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第十章 奴隷世界スレッジ編

第44話 外世界征服同盟

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 ここは、ドワーフが住むメルゲン大陸と人族が住むヒュッパス大陸とを繋ぐ地峡部分にあたる。

 地峡と言っても、狭い所で幅は百キロほどあり、大陸間を結ぶ広い幹線道路がその中央を貫いている。
 そして、地峡の中央部分には、巨大な関門があり、そこでは通行が厳しく制限されている。 
 
 ところが、今日は、その巨大な関門上で、ドワーフ皇国、人族の王国ともに政府首脳部が集まり、会議が行われていた。
 彼らは、赤く塗られた長テーブルに向かい合って座っていた。

 両陣営は、すでにある同盟の調印を終えていた。

「で、そちらには、なにか懸念はないか?」

 人族の若き国王ガーベルが、口を開いた。
 それに答えたのは、ドワーフ皇国女王ソラルだ。 

「順調よ。 
 そちらは、反乱分子を抑えこむのに苦労したようね」

「ほぼ制圧し終えたぞ。
 それより、そちらは『選定の儀』で、一騒動あったそうではないか」

「あんなのは、騒動とは言わないわ。
 逃げた二人には、何もできない。
 動かせる兵が、いないのだから」

 ソラルは、二人の妹を思い浮かべた。

「巨人が一人、逃げたそうじゃないか。
 もしや、『巨人の里』に、こちらの計画が漏れてはいまいな?」

「まず、無いわね。
 妹たちは、里のおおよその場所を知っているけれど、物理結界を抜ける術がないからね」

「物理結界か。
 かなり強固なものらしいな」

「ええ、そう聞いてるわ」

「それは、こちらに方策がある」

「手紙で触れていた、調査隊のことね?」

「ああ、学園都市世界の賢人なら、何とかするだろう」 

「何とかならなかったら?」

「すでに、総攻撃の日取りは決まっている。
 彼らに何とかできなかったら、力ずくで何とかするさ」

「具体的な方策があるのね?」

「ああ、それが無けりゃ、総攻撃の日など決めないさ」

「その言葉に偽りがないことを祈るわ」

「ああ、それより、『巨人の里』攻略後の準備も忘れるな。
 まずは、竜人の国へ攻めこむぞ。
 我々の『外世界征服同盟』に栄えあれだ」

 彼が使った「外世界」という言葉は、他の世界では「異世界」の事だ。

 その時、下手のドアが開き、慌てた様子の文官が走りこんできた。
 人族の文官は、ガーベルの横にひざまずき、何か囁いている。

「何だとっ!」

 ガーベルが、思わず声を上げる。
 文官からの報告は、賢人を含む調査隊からの連絡が途絶えたというものだった。

 ◇

 賢人ケーシーを中心とした十人からなる調査隊は、『巨人の里』があると言われる山岳地帯へとやってきた。
 彼らは、わざわざ遠回りをし、北側からその山岳地帯に入った。
 すでに、険しい山々を超え、盆地部分に入っている。
 しかし、見渡す限り、木が一本も生えていない荒れ地が広がるそこは、たとえ巨人とはいえ、住める場所には見えなかった。

 先頭を進む、人族の兵士が立ちどまった。

「物理結界だ‼」

 すでに聞いていた事だから、ケーシーは驚かなかった。  
 部下である、二人の研究者に向け頷く。

 二人は、袋から青いロープのようなものを取りだす。
 広げると、それは輪の形になった。
 二人は、それを物理結界に触れさせるように手で押さえつけた。
 ケーシー自らが、呪文を唱える。
 ロープの青い輪が、薄く光る。

「早く輪を潜れ」

 結界が破られた事が伝わりにくい方法を使っているが、用心に越したことはない。
 ケーシーの合図で八人が輪を通り、結界の中に入る。最後に輪を保持していた二人が、輪を持ったまま中に入った。

 次は、隠蔽されている里をどうやって見つけるかだ。
 これに関しては、王国から渡されていたものがある。

 竜人コンパス
 
 これは、異世界で竜人を探す、ハンターが使う道具だが、古い文献の記述から、ドラゴナイトを探すのにも使えると分かっていた。
 内部に微細なドラゴナイトが組みこまれているから、その影響を受ける竜人は、今回の調査隊に参加していない。
 目的がドラゴナイトの鉱脈なので、どうせ竜人を連れていくことはできないのだが。

 ケーシーは、左手に竜人コンパスを載せると、その針が差す方向へ、右手に持つペンライトのようなものを向けた。
 ペンライトに「照らされた」ところに木々が現われる。
 それは、隠蔽の魔術により隠されている、本来の姿をあぶりだす魔道具だった。
 一行は、ケーシーを先頭に、木立へ分けいった。   

 休憩をはさみながら半日ほど歩いたところで、ついに、かつての坑道らしきものを見つけた。
 兵士はともかく、研究者たちは、ケーシーを含め、そろそろ体力の限界だったから、目的地に着いたことで、みんな一息ついた。

 坑道入り口は、大きな二枚の金属で塞がれていたが、それは、どういう訳か、全く汚れているようには見えなかった。
 兵士七人がかりで一枚の扉を開け、その中に入る。
 魔術灯の光に照らしだされたそこは、奥へ続く通路となっていた。

 一行は積もった埃を踏み、奥へ奥へと入っていった。
 そして、とうとう、大きく開けたドーム状の空間に出た。
 竜人コンパスの反応は、非常に強いものだった。針の先が何かに固定されたように、ドーム状空間の中心を指している。
 まだ、距離があるから、魔術灯の灯りでは、ぼんやりとしか見えないが、そちらには、何か小山のようなものがあるようだった。

 恐らく、それがドラゴナイトだろう。
 そう思ったケーシーは、そちらに一歩踏みだした。

 キュン

 そんな音がすると、灯りが消えた。

「お、おいっ、どうした?
 明りが消えたぞ?」

 仲間の兵士が話しかけるが、灯りを持っていた兵士からの返事はない。
 辺りは、完全な暗闇だ。
 別の兵士が、魔術灯をともす。 
 明りが投げかける、円の中に、兵士の姿はなかった。

「お、おいっ?
 どこに行った?」

 その兵士が、一歩前に出た途端、また音がした。

 キュン

 灯りが再び消える。
 
「ど、どういうことだ?」

 キュキュン

「おいっ!
 どうしたっ?」
「分かりません」
「何が起こったんです?」

 暗闇の中、残されたのは、ケーシーと、二人の研究者だけのようだ。

「うむ、とにかく一度、外にでるぞ」
「わ、分かりました」

 研究者の一人が、灯りを点ける。
 先頭に立って、通路へ向かった男を闇が呑みこんだ。

 キュン

 今やケーシーは、自分が逃れようのない罠に落ちたと悟った。
 このままじっとしているのが最善の手に思えるが、それは救助が来ると分かっている場合だ。
 王国が、彼を救助するために尽力するはずはなかった。

 キュン

「おい、どこだ?!」

 暗闇の中、最後の仲間も消えたようだ。
 灯りを点けなければ、消滅しないかもしれないという、一縷の望みも絶たれた。
 こうなると、イチかバチかで、無謀を試すしかない。

 ケーシーは、灯りを点けると、出口に向かい一歩踏みだした。

 キュン

 鍾乳洞に入った十人、全てが消えた後には、太古から続く静寂だけがあった。
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