423 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編
第34話 人族の王国(1)
しおりを挟むスレッジ世界には、ドワーフが住むメルゲン大陸の他に、もう一つ、人族が住むヒュッパス大陸がある。
メルゲン大陸にあるドワーフ族の王都でクーデターが起きたころ、ヒュッパス大陸にある帝都でも政変が起きていた。
第二皇子ガーベルが、謀反を起こし、国王として立ったのだ。
その際、メルゲンから大量に持ちこまれたドワーフの武器が使われた。
その高性能な武器の性能のおかげで最初の劣勢を覆し、皇子は王座を簒奪したのだ。
「フフフ、今頃は、向こうも上手くやっているだろうよ」
長身で甘いマスクの新しい国王は、何度か密会したドワーフの皇女ソラルの事を思いだしていた。
一目見てお互いに同類だと気づいた彼らは、まずは個人的な約束、そして組織同士の密約と、その関係を深めてきた。
自分とソラル、共通の目的への第一歩は上手くいった。
次は、国内の反乱分子を排除することだ。
「反抗するものには、容赦するな」
玉座から臣下に命令する彼の顔には、ソラルと変わらぬ穏やかさがあった。
◇
「おい、ボー、さすがに、あの状況で花火はないんじゃないか?」
加藤が、『選定の儀』で俺がした事に呆れている。
俺たちは、透明化を施した『土の家』で作戦会議を開いていた。
「ああ、言ってなかったが、あれ、パフォーマンスだけじゃないから」
「えっ?
何か目的があったのか?」
「俺の点魔法は、対象に点が付いているとき最大の効果を発揮するんだ。
あの時、打ちあげた剣には、無数の点が着けてあったのさ」
「おいおい、点が闘技場に散らばったからって、兵士全員につくってこたあないだろう」
「あの時散らばった点には、特別な設定がしてあるんだ。
点がついた人が誰かに会えば、その人にも点がつくようになってる」
俺は、点の情報が表示されたパレットを、加藤に見せてやった。
「この赤いのが?」
「ああ、点がついてる人を表している」
見ている間にも、点が増えていくのが分かる。
「よく、こんなこと思いつくな」
「まあ、俺と点ちゃん、二人で考えてるからな」
『(*'▽') エヘヘ』
「じゃが、ここに逃れたのはいいが、これからどうするつもりじゃ、シロー」
夜遅い時間だが、さっきまで寝ていたからか、シリルは元気に見える。
まあ、内心は姉ソラルのことが気に掛かっているんだろうが。
「そうですね。
まずは、相手の出方を見ませんと。
それに、こちらの準備も、まだできておりませんし」
こちらの準備とは、この世界に連れてこられた竜人全てに点がつくことだ。
この大陸にいる竜人全てに点がついても、もう一つの大陸が残っている。
シリルたちの話だと、この世界に連れてこられた竜人は、人間が住む大陸でも、竜闘士や奴隷となっているそうだからね。
「準備ができるまで、まずチビを故郷に連れていこうと思う」
「おい、お前、『チビ』とは誰じゃ?」
ふてくされた顔で席に着いていたデメルが口をはさむ。
「ああ、隣の家にいる巨人のことだよ」
「なんじゃと!
巨人なんぞのために、わらわを後回しにするとは、どういうことじゃっ!」
「巨人なんぞ?」
俺が、低く強い声を出す。
「俺の友人に、そんな口を利くな。
次やったら、玉座の間に送りかえすからな」
俺の声に、デメルがかぶせる。
「なんじゃとっ!
人族風情が、わらわに――」
デメルが言葉を失う。
テーブルに着いているみんなの顔が青くなる。
「……綺麗じゃな」
シリルだけは、こちらを見てうっとりした顔をしている。
俺は、めったにしない真面目な顔を、両手でつるりと撫でて消した。
「デメルちゃんだっけ?
あんた、ボーにあの顔させるなよ。
次は、命がないかもしれないぞ」
加藤が、物知り顔で声をかける。
「……」
デメルは、表情が固まっている。
なんでだろう。
「シローさん、あなたは一体?」
シリルの侍女である、白竜族の女性ローリィが口を開く。
「ああ、こいつなら竜王様の友人だよ」
加藤が答える。
「りゅ、竜王様というのは?」
ローリィが、初めて聞いた名に戸惑っている。
「ああ、この世界にいるあんたは知らないだろうが、こいつのパーティが天竜国にあるダンジョンを攻略してな。
その奥に、真竜の卵がたくさんあったんだ。
その卵を守っている、真竜の王が竜王様だ。
こいつは、竜王様の友人だ」
言いながら加藤がぶるっと震えたのは、竜王様との会見を思いだしたからだろう。
彼の言葉を聞いた竜人たちの顎が、がくんと下がる。
そこまで口を開けなくてもいいだろう。
「し、真竜さまのご、ご友人……」
白竜族の闘士ローリスが、途中で言葉を切ると、口をぱくぱくさせている。
おいおい、池の鯉みたいだな。
『へ(u ω u)へ やれやれ、ご主人様は、どうしてこうですかねえ』
ほら、君たちのせいで、点ちゃんに呆れられたじゃないか。
ヨロヨロと床へ座った竜人四人が、平伏しようとする。
ああ、また、あれしなきゃダメかな。
「竜王の名において命ずる。
俺の前で、平伏、お漏らし、逃走を禁ずる」
「そ、そんなあっ!」
「殺生な!」
「堪忍してください!」
弱音を吐く竜闘士を尻目に、さっとテーブルに着いたのはローリィだ。
頼りになるよ、この人は。
「兄さん、カトーさんの前で、恥ずかしいマネはやめてください」
しっかりしているんじゃなくて、恋心だったか。
だけど、今、尋ねるのはそこではない。
「ローリィさん、兄さんって?」
「ああ、そこで平伏しているのは、私の兄です」
ローリィがローリスを指さす。
「えっ!?
