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第十章 奴隷世界スレッジ編
第30話 選定の儀(上)
しおりを挟むここは、スレッジ世界。
ドワーフ皇国、次期国王を決める『選定の儀』が、王都で開かれようとしていた。
快晴の中、武闘場の周囲は大変な人出となった。
巨大な武闘場は、夜明けに門が開かれるとすぐに観客がなだれこみ、あっというまに満員になった。
貴族のコネで席をいくつか押さえたダフ屋は、それを法外な値段で売っていた。
「さあさあ、後二席だけだよ。
今なら一席白金貨十枚だよ」
「ウチは、前から三列目のだぜ!
一席白金貨十二枚でどうだ?」
白金貨は、この国で流通する最も高額な貨幣で、一枚あれば四人家族が三年ほど生活できる。
いかにダフ屋が売るチケットの値段が高額か、分かるだろう。
俺と加藤は、皇女シリルの侍女に案内され、武闘場の門を潜った。
侍女が白銀色の札を見せると、係員が腰をかがめ礼をした。
「どうぞ、こちらです」
侍女は、俺と加藤を、貴族たちが座っている客席に案内した。俺たちの後ろには、屋根つきの客席があった。
「もう一人は、どうしたのよ」
後ろから、女性の大きな声がした。
振りかえると、お城でシリルに突っかかった、第二王女が立っていた。
俺たちが答えないと、彼女は鼻を鳴らした。
「ふんっ、どうせ人族じゃ、竜闘士には勝てないわよ」
俺たちが黙っていると、彼女は去っていった。
「まったく、どっかの女王様を思いださせる、高慢さだぜ」
加藤は、畑山さんがここにいないのをいいことに、言いたい放題だ。
「それより、武器はどうするんだろうな」
「ああ、それは『選定の儀』が始まってから、武器庫で選ぶらしいぞ」
加藤なりに、心構えはできているようだ。
「ボー、それより、あと一人は誰なんだ?」
「まあ、楽しみにしておいてくれ」
もう一人の出場者は、皇女シリルと俺だけが知っている。
しばらくすると、銅鑼の音が鳴り、会場のざわめきが消えた。
「これより、『選定の儀』をおこなう。
候補の皆様は、そうぞこちらにお並びください」
若い五人のドワーフ女性が、立派な椅子の前に一列に並ぶ。
彼女たちの前には、その椅子に座った初老の男がいる。
恐らく、あれがドワーフ王だろう。
俺の席は、男からかなり離れているが、それでも彼が発する威厳がここまで届くように感じられた。
各自がそれぞれに趣向を凝らしたドレスを着た皇女たちは、男に礼をすると、二人を残し、その場を降りた。
「今回の『選定の儀』に参加されるのは、第二皇女デメル様」
その声に答え、黒色のドレスを着たデメルが、もう一度頭を下げた。
観客から、歓声が上がる。
「そして、第五皇女シリル様」
白いふわふわしたドレスを着た、小柄なシリルが頭を下げると、会場から一斉に歓声が上がった。
彼女は、王都でも人気があるようだ。
「二人とも、正々堂々とな」
椅子に座るドワーフ王が、二人に声を掛けた。
二人はドレスの裾を摘まみ、三度礼をすると、それぞれが別方向に分かれた。
皇女シリルは、やはり、俺たちの後ろにある屋根つきの観覧席に座った。
俺と目が合うと、無邪気に笑う。
民衆が、彼女を支持しているのも分かるな。
デメルが座る観覧席の前には、竜人が三人並んでいた。
なぜ、竜人と分かるかというと、それぞれ髪の色が赤、青、白だったからだ。
髪の色を見なくとも、俺の眼には、頬からこめかみにかけての顔鱗という竜人の特徴がはっきり見えた。
視力がよくなったのはいいが、こう見えすぎると、少し怖いな。
『(・ω・)ノ ご主人様、何か悪いこと考えてませんか?』
ギクッ
な、何も考えてませんよ、点ちゃん。
「第一試合、デメル様竜闘士モレル」
審判の「竜闘士」という呼び声のところでおおーっと聞こえる歓声が上がる。
「シリル様闘士チビ」
こちらは、「闘士」という呼び声でがっかりしたような声があがった。
「ボー、『チビ』ってどんなやつか知ってるのか?」
「ああ、あいつだ」
俺が武闘場を指さしたとたん、そこに巨人が現れた。
もちろん、空中に浮かせておいた箱から瞬間移動させたのだ。
「お、おい、あいつは確かお前が戦った――」
「ああ、ゴライアスだよ。
その名前は、奴隷商人につけられたものだから、俺が変えといた」
「……」
こうして、竜人と巨人の戦いが始まった。
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