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第十章 奴隷世界スレッジ編

第19話 王都へ1

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 この日、ダレンシアの町は、皇女の出発を見ようと、多くの住民が目抜き通りに出ていた。

 急な出立だったので、住民の全員がそれを知っていた訳では無いが、通りは見送りの人々で一杯だった。
 馬車、ポポ車の通行が禁じられ、住民は目抜き通りの左右に立ち、皇女が通るのを待っていた。

 街の表がにぎやかになっていたころ、余り人目につかない場所でも、騒ぎが起こっていた。

 町中のポポを拘束していた鞍のひもが一斉に切れたのだ。
 ピンクの丸っこい魔獣ポポが、一斉に厩舎の戸を破り、外に飛びだした。
 それに気が付いた住人も何人かいたが、彼らはすぐに追跡を諦めた。

 なぜか?
 目立つ色をしたポポの巨体が、空中に溶けるようにかき消えてしまったからだ。
 
 ◇

 皇女一行は、馬に騎乗した二人の騎士が先導する後ろを静々と進んでいく。
 
 彼らの前方と後方は、道に人が飛びださないよう空けてあった。
 住民が道の中央を使えるのは、皇女一行が門を出た後でと決められていた。

 住民たちは華やかな皇女の姿を見ると、足を踏みならしそれを讃えた。
 石畳の道でも、多くの住民が一斉に足踏みすると、かなりの音になる。
 興奮した住民の足踏みで、地面が振動するほどだった。
 
 だから、誰一人として、皇女一行の後ろをついていく、透明なポポの群れに気づくことはなかった。
 いや、本当は、一人の少年が不自然に動く紙くずの動きに気づいたのだが、彼はそれを風のせいだと思い、納得してしまった。

 街から外に出たポポたちは、それぞれ思い思いの方向へと散っていった。

 俺がポポに点を付与し、透明化の魔術をかけ、点ちゃんがやはりその点を使い彼らを誘導したんだけどね。
 これがダレンシアの町で長く語り継がれることになる、ポポ一斉消失事件の真相だ。
 
 ◇

 俺と加藤は、皇女のすぐ後ろに続く幌馬車の荷台にいた。

 加藤がお尻が痛いというので、点収納からクッションを出してやる。
 しかし、馬車の揺れでお尻の痛みに悲鳴を上げる勇者ってどうよ?

 そうだ、点ちゃん。ポポたちは、どうなった?

『(・ω・)ノ みんな町が見えない所まで逃げたみたい』

 俺は、ポポたちに掛けていた透明化の魔術を解いた。
 点ちゃん、お友達になったポポちゃんは?

『(・ω・) 少し後ろを着いてきてるよ』

 俺は、慌ててグラゴー伯爵邸にいたポポがどこにいるか確認すると、その個体だけに透明化の魔術を掛けなおしておいた。

『ゴライアス、何か困ったことはないかな』
 
 巨人は、空中に浮かせた点魔法の箱に入れ馬車に牽いてもらっている。
 
『ご主人様、とっても気持ちいいです』

 なぜか、巨人は、俺を「ご主人様」呼ばわりするようになっていた。

『ゴライアス、せめてリーダーって呼んでくれないか?』

『うーん、ボク、やっぱりご主人様って呼びたい』

 しょうがないな、こいつは。

『後で、下に降ろしてあげるから』

『ボク、ずっとここにいたい』

 皇女様クラスのわがままだね。
 急いで作った箱だから、お風呂とトイレがないけど、食べ物と飲み物はあるから、長い時間そこにいても大丈夫だけど。
 王都に着いたら、彼が嫌がっても外に出そう。
 ずっと空中に箱を浮かせていると、気になってしょうがないんだよね。

 こうして荒野を貫く道を皇女一行は進んでいった。

 ◇

 ダレンシアの町に第五皇女シリルが訪れるという情報を掴んだ盗賊の頭は、長い間、周辺に潜んで情報を探っていた。

 街に潜入させていた一味の男から、連絡が来たのがつい先ほどだ。
 皇女は、わずかの護衛を連れ、街道を王都へ向かったとのこと。

 これを狙わない手はない。皇女の馬車に詰んである金品はもちろん、彼女の身代金までせしめれば、ものすごい金額になるだろう。
 その上、これは、ある王族からの依頼でもある。だから、もし襲撃に成功すれば、仕事の報酬も入る。

 うまい話に、盗賊の頭は笑いが止まらなかった。
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