そうなの?」
これには、加藤も驚いている。
「私の家族は、黒竜族ビギに追放処分を受けました。
父と母も、この世界のどこかにいるはずです」
「大変だったね。
でも、もう大丈夫だよ。
ビギの奴らは、権力の座から降りたよ」
「えっ!?
ど、どうして?」
「ああ、俺とこいつでやっつけたから」
加藤が、俺の方を指さす。
「ど、どうやって?」
これは、床から顔を上げたローリスの言葉だ。
「それを話すと長くなるから、また今度にしてくれ」
まだ少し元気がないシリルが、床で平伏している三人を指さす。
「シロー、なぜこやつらは、あんなことをしておるのじゃ?」
「ああ、シリル様、それも話すと長くなりますから、またいつか」
「そうか」
「それより、これから少しすることがあるんですが、シリル様もご一緒しませんか?」
「そうじゃのう……」
「ローリィ、君も来てくれるか?」
「それは、シリル様がいらっしゃるのでしたら、私もついて行きますが」
「加藤、ここをよろしく頼むよ。
何かあれば、念話してくれ」
「ああ、任せとけ」
「加藤様、お気をつけください」
ローリィは、さっそく加藤の所に行き話しかけている。
「ああ、君も気をつけてね」
加藤の言葉に、ローリィは耳まで赤くしている。
勇者のリア充ぶりって凄いよね。
『(*'▽') 勇者ぱねー!』
点ちゃんも同意と。
「じゃ、シリル様、ローリィ、こちらへ」
俺は席を立つと、『土の家』から外へ出た。
草原はすでに暗くなっており、肌寒い風にそよぐ草の音が聞こえてくる。
夜目が利かない二人のため、『枯れクズ』を出す。
「なんじゃ、その明かりは?
綺麗じゃのう」
俺は、『枯れクズ』をシリルに手渡すと、点ちゃん一号を出した。
「「ひっ!」」
突然、近くに巨大なものが現れたから、シリルとローリィが悲鳴を上げる。
「ご安心を。
これは、俺が作った乗り物です」
タラップを降ろし、シリルが1号に乗りこみやすいようにしてやる。
「な、なんじゃこれは?」
くつろぎ空間を目にしたシリルが驚いている。
「シローさん、これは一体?」
ローリスも目を丸くしている。
「俺の家であり、乗り物っていう感じかな。
これでちょっと遠くまで飛びますよ」
「飛ぶ?」
「ええ、これは空を飛ぶ乗り物です」
「そ、空をか!?」
「とにかく、出発しますよ」
点ちゃん1号は、音もなく上昇を始めた。
「シローさん、これで動いているのですか?」
この機体は、ほとんど揺れないからね。
「ええ、かなりの早さで空を飛んでいますよ」
機体の壁は透明にしているが、外が暗いため何も見えない。
「上を見てください」
「おおっ!」
「まあ!」
そこには、満天の星があった。
「こちらに来てください」
二人が近寄ってきたので、足元を指さす。
「おや、下にも星が見えるの」
「シリル様、あれは街の灯りですよ。
動いているでしょう?」
「おおっ、本当じゃ!」
しばらく飛ぶと、地平線が明るくなる。
「さあ、今度はこちらをご覧ください」
そこには、夜明けのパノラマが、視界いっぱいに広がっていた。
「おおっ!
綺麗じゃのう!」
やがて地平線から、この世界の太陽が顔を出した。
空と地の境界が、黄金色に輝く。
「なんと美しいのじゃ……」
シリルのつぶらな目からは、涙がこぼれ落ちている。
しかし、姉の件からその表情にあった暗い翳は消えさっていた。
彼女はローリィの手を握り、じっと朝日を眺めていた。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
罪人として生まれた私が女侯爵となる日
迷い人
ファンタジー
守護の民と呼ばれる一族に私は生まれた。
母は、浄化の聖女と呼ばれ、魔物と戦う屈強な戦士達を癒していた。
魔物からとれる魔石は莫大な富を生む、それでも守護の民は人々のために戦い旅をする。
私達の心は、王族よりも気高い。
そう生まれ育った私は罪人の子だった。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる