上 下
452 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第63話 終わりと始まり1

しおりを挟む

  
 ソラルとガーベルは、その地位をはく奪された。
 新しくその座に着いたのは、元の皇帝、国王ではなかった。
 彼らは、それぞれが娘と息子の犯したことへの責任を取った形だ。

「シロー、どうしても助けてくれぬのか?」

 俺はドワーフ皇国王城にある女王の私室で、シリルからそう頼まれていた。

「シリル様、いや、女王シリル、あなたなら立派に国を治められますよ」

「その方の助けなしで、私に父上や姉上の代わりができるとは思えぬ」

「代わりどころか、それ以上のことができると思いますよ」

 俺の言葉に、侍従長が頷く。

「私もそう思います、シリル様」

「ローリィ、お前が側に居てくれて本当に心強いぞ」

「私だけではありません。
 お父上も、デメル様も、シリル様にお力添えしてくださるとおっしゃっています」

「う、うむ、それは頼もしいのだが……」

「それに、私が兄ローリスもシリル様をお守りします」

「ごらんなさい。
 奴隷として扱われていた者たちまで、あなたを助けようとしている。
 これは、あなたが女王の器だからです」

「シロー……できれば、お主も……何度頼んでもダメか?」

「申し訳ありません。
 俺は家族と自分の家に帰ります。
 ところで、女王陛下となられるにあたって、短期間ですが先生を頼んであります」

「先生とな?」

「ええ、きっとためになるとおもいますよ」

 俺はある人物に念話を飛ばすと、この場へ瞬間移動させた。

「あ、貴方は!」

 そこには豪奢なドレスを着た、威厳ある黒髪の美少女が立っていた。

「シリルさん、私の助言が欲しいとか」

「アリスト女王、私を助けてくれるのか?」

「ほほほ、大したことは出来ませんが、心得程度なら話してさしあげられますよ」

「シロー、アリスト女王、本当に感謝する」

 畑山さんが俺の袖を引っぱり、耳元で囁く。

「あんた、厄介事を私に押しつけたわね」

「特別な報酬を用意してるから許してよ」

「まあ、その報酬にもよるわね」

 俺が報酬の内容を囁くと、畑山さんの白い肌が顔だけでなく耳まで赤くなる。

「ま、まあ、今回はそれで手を打つわ」

「助かるよ」

 満面の笑顔を浮かべた畑山さんを見て、俺はため息をついた。
 
 ◇

『神樹戦役』と名付けられた戦が終わってわずか四日後、ドワーフ皇国迎賓館では、功績があった「助っ人」たちを招いて宴が開かれていた。
 
 参加しているのは、新女王シリル、帝国の新国王、アリスト女王、マスケドニア王、軍師ショーカという錚々たる顔ぶれだ。
 俺と家族、仲間たちも招かれている。そして、チビと彼の友人であるポポも参加していた。
 迎賓館は天井が高いが、それでもチビだと頭がつかえるので、彼は座った姿勢のままここへ瞬間移動させた。
 長を含めた三人の天竜も人化して参加している。
 一番上座にいるのはエミリーだ。その両脇には、翔太と俺が座っている。

 シリルが立ちあがり、恭しくエミリーに頭を下げてから、口を開いた。

「この度は、ドワーフ皇国、帝国がひき起こした厄災に、世界の壁を越えてまで駆けつけてもらい、本当に感謝している。
 おかげで世界群の消滅という危機は回避された。
 これからは、奴隷制の即時撤廃、皇国帝国の新たな友好関係の樹立、両国におけるギルドの設置と重大事が山ほどある。どうか、引きつづきお力をお貸しねがえたらと思う。そして、何より『大きなるものの国』の保護を徹底していきたい。これには、ギルドにも力を借していただけたらと思う。
 各々方、改めて心からの感謝を。
 ありがとう」

 シリルの言葉が終わると、みなから盛大な拍手が起きた。
 シリルに代わり立ちあがった、壮年の帝国新国王が杯を右手に掲げた。

「以降は堅苦しいことは抜きに、気楽にやっていただきたい。
 我ら聖樹様の下に。
 乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 食事がある程度進むと、参加者はいくつかのグループに分かれ、歓談をはじめた。
 シリル新女王、帝国新国王、天竜の長、マスケドニア王、ショーカの為政者組は、真剣な顔で何か話しあっている。

 ナル、メル、イオの年少組は、楽しそうに自分たちがした冒険の話をしていた。エミリーと翔太が笑顔を浮かべ、それを聞いている。

 ルル、コルナ、コリーダは、子供姿の真竜とぬいぐるみ姿の真竜に囲まれ、くつろいだ笑顔を見せている。

『ご主人様、こ、怖いんだよ、何とかして』

 チビから念話が入ったのでそちらを見ると、寛いだ雰囲気の中、そこだけ凍りつくような空気が漂っていた。
 加藤を中心に、ドワーフ族のデメル、白竜族ローリィ、黒竜族エンデが座っている。そして、なぜか為政者なのに、こちらに座っている女王畑山。

 チビは座った姿勢なので、動けぬままその絶対零度の冷気を正面から受け、青くなり震えている。

『チビ、悪かった。
 以前、草原で俺が作った家に泊っただろう。
 あそこに送るから、ポポとくつろいでくれ。
 食べ物と蜂蜜水、たくさん置いておくからね』 
   
『わーい!
 やったー!』

 すぐにチビとポポを瞬間移動させた俺は、ゆっくり加藤グループに近づいた。
 ちょうど、ナイフのように鋭い発言をデメルがしたところだ。

「カトーは黒髪の勇者じゃ。
 それに釣りおうた者でなければ、伴侶としてふさわしくなかろう」

「あなた、いつからカトーを知ってるの?
 私は彼がスレッジに着いてすぐに知りあったのよ」

 ローリィが凍りつくような声を出す。もう、第二皇女への尊敬とかないよね。

「それを言うなら、私はもうずーっと前からカトーを知っている。
 彼に命を救われたんだ」

 黒竜族の娘エンデが口をはさむ。美人だけに、真面目な顔が怖すぎる。

「ほほほ、あなた方、争いのレベルが低いわよ。
 私なんか、彼と一緒にパンゲア世界に転移したんだから。
 ちなみに、知りあったのは、あのくらいの年」

 女王畑山が、ルルたちの所にいる幼子を指さす。
 いや、それはさすがに言いすぎだろう。知りあったの、幼稚園じゃないか。

「それにね、私と加藤はもう……ウフフフ」

 畑山さんのその発言を聞いた女性たちが、ガタっと立ちあがる。

「カトー、本当か?」
「カトーさん、本当ですか?」
「そんな!
 カトーさん……」

 般若が、般若たちがここにいます!

 表情を失った加藤の横で、余裕ある微笑みを浮かべた畑山さんが、俺に向け親指を立てる。
 こ、このタイミングでそれを要求しますか!?

 シリルにアドバイスを与えてもらう代わりに、畑山さんと約束した「報酬」を、俺はためらいながら発動した。   
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...