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第十章 奴隷世界スレッジ編
第54話 決戦前3
しおりを挟む娘たちが『巨人の里』を訪れて二日後、再び里の外上空に設置していた観察用の点から、情報が送られてきた。
眠っていたところを点ちゃんに起こされた俺は、パレットに映った明け方の空に、二匹の飛行獣を確認した。そして、そしてその背には、数人の人影があった。
それが誰か、俺がボードで確認に行く前に、コケットから降りてきたナルとメルが答えをくれた。
「パーパ、お早う。
マンマが来たよ」
「マンマー」
ナルとメルが眠たい目をこすりながらも、甘えた声を出した。
俺はとにかくルルを迎えに行くことにした。
◇
夜通し子竜の背中にしがみついていたデデノたちは、疲れはてていた。
注意しないと、居眠りして地上に落下する恐れがあった。そのため彼らは眠らないようお互いに助けあいながら、ここまでがんばってきたのだ。
ルルだけは、前方に見えてきた山岳地帯にナルとメルがいると子竜に教えてもらっていたから、疲れてはいたが眠気はなかった。
夜が明けかけた紺色の空に、何かが近づいてくるのが見えた。
それが誰か、彼女にはすぐ分かった。
「シロー!」
声が届かないと分かっていても、ルルの口からその名が出る。
二匹の子竜が地上に降下した。
子竜から降り地面に座り込んだデデノたちの横では、シローとルルが抱きあっていた。
「ルル、ごめん。
心配かけたね」
ルルは何も言わず、ただ彼の温もりを感じていた。
地面に座っているデデノたちがジト目になったとき、やっと二人が離れる。
「シローさん、ナルとメルが――」
「ルル、心配しなくていいよ。
二人とも、もう『巨人の里』に着いてるから。
イオと三人の子竜も一緒だよ」
「ああ、よかった!
でも、あの子たち、どうやってこんな場所まで?」
「ずい分、冒険したみたいだよ。
本人たちは、そう思っていないみたいだけど。
詳しいことは、里に行ってから話すから。
疲れただろう。
まずは、ゆっくりお休み」
二人が互いに見つめ合っているから、話しかけるタイミングが分からないデデノたち冒険者は、座りこんだまま居眠りを始めた。
黒猫ノワールは、そんな人々を横目に毛づくろいをしていた。
◇
「「マンマっ!」」
ぬいぐるみに変化した子竜たち、ルル、ノワール、冒険者たちは、俺のボードに乗り、『巨人の里』に到着した。
ナルとメルは、さっそくルルに抱きついている。
「二人とも、無事でよかったわ。
どうしてこうなったか、説明してちょうだい」
「うん、マンマ」
「せつめーするー」
ルルがこちらに視線を送る。彼女は苦笑を浮かべていた。
自己紹介を終えたデデノたち冒険者は、床に敷いたマットに倒れると、そのまま寝てしまった。
俺はルルのために、彼女の身体に合わせて作ったコケットを出す。
彼女は横になるなり寝息を立てた。
ナルとメルはもっと母親に甘えたかったようだが、俺が彼女から離れると、その後をついてきた。
ログハウスから外に出ると、俺は娘たちの前で膝立ちになった。
二人と目を合わせる。
「ナル、メル、マンマはすごく疲れていただろう?」
「うん、疲れてた」
「疲れてたー」
「どうしてだか、分かるかい?」
「うーん、どうしてかな?」
「なんでー?」
「二人はマンマに黙って竜王様の所を出発したでしょ」
「う、うん」
「そうだよー」
「二人に何か危ないことがあるかもしれないって、マンマもじーじも凄く心配したんだよ」
「そ、そうだったの……」
「ふーん」
「だから、後を追いかけてここまで来てくれたんだよ。
ここに来るまで、マンマはほとんど寝ていないんじゃないかな」
「ど、どうしよう……」
「なんで寝てないのー?」
ナルは自分がやったことに気づいたようだ。メルは、まだピンときていないけどね。
「コー姉も、リー姉も、マンマと同じだと思うよ」
「パーパ、どうしよう。
ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
ナルは、目が涙で一杯になっている。
それを見たメルが、なぜか泣きだした。
「うわーん、ごめんなさいー」
俺はナルとメルを両腕で抱きしめる。
「お出かけするときは、誰かに言ってからするようにね」
「うん、ひっく、そうする」
「えーん、そうするー」
ナルとメルの冒険は、これでひとまず終わりかな?
問題は、もうすぐここが戦場になるってことだな。
さて、どうするかな。
点ちゃん、かなり忙しくなりそうだよ。
『(^▽^) ワーイ! いっぱい遊ぶー!』
相変わらずだな、点ちゃんは。
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