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第十章 奴隷世界スレッジ編

第6話 支店訪問

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「おお! 
 シロー殿、お久しぶりじゃ!」

 俺の姿を見た天竜が連絡したのだろう、白髭の老人に変身した天竜の長がすぐに駆けつけた。
 
「長、お久しぶりです。
 たった今、真竜廟に寄ってきました。
 子竜たちのお世話、ご苦労様です」

「めっそうもない。
 真竜様にお仕えするのは、我らの喜びですじゃ」

「ところで、『枯れクズ』の除去は順調ですか?」

「おかげ様で、大きな不都合は起きておりませぬ。
 以前、シロー殿がおっしゃったとおり、『光の森』は、そしてこの世界は、これで安泰ですじゃ」

「良かったです」

「献上蜂蜜も、定期的に入ってきております」

「ああ、そうそう。
 今回は、この三人に加護をつけてもらいたいのです」

「このお三方は?」

「私の本当に近しい友人で、それぞれ聖騎士、聖女、勇者です」

「ほう!
 人族にはそのような者がいると、何かで読んだ覚えがあります」

「お願いできますか?」

「竜王様のご友人、そして、大恩あるシロー殿のためですじゃ。
 喜んで加護をつけさせていただきまする」

「ありがとう」

 天竜がキビキビ動き、部屋を整えた。
 加藤たち三人を部屋中央の敷物に座らせ、俺はその後ろに控える。

 天竜の長が呪文を詠唱すると、舞子、畑山さん、加藤の体が薄青く光る。

「長、ありがとう。
 竜人国に寄りますから、俺の魔法で追加の蜂蜜を送っておきます。
 そうですね、ここを空けておいてください」

 俺は、大部屋の隅に不要な布を広げた。

「なんと、そのようなことまでしていただけるか。
 有難い」

 長は俺の手を取り、拝む格好をした。
 いや、本当はこちらの方が拝まないといけないんだけどね。 

 肩にブランを乗せた俺は、『初めの四人』で、竜人国の『ポンポコ商会』前に跳んだ。

 ◇

「ボー、ちょっと目まぐるしくて、わけ分からなくなってるんだけど、さっきのは何だったの?
 それからここはどこ?」

「ああ、畑山さん、説明が遅れてごめんね。
 さっきの洞窟で、三人の体が光ったでしょ。
 あれは、天竜から加護をもらったからなんだ。
 物理攻撃を受けた時、大幅にそれを軽減してくれる加護だね」

「えっ!?
 それって凄いじゃない。
 で、ここは?」

「ああ、その店があるでしょ。
 ここ、竜人の国なんだけど、あれが『ポンポコ商会』の支店なんだ」

「……店構えがとりわけ大きいあれが?」

「ああ、そうだよ」

「はあ、もう呆れるだけだわ。
 とにかく、次から瞬間移動する前に、どこに行って何をするか教えなさいよね」

「うん、ごめんごめん」

 つい自分のペースで瞬間移動しちゃうからね。
 次から気をつけよう。

「おや、シローさん、それにカトー君も。
 帰ったのかい」

 向かいで店を開いている女将さんが声を掛けてくれる。

「ええ、お土産配りますから、後でウチに寄ってくださいよ」

「ああ、みんなにも声かけとくよ。
 それより、前にもらった『ケーサンキ』だっけ、あれ、もう一つ売ってもらえないかい?
 あんたんとこで売ってるときに買っておくんだったよ。
 すぐに売りきれちゃってね」

 確か竜金貨何枚かの値段をつけたはずだが、すぐ売れちゃったか。

「分かりました。
 お土産にそれも入れときます」

「あんな高いもん、いいのかい?」

「ええ、みなさんには、ウチの店がお世話になってますから」

「逆だよ。
 あんたんとこができてから、ウチの店は売りあげが倍以上になってるんだ。
 また、ナルちゃんやメルちゃんと遊びにおいで。
 うちなら全部無料で食べ放題だよ」

「ありがとう」

 ◇

「こんにちは」

 ポンポコ商会の引き戸を開け、店舗の中に入る。

「あっ!
 社長、シローさんですよー」

 俺に気づいた副社長が、店の奥に叫ぶ。
 すぐに、ネアさんとイオが出てきた。

「お兄ちゃん!」

 イオが俺の首に手を回す。

「し、史郎君、この子は誰っ!」

 舞子が目くじらたてているが、さすがにイオは年齢が低すぎるだろう。

「今日は俺の友人を連れてきたよ。
 加藤とは、前に会ってるよね。
 こちらが舞子、こちらが畑山さん」

「初めまして、ネアです。
『ポンポコ商会ドラゴニア支店』を任せてもらっています」

「初めまして、舞子です」
「こんにちは、畑山です」
「……」

「シローさん、加藤さんはどうしたんですか?」

 加藤は、竜王様と念話したショックからまだ立ちなおれていない。
 
「後で詳しく話すよ。
 それより、計算機やノート、ボールペンはどう?」

「もの凄く使いやすいですよ。
 今までの苦労が嘘のようです。
 特に計算機には助かっています」

「そう思って、大量に買ってきたからね。
 一つずつ近所のお店に渡した後は、自由に使ってね」

「お店で使うのは、もう十分な数がありますから、残りは売りましょう」

「以前、値段はいくらにしたっけ?」

「ケーサンキの値段は、竜金貨二枚です」

 約百万円か。

「そうだね、金貨三枚にしよう」

「分かりました」

「ボー、この国の金貨って価値はどのくらい?」

 聞いていた畑山さんが話に割りこむ。

「ああ、竜金貨は、アリストで使っている金貨から見て、およそ半分の価値だね」

「計算機一つが……げっ、百五十万円じゃない!」

「そうだよ」

「そ、それって、百円ショップで買ったやつだよね」

「うん、そう」

 畑山さんが、恐ろしものでも見たような目を俺に向ける。

「はあ~、あんたの会社がどんどん増えていくから、なぜだろうって思ってたけど、やっと理由が分かったわ」

「そう?」

「そんな、しれっとした顔して……あんた悪人ねえ」

「そうだぞ、ボー、お前、ひどいぞ」

 お、加藤がやっと復活したようだ。

「竜王様って、俺が首を落とした竜のお父さんじゃねえか。
 お前、前もって教えとけよ。
 今まで生きてて、二番目に怖かったぞ」

「ああ、だが、竜王様は、お前に何もしなかったろう?」

「あ、ああ、どうしてだろう?」

「あの竜の命を奪ったのは、俺と点ちゃんだからだ」

「げっ!」

 加藤が、一歩引くほど驚く。

「も、もしかして、お前、何とかって称号、持ってないか?」

 加藤は驚いた顔のまま尋ねた。 
    
「ああ、ドラゴンスレイヤーだろ。
 その称号なら持ってるぞ」

「……」

 加藤は、呆れた顔で黙りこんでしまった。
 畑山さんと舞子は、お店の焼きたてクッキーとチュロスを出され、ネアさんと談笑している。
 そちらとこちらで、温度差が激しい。

「おい、ボー、ちょっと待てよ。
 お前、以前、竜のダンジョンで、骨の竜と戦ったって言ってなかったか?」

「ああ、そうだよ」

「まさかと思うが、その相手は……」

「お前が念話した竜王様だな」

 石のように固まった加藤は放っておき、俺は談笑の輪に加わった。
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