上 下
444 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第55話 決戦1

しおりを挟む


 ドワーフ皇国と帝国の連合軍は、『巨人の里』がある山岳地帯が見える所まで来ていた。
 近衛騎士に囲まれた女王ソラルは、騎乗していた馬から草原に降りた。
 すでに日が落ちかけているから、今夜はここで天幕、テントを張ることになる。 
 明日が決戦と分かり、兵士たちの士気は高い。圧倒的な数の優位が、巨人に対する恐怖心を消している。
 ただし、彼らは自分たちがなぜ『巨人の里』を攻めるのか、その理由は聞かされていなかった。もし、それを知ったなら、彼らの士気は下がる所まで下がったはずだ。なぜなら、異世界を侵略するという事は、終わりのない戦いを意味するからだ。
 異世界の地で死ぬかもしれないと分かれば、脱落する兵士が続出するだろう。

 ソラルは遠く北に見える山岳地帯を眺めながら、明日の決戦を頭に描いていた。

 ◇

 決戦の日、朝日が昇った。

 山岳地帯を前に、ドワーフと人族からなる百万の軍が、草原を埋めつくした。
 山岳地帯を囲うように展開した陣の中央付近から、大きな台車が二台、兵士たちに押され前に出てくる。
 その間には、騎士に囲まれたソラル、ガーベルの姿があった。

 ソラルが拡声の魔道具であるクリスタルを口に当てる。

「『大きなるものの国』の民よ。
 我は、ドワーフ皇国女王ソラルだ。
 もう分かっておるだろうが、お前たちに勝ち目はない。
 神樹とドラゴナイトを黙って差しだせば、悪いようにはせぬ。
 結界を開き、我らを中に入れよ」

 これには、山岳側からすぐに答えがあった。
 それを予想していなかったソラルは、驚いて騎乗した馬から落ちそうになった。

「ワシは、里長のバルクじゃ。
 約定を破る、心無き者たちよ。
 お主らは、偉大なる祖先がなぜ約定を作ったか、その意味が分かっておらぬようじゃな」

 山の麓に姿を現した巨人バルク老が、大音量で話しかける。

「神樹様は、世界の均衡を支えておられる。
 お主らは、それを伐採するつもりじゃろう。
 さすれば、この世界はおろか、ポータルズ世界群全ての崩壊を招くぞ」

 それを聞いた前線の兵に、どよめきが起こる。
 それは、波のように同盟軍全部に広がった。

「そんなことがあるわけなかろう。
 最後の悪あがきにしては、全くつまらぬな。
 お主自身の目で、『巨人の里』の最期をとくと見よ」
 
 クリスタルを左手に持つガーベルはそう言うと、馬上で右の拳を天に突きあげた。
 彼らの左右にある台車の周囲にいる兵士が慌ただしく動きだす。
 ガーベルが右手を振りおろすと、台車に載った二門の大砲から、何かが発射された。
 それは空中でバラバラになると、里の結界に降りそそいだ。
 ガラスが割れるような音を立て、結界が壊れる。

 砲弾の中には、細かく砕いたドラゴナイトが入っていた。今の砲撃は、結界を破るだけではなく、巨人の力を削ぐためのものだ、

 今はここにいない学園都市の研究者が造った魔道具が上手く働いたことで、ガーベルが満面の笑顔となる。
 これで勝負は着いた。
 後は軍を前に進めるだけだ。

 ◇

「長、どうしましたか?」

 結界が壊れたことより、俺は長の様子が急に変わったことを心配していた。

「ううう、シロー殿、この感じは採掘場に行った時と同じじゃ」
 
 苦しそうな息で、倒れた長が言葉を漏らす。

 ドラゴナイトか!

 俺は里長と同じく体調を崩している巨人たちを里の広場まで瞬間移動させる。
 これは、やはり、敵軍の大部分を消す必要があるかもしれない。
 そう覚悟を決めたとき、点ちゃんから報告が入った。

『(Pω・) 別の軍隊がこちらに近づいてるー』 

 敵の増援を予想していなかった俺は、少し慌ててしまった。

『(・ω・)ノ 女王様や聖女さん、マスケドニアの王様がいますよー』

 味方か!

 点ちゃん、数はどのくらい?

『(Pω・) うーんとね、一万くらいだと思う』   

 敵の数を考えると、一見意味が無いように思える援軍だが、心強いこと限りなかった。
 どうせ数では勝てない相手だからね。

 西側から砂煙を上げ近づく軍勢に、同盟軍に動揺が走った。
 しかし、彼らが本当に驚くのはここからだった。

 西からの軍勢が山岳地帯の麓に陣取ると、その中から巨大な白い魔獣が姿を現した。 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...