上 下
414 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第25話 ナルとメルの秘密作戦3

しおりを挟む


 上空から四竜社に舞いおりた二体の竜は、再び人化した。

「ナルちゃん、メルちゃん、すごいね。
 竜に変身できるだけじゃなくて、飛ぶこともできるんだね」

 イオは、ナルとメルが竜に姿を変えられる人族だと思っているから、そういう感想になる。

「それより、ここからどうするの?
 私、どこにポータルがあるか知らないよ」

 イオの言葉を聞き、ナルがニコッと笑った。

「それは大丈夫、これがあるもん」

 彼女がポーチから取りだしたのは、白い布だった。

「それは何?」

「ミルクを飲む時、パーパが、これでナルとメルのお口を拭いてくれるんだよ」

「それで何かできる?」

「うんっ!」

 ナルは、それをメルの鼻に当てた。

「パーパの匂いは覚えてるから、これがなくても大丈夫」

 メルが、布をナルに返す。
 彼女は目を閉じ、少し考える格好をしていたが、すぐに動きだした。

「さあ、『ちびドラ隊』行くわよ!」

「「「おーっ!」」」

 ◇

 ラズローからの連絡を受け、娘たちが来たら保護しようと準備していた四竜社の竜人たちだったが、それは何の役にも立たなかった。
 廊下を進む、六人の子供を止められる者がいなかったのだ。
 何人かは子供たちを拘束しようと試みたが、軽く押されただけで廊下の奥まで飛ばされてしまった。
 
 子供たちは、先頭にメル、後ろにナルという隊列で、どんどん建物の奥に入っていった。

「こっちから、パーパの匂いがする」

 十日ほど前にわずかの時間いただけの父親が残した匂いを察知するのは、覚醒真竜となって初めて可能な事だ。
 ナルとメルは、五感の感度を自在に上げ下げできるようなっていた。

 やがて六人の子供たちは、大きな扉がある部屋まで来た。扉は開いているが、中は灯りがなく、まっ暗だ。
 イオが呪文を唱え、光の玉を作りだす。これは彼女が竜王様から習った魔術の一つだ。

 照らしだされた部屋には、左右の壁にそれぞれ四角い木枠があり、片方は板で塞いであった。
 
「こっちがスレッジ、こっちがグレイルって書いてあるね」

 ナルが、木枠の下に打ちつけられた文字を読んだ。

「あの部屋の紙には、パーパがスレッジっていう所に行ったかもって書いてあったね」

 メルが、頭の中に記録された情報を思いうかべる。

「でも、匂いは、こっちね」

 ナルが右の木枠を指さした。木枠に囲まれているのは、黒い靄が渦巻くポータルだった。

「よーし、じゃ、こっちー」

 メルが、無造作に右のポータルを潜る。
 ナルが二人の子供、イオが残る一人の子供と手をつなぎ、その後を追った。

 ◇

 ルルから報告を受けた天竜の長は、すぐに竜人国へ行く用意を始めた。
 元々、あと何日かで竜人の作業員を竜人国に送る予定だったから、ある程度準備はできていた。

 長は人化を解き竜の姿に戻ると、ルルを背に乗せ、真竜廟へ急いだ。念話ができる天竜モースも連れてきている。

 モースは、真竜廟の外で待機し、人化した長とルルだけが中に入った。
 すでに旅の用意を終えていたコルナ、コリーダ、リーヴァスを連れ、ルルが出てくると、彼らはモースの背に乗り、竜人国へと向かった。

 ◇

「ネアさん、子供たちは?」

 彼女たちが来るなら、ここしかないと確信し、ポンポコ商会を訪れたルルは、挨拶抜きでネアに尋ねた?
  
「ルルさん!
 先ほどラズロー様から連絡がありました。
 ナルちゃん、メルちゃん、それとウチのイオは、四竜社地下にある獣人世界へのポータルを潜ったようです」

「三人だけでしたか?」

「それが、三、四才くらいの小さな子供が、三人いました」

「なんてこと!」

「ど、どうしたのです?」

「その三人は、真竜です」

「えっ!?」

「ナルとメルが、真竜に人化を教えたの」

「そ、そんな……」

 ネアが、言葉を失う。

 ナル、メル、無茶しないで。
 ルルは、そう祈るのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...