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第十章 奴隷世界スレッジ編

第37話 人族の王国(4)

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 俺は、人族が支配するヒュッパス大陸の、主だった都市の上空から無数の点をばらまいた。
 わざとゆっくり時間をかけ、出発してから二日後の夕方、ドワーフ皇国王都近くの草原にある『土の家』に戻った。

 首輪の事で疲れきったシリルを背負い、家の中に入る。

 俺の姿を目にした青竜族の若者が膝を折ろうとしたが、禁止事項を思いだしたのだろう、なんとか平伏するのを思いとどまった。

「ただいま」

 俺が気軽に声を掛けると、首をブンブン縦に振っている。
 
「お、帰ったか。
 こっちは、特に何も無かったぞ。
 しかし、隣の二人は、気持ちいいほどよく食うな」

 加藤が、呆れたような声を出す。
 留守中、チビとポポは、好き放題食べていたようだ。

「シリルちゃん、どうしたんだ。
 やけにぐったりしてるな」

「ああ、後で事情を話すからな。
 それより、ローリィがかなり疲れてる。
 まだ、1号に残ってるから、介抱してやってくれ」

「ああ、分かった」

 シリルとローリィを寝室で休ませると、二人以外を居間に集める。

「で、人族の方はどうだった?」

 加藤が俺に尋ねた。

「ああ、一応、準備はできた。
 後は、竜人全ての所在が分かるのを待つだけだ」

「シローとやら、一体どうやったら、そんなことができるのか?」

 デメルが呆れ顔になっている。
 それには答えず、人族の国でもクーデターが起こっていた事を告げた。

「しかし、本当にソラル姉さまは、人族などと手を結ぼうとしておるのか?」

 デメルには、人族に対する偏見がかなりあるからね。

「ああ、普通ならそうしないだろうが、今回は共通の目的があるようだ」

「なんだ、それは?」

「デメル様は、『大きなるものの国』をご存じですか?」

「な、なぜ、そちがそれを知っておる!」

 デメルも、その場所の事を知っていたようだ。

「人族は、『巨人の国』と呼んでいるようですが、ドワーフ皇国と帝国は、力を合わせてそこを攻めようとしているようです」

「しかし、我が国の王は、代々その地を保護してきたのじゃぞ」

「だからこそ、あなたの姉は、前皇帝が邪魔だったのでしょう」

「なんたることだ……姉上の優しい表情の下に、そのような野望が隠されていたとは‼」

「ところで、デメル様、あなたは奴隷制度についてどう思われていますか?」

「うむ、わらわは、あまり良い制度とは思うておらん」

「なぜです?」

「考えてもみい、人は強制されて働かされるより、己から働くときこそ生産力が上がるのじゃ」

 このデメルという娘は、ただシリルにイジワルするだけの、お転婆ではなかったようだ。

「ま、まあ、この考えは、人から教えてもろうたのだがな」

 デメルが頬を染め、加藤の方を見ている。
 モテモテぶりにもほどがあるぞ、勇者加藤。

「シリルはどうもそのことが理解できないようだから、首輪を着けてもらった」

「おい、史郎!
 お前、何てことしたんだっ!」

 加藤が本気で腹を立てている。
 俺の事を『ボー』ではなく、『史郎』と呼んでいるのがその証拠だ。

「このお姫様のように、誰もが理性で物事を考えられるわけじゃないんだぞ、加藤」

 俺がデメルを指さすが、彼は真剣な顔つきで俺を見ている。
 なるほど、この顔つきに女性は弱いのか。

『へ(u ω u)へ やれやれ、この人は、全く……』
  
 加藤が両腕を伸ばし、俺の胸倉をつかんだとき、声が掛かった。

「シローの言うとおりじゃ。
 カトー、落ちつけ」

 寝間着代わりの白いローブを着たシリルが、ドアの所に立っていた。 
 彼女はゆっくり席に着くと、お茶を入れるよう手で俺に合図した。
 彼女の前に、湯気が立つカップが現われる。
 彼女はそれを一口飲むと、話を続けた。

「わらわは、奴隷制度を国の文化だと思うてきた」

 彼女が言葉を止め、悲痛な表情を見せた。

「それがあのような苦痛を、人々に与えていたとはな……」

 彼女の目から、涙がつうとこぼれた。

「わらわ、一生の不覚じゃ」

 しばらく黙った後、彼女が続ける。
 
「お主たちにも、辛い思いをさせてきたの。
 すまぬ」

 竜人たちに向け、彼女は深く頭を下げた。
 当の竜人たちが、すごく驚いている。
 それはそうだろう。
 最も身分が高い者が、最下層の自分たちに頭を下げたのだから。

「シローが目を覚ましてくれなければ、わらわは、あのままじゃった」

 シリルはそう言うと、机に伏し号泣を始めた。
 いつの間にか部屋に入ってきたローリィが、そんなシリルを椅子ごと抱きしめる。
 加藤は、握っていた俺の服をやっと放した。

「ボー、だけど、シリルちゃんには、きちんと謝っておけよ」

「ああ、分かってるよ」

 俺は、友人の目をまっ直ぐ見た。

「おい、なんだその目は、尊敬したような目で俺を見るなよ、気持ち悪い!」

 いや、本当に尊敬してるんだがな。

「私も、あなたを尊敬しています」

 デメルが胸の前で両手を合わせ、キラキラした目で加藤を見る。
 なんか、この娘、キャラが変わっちゃったよな。
 恋の魔法は強力無比だな。

『へ(u ω u)へ やれやれ……』

 ともかく、次にやることは、『大きなるものの国』訪問か。 
 ゆっくりする時間がとれそうにないことを考え、俺はげんなりするのだった。 
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