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第十章 奴隷世界スレッジ編
第25話 ナルとメルの秘密作戦3
しおりを挟む上空から四竜社に舞いおりた二体の竜は、再び人化した。
「ナルちゃん、メルちゃん、すごいね。
竜に変身できるだけじゃなくて、飛ぶこともできるんだね」
イオは、ナルとメルが竜に姿を変えられる人族だと思っているから、そういう感想になる。
「それより、ここからどうするの?
私、どこにポータルがあるか知らないよ」
イオの言葉を聞き、ナルがニコッと笑った。
「それは大丈夫、これがあるもん」
彼女がポーチから取りだしたのは、白い布だった。
「それは何?」
「ミルクを飲む時、パーパが、これでナルとメルのお口を拭いてくれるんだよ」
「それで何かできる?」
「うんっ!」
ナルは、それをメルの鼻に当てた。
「パーパの匂いは覚えてるから、これがなくても大丈夫」
メルが、布をナルに返す。
彼女は目を閉じ、少し考える格好をしていたが、すぐに動きだした。
「さあ、『ちびドラ隊』行くわよ!」
「「「おーっ!」」」
◇
ラズローからの連絡を受け、娘たちが来たら保護しようと準備していた四竜社の竜人たちだったが、それは何の役にも立たなかった。
廊下を進む、六人の子供を止められる者がいなかったのだ。
何人かは子供たちを拘束しようと試みたが、軽く押されただけで廊下の奥まで飛ばされてしまった。
子供たちは、先頭にメル、後ろにナルという隊列で、どんどん建物の奥に入っていった。
「こっちから、パーパの匂いがする」
十日ほど前にわずかの時間いただけの父親が残した匂いを察知するのは、覚醒真竜となって初めて可能な事だ。
ナルとメルは、五感の感度を自在に上げ下げできるようなっていた。
やがて六人の子供たちは、大きな扉がある部屋まで来た。扉は開いているが、中は灯りがなく、まっ暗だ。
イオが呪文を唱え、光の玉を作りだす。これは彼女が竜王様から習った魔術の一つだ。
照らしだされた部屋には、左右の壁にそれぞれ四角い木枠があり、片方は板で塞いであった。
「こっちがスレッジ、こっちがグレイルって書いてあるね」
ナルが、木枠の下に打ちつけられた文字を読んだ。
「あの部屋の紙には、パーパがスレッジっていう所に行ったかもって書いてあったね」
メルが、頭の中に記録された情報を思いうかべる。
「でも、匂いは、こっちね」
ナルが右の木枠を指さした。木枠に囲まれているのは、黒い靄が渦巻くポータルだった。
「よーし、じゃ、こっちー」
メルが、無造作に右のポータルを潜る。
ナルが二人の子供、イオが残る一人の子供と手をつなぎ、その後を追った。
◇
ルルから報告を受けた天竜の長は、すぐに竜人国へ行く用意を始めた。
元々、あと何日かで竜人の作業員を竜人国に送る予定だったから、ある程度準備はできていた。
長は人化を解き竜の姿に戻ると、ルルを背に乗せ、真竜廟へ急いだ。念話ができる天竜モースも連れてきている。
モースは、真竜廟の外で待機し、人化した長とルルだけが中に入った。
すでに旅の用意を終えていたコルナ、コリーダ、リーヴァスを連れ、ルルが出てくると、彼らはモースの背に乗り、竜人国へと向かった。
◇
「ネアさん、子供たちは?」
彼女たちが来るなら、ここしかないと確信し、ポンポコ商会を訪れたルルは、挨拶抜きでネアに尋ねた?
「ルルさん!
先ほどラズロー様から連絡がありました。
ナルちゃん、メルちゃん、それとウチのイオは、四竜社地下にある獣人世界へのポータルを潜ったようです」
「三人だけでしたか?」
「それが、三、四才くらいの小さな子供が、三人いました」
「なんてこと!」
「ど、どうしたのです?」
「その三人は、真竜です」
「えっ!?」
「ナルとメルが、真竜に人化を教えたの」
「そ、そんな……」
ネアが、言葉を失う。
ナル、メル、無茶しないで。
ルルは、そう祈るのだった。
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