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第十章 奴隷世界スレッジ編

第38話 大きなるものの国1 

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 俺たちは、二つの大陸を結ぶ地峡から、ドワーフ王国側の海岸線を北に向かっていた。
 もちろん、移動には点ちゃん1号を使っている。

 その1号の前部で、シリルが道案内をしていた。  

「ほれ、あの山々が、『守護山脈』じゃ。
 お主が行きたいと言うておった、『大きなるものの国』は、あの山の中にある」

 点ちゃん1号は、三十分ほどかけ山脈を横切ったが、それらしい場所は見つかれなかった。
 シリルの話では、その場所は、盆地のようになっており、大木がたくさんあるらしい。
 もう一度、航路を変え、山々の上を飛んだが、やはり木々が生えた場所は見つからなかった。

『(・ω・)ノ ご主人様ー、あれじゃない?』
 
 点ちゃんも、俺と同じことを考えているらしい。
 俺は、山脈の上空から、点をばらまくことにした。

 シリルは、お役御免になったので、くつろぎ空間を満喫している。

「な、なんじゃ、このふわふわは!」

 さっそくコケットが気に入ったようだ。
 横になるなり、寝てしまった。
 ローリィが、その頭をやさしく撫でている。

『(Pω・)ノ ご主人様ー、思った通りだった』 

 ばらまいた点からの情報を、点ちゃんが解析したようだ。

 じゃ、点ちゃん、『大きなるものの国』へ行ってみようか。

『p(≧▽≦)q わーい、ワクワクするー!』 

 俺も、ちょっとワクワクするな。

 ◇

 透明にしてある、点ちゃん1号の前部から見ていると、空中に青い円が現れた。
 これは、巨人の国が張っている物理結界を抜けるため、点ちゃんが作ったトンネルだ。

 俺は機体が結界に触れないよう、慎重に1号を前進させる。
 物理結界を抜けても、まだ里は見えてこなかった。
 目標地点に向け、点ちゃん1号の高度を下げる。
 
 それは、突然眼下に広がった。
 広大な緑の森だ。そのモコモコした様子から、おそらくは原生林だろう。  
 ◇ 

 さらに高度を下げた時、巨大な木の杭が、森の中からこちらに打ちあげられた。
 目標は、俺たちが乗る点ちゃん1号だ。

 ガキっ

 張っていたシールドにぶつかった杭は、そんな音を上げた。
 
 ガキっ
 ガキっ

 杭は、次々に飛んでくる。
 点魔法を使う準備が終わったので、杭を投げた何かをシールド何枚かで拘束する。

 杭の音で怯えているシリルに声を掛けてから、俺は、点ちゃん1号から宙へ飛びだす。重力付与を使い、フワフワと地上へ降りていく。

「な、なんだこりゃ」
「どうなってんだ?」
「動けないぞ」

 どちらかというと、のんびりした声が聞こえてくる。
 木々の枝をかすめ、地上に降下した俺が目にしたのは、森の中に立つ、三人の巨人だった。
 三人は、チビより、さらに大きな体をしていた。皆、獣の皮で作ったスカートのようなものを腰の周りに巻き、上半身は裸だ。三人とも男性で、筋肉がよく発達していた。

「人族か?」
「どうしてここが分かった」
「空から降ってきたぞ」

 さっきより、いく分、緊張した声が聞こえる。
 
「こんにちわ」

 俺がいつもの、のんびりした声で話しかける。

「小さき人、お前、何をしに来た?」
「約定(やくじょう)で、ここは聖地と決まっているはずだぞ」
「悪いヤツか?」
 
 男たちは、口々に、はやしたてた。
 
「始めまして。
 俺は、シローと言います。
 大事なお話があって、ここに来ました。
 一番偉い方と、お話できますか?」

「大事な話か?」
「なんだろう?」
「里長(さとおさ)は、小さき人などと話はせぬぞ」

 俺は、手持ちのカードを一枚切ることにした。

「迷子になっていた、あなた方の仲間を連れてきました」

 そう声を掛けておき、俺の横にチビを瞬間移動させた。

「あれ?
 ここ、どこ?」

 空中に浮かせていた、チビ用の部屋から急に森の中に移動したから、彼は戸惑っている。

「おい、その『大きなる者』は、誰だ?」
「見たことないヤツだな」
「いや、何となく見覚えがある気がするぞ」

 三人の巨人から、そんな声が上がる。

「チビ、ここは恐らく、君の故郷(ふるさと)だよ。
 君のお父さんやお母さんに、会えるかもしれない」

「えっ?
 ボクの故郷?」

「ああ、そうだよ」

「ボクに、お父さんやお母さんがいるの?」

「たぶん、そうだと思うよ」

「ご主人様!
 ボク、会ってみたい」

「ああ、もしいるなら、必ず会わせてあげるからね」 
 
「わーい!」

 三人の一人が、呆れたような声で話しかけてくる。

「小さき人よ。
 お前は、私たちが怖くはないのか?」

「怖くはないですね」

「小さき人は、私たちを見ると恐れる、と聞いていたのだが」    
 
「まあ、大きな生き物は、見慣れてますから」

「変わったヤツだ」

「よく言われます。
 それより、彼はここ出身だと思うのですが、両親が誰か、分かりませんか?」

「……そういえば、ずい分前に、ディガさんところの息子が、いなくなったことがあった」

「そうですか。
 そのディガさんという方に、会えませんか?」

「そうだな。
 お前は、悪いヤツじゃなさそうだ。
 里長に話してみる」

「分かりました。
 では、動けるようにしますよ」

「お!?
 動けるぞ」
「さっきのは、お前がやってたのか?」
「どうやったんだ?」

「それより、この子を親に会わせてやりたいんですが」

「お、それもそうだな。
 じゃ、私が、ちょっと里に知らせてこよう」

 最初に俺と話した巨人が、ドスドス 足音を立てて去っていく。
 巨木に囲まれた森の中は、清浄な空気に満ち、息をするだけで気持ちよかった。
 俺はエルファリアにある、聖樹様がいらっしゃる森を思いだしていた。

「ここは、落ちつくな~」

 チビも、森の雰囲気が気に入ったようだ。

「おい、お前、外の世界がどうなってるか知ってるか?」
「水が一杯ある場所があるって本当か?」

 俺は、好奇心いっぱいの目をした巨人二人に、様々な質問を浴びせられた。
 どうやら、彼らは、自身が『里』と呼んでいるこの辺りから、外へ出たことがないらしい。
 
 やがて、ドドドドという地鳴りのような音がして、木々の間から数人の巨人が姿を現した。
 
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