を治められますよ」

「その方の助けなしで、私に父上や姉上の代わりができるとは思えぬ」

「代わりどころか、それ以上のことができると思いますよ」

 俺の言葉に、侍従長が頷く。

「私もそう思います、シリル様」

「ローリィ、お前が側に居てくれて本当に心強いぞ」

「私だけではありません。
 お父上も、デメル様も、シリル様にお力添えしてくださるとおっしゃっています」

「う、うむ、それは頼もしいのだが……」

「それに、私が兄ローリスもシリル様をお守りします」

「ごらんなさい。
 奴隷として扱われていた者たちまで、あなたを助けようとしている。
 これは、あなたが女王の器だからです」

「シロー……できれば、お主も……何度頼んでもダメか?」

「申し訳ありません。
 俺は家族と自分の家に帰ります。
 ところで、女王陛下となられるにあたって、短期間ですが先生を頼んであります」

「先生とな?」

「ええ、きっとためになるとおもいますよ」

 俺はある人物に念話を飛ばすと、この場へ瞬間移動させた。

「あ、貴方は!」

 そこには豪奢なドレスを着た、威厳ある黒髪の美少女が立っていた。

「シリルさん、私の助言が欲しいとか」

「アリスト女王、私を助けてくれるのか?」

「ほほほ、大したことは出来ませんが、心得程度なら話してさしあげられますよ」

「シロー、アリスト女王、本当に感謝する」

 畑山さんが俺の袖を引っぱり、耳元で囁く。

「あんた、厄介事を私に押しつけたわね」

「特別な報酬を用意してるから許してよ」

「まあ、その報酬にもよるわね」

 俺が報酬の内容を囁くと、畑山さんの白い肌が顔だけでなく耳まで赤くなる。

「ま、まあ、今回はそれで手を打つわ」

「助かるよ」

 満面の笑顔を浮かべた畑山さんを見て、俺はため息をついた。
 
 ◇

『神樹戦役』と名付けられた戦が終わってわずか四日後、ドワーフ皇国迎賓館では、功績があった「助っ人」たちを招いて宴が開かれていた。
 
 参加しているのは、新女王シリル、帝国の新国王、アリスト女王、マスケドニア王、軍師ショーカという錚々たる顔ぶれだ。
 俺と家族、仲間たちも招かれている。そして、チビと彼の友人であるポポも参加していた。
 迎賓館は天井が高いが、それでもチビだと頭がつかえるので、彼は座った姿勢のままここへ瞬間移動させた。
 長を含めた三人の天竜も人化して参加している。
 一番上座にいるのはエミリーだ。その両脇には、翔太と俺が座っている。

 シリルが立ちあがり、恭しくエミリーに頭を下げてから、口を開いた。

「この度は、ドワーフ皇国、帝国がひき起こした厄災に、世界の壁を越えてまで駆けつけてもらい、本当に感謝している。
 おかげで世界群の消滅という危機は回避された。
 これからは、奴隷制の即時撤廃、皇国帝国の新たな友好関係の樹立、両国におけるギルドの設置と重大事が山ほどある。どうか、引きつづきお力をお貸しねがえたらと思う。そして、何より『大きなるものの国』の保護を徹底していきたい。これには、ギルドにも力を借していただけたらと思う。
 各々方、改めて心からの感謝を。
 ありがとう」

 シリルの言葉が終わると、みなから盛大な拍手が起きた。
 シリルに代わり立ちあがった、壮年の帝国新国王が杯を右手に掲げた。

「以降は堅苦しいことは抜きに、気楽にやっていただきたい。
 我ら聖樹様の下に。
 乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 食事がある程度進むと、参加者はいくつかのグループに分かれ、歓談をはじめた。
 シリル新女王、帝国新国王、天竜の長、マスケドニア王、ショーカの為政者組は、真剣な顔で何か話しあっている。

 ナル、メル、イオの年少組は、楽しそうに自分たちがした冒険の話をしていた。エミリーと翔太が笑顔を浮かべ、それを聞いている。

 ルル、コルナ、コリーダは、子供姿の真竜とぬいぐるみ姿の真竜に囲まれ、くつろいだ笑顔を見せている。

『ご主人様、こ、怖いんだよ、何とかして』

 チビから念話が入ったのでそちらを見ると、寛いだ雰囲気の中、そこだけ凍りつくような空気が漂っていた。
 加藤を中心に、ドワーフ族のデメル、白竜族ローリィ、黒竜族エンデが座っている。そして、なぜか為政者なのに、こちらに座っている女王畑山。

 チビは座った姿勢なので、動けぬままその絶対零度の冷気を正面から受け、青くなり震えている。

『チビ、悪かった。
 以前、草原で俺が作った家に泊っただろう。
 あそこに送るから、ポポとくつろいでくれ。
 食べ物と蜂蜜水、たくさん置いておくからね』 
   
『わーい!
 やったー!』

 すぐにチビとポポを瞬間移動させた俺は、ゆっくり加藤グループに近づいた。
 ちょうど、ナイフのように鋭い発言をデメルがしたところだ。

「カトーは黒髪の勇者じゃ。
 それに釣りおうた者でなければ、伴侶としてふさわしくなかろう」

「あなた、いつからカトーを知ってるの?
 私は彼がスレッジに着いてすぐに知りあったのよ」

 ローリィが凍りつくような声を出す。もう、第二皇女への尊敬とかないよね。

「それを言うなら、私はもうずーっと前からカトーを知っている。
 彼に命を救われたんだ」

 黒竜族の娘エンデが口をはさむ。美人だけに、真面目な顔が怖すぎる。

「ほほほ、あなた方、争いのレベルが低いわよ。
 私なんか、彼と一緒にパンゲア世界に転移したんだから。
 ちなみに、知りあったのは、あのくらいの年」

 女王畑山が、ルルたちの所にいる幼子を指さす。
 いや、それはさすがに言いすぎだろう。知りあったの、幼稚園じゃないか。

「それにね、私と加藤はもう……ウフフフ」

 畑山さんのその発言を聞いた女性たちが、ガタっと立ちあがる。

「カトー、本当か?」
「カトーさん、本当ですか?」
「そんな!
 カトーさん……」

 般若が、般若たちがここにいます!

 表情を失った加藤の横で、余裕ある微笑みを浮かべた畑山さんが、俺に向け親指を立てる。
 こ、このタイミングでそれを要求しますか!?

 シリルにアドバイスを与えてもらう代わりに、畑山さんと約束した「報酬」を、俺はためらいながら発動した。   
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