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第十章 奴隷世界スレッジ編
第5話 真竜の子供たち
しおりを挟む新しい家の事や鎧に関するあれこれが落ちつくと、俺は家族をリビングに呼んだ。
今日、『くつろぎの家』の一階リビングには、家族しかいない。
「パーパ、なーに?」
ナルがちょっと不安そうだ。
今まで、こういう場合、俺が一人で旅に出かけたことが多かったからね。
「ええと、そろそろ真竜廟に行こうと思うけど、みんなはどう思う?」
ルル、コルナ、コリーダが、同時にがたっと立ちあがると俺の所に来る。
三人から頬にキスをされた俺は、きっとトマトより赤くなっていた事だろう。
「ナルもー」
「メルもー」
二人の娘も俺の頬にキスをする。
リーヴァスさんが、ニコニコしてそれを見ていた。
みんなの笑顔を見て、真竜廟行きを決めて良かったと心から思った。
◇
女王陛下に念話を入れてから、家族全員を連れ、アリスト城の庭にある噴水の横に跳んだ。
そこには、この日のため、お城にとどまっていた加藤と舞子がいた。畑山さんはレダーマン、ハートンを後ろに従えている。
俺の家族が、畑山さんに女王陛下に対する礼をする。
「ボー、一週間前、あんたん家のパーティに行ったばかりでしょ。
今回の外出は、この二人が首を縦に振らないのよ」
今回の天竜国行きには、畑山さん、舞子、加藤を同行する予定だ。
「いくらシロー殿の頼みとはいえ、さすがにそう頻繁に陛下にお城を出られては……」
ハートンが厳しい表情をしている。
彼らは、俺の誘いで畑山さんが長いこと城を留守にしたトラウマがあるからね。
「ああ、天竜国へ行く目的を話していなくてごめん。
今回はね、女王陛下に、天竜から加護をもらうのが目的なんだ」
「「ええっ!」」
ハートンとレダーマンが、叫び声をあげる。
「へ、陛下が竜からご加護を……」
二人は、少しの間、呆然とする。
「ど、どうぞ、陛下をお連れください!」
「今すぐ、ご出発を!」
ハートンとレダーマンの豹変を見て、畑山さんが苦笑いしている。
「では、行ってきます。
何かあれば、ギルドに相談してください。
ミミとポルは残しておきますから」
俺はそれだけ言いのこすと、家族と『初めの四人』を連れ、天竜国へのセルフポータルを開いた。
◇
「えっ!?
ここはどこ?」
現れたのが森の中なので、畑山さんが驚いている。
「ゲッ!」
加藤が叫び、舞子が俺の腕にしがみついたのは、たまたま俺たちが現れた場所にジャイアント・スネークがいたからだ。
人など簡単に一飲みするサイズの蛇型モンスターは、あっという間に姿を消した。
俺の肩には白猫、ルルの肩には黒猫が座っているからね。
しかし、蛇の慌てようが尋常ではなかったのは、二匹が覚醒したことと関係があるかもしれない。
「お、おい、ボー、ありゃ、なんだったんだ」
「ジャイアント・スネークって、この森で二番目に強いモンスターだね」
「史郎君、どうしてあの蛇は、逃げていったの?」
「ああ、舞子。
それはね、この森で一番強い存在がここにいるからだよ」
俺が白猫と黒猫を指さす。
「げっ!
今までモフってた白猫が……」
加藤が絶句した。
舞子と畑山さんにだけは、これから竜王様に会うことを念話で知らせておき、真竜廟の扉まで歩いた。
転移した場所からは、十メートルほどしか離れていないからすぐだ。
念話で竜王様に到着を知らせた。
「でかい扉だなー」
扉の前にいた加藤は、いきなり開いたその隙間から、竜王様の巨大な光る眼を見て気を失いかける。
その加藤に肩を貸してやり、部屋に入った。
部屋のまん中あたりでは、三十体ほどの子竜が同じ動きをしていた。
一際大きな真竜三体が人化し、三、四才くらいの子供の姿になる。
彼らは、よちよちとこちらにやってくる。
ルル、コルナ、コリーダが、だっと駆けだし、それぞれの子供を抱きしめる。
俺には子供の違いが分からないのだが、彼女たちには区別がつくようだ。
ナルとメルも、真竜にとり囲まれた。
ルルたちが世話をしただろう、他より大きな真竜が六体、彼女たちに頭をすりつけている。
『シロー、よく来たな』
竜王様の念話が、嬉しそうだ。
『遅くなり、申しわけありません。
聖樹様のお仕事で、元の世界に帰っていました』
『おお、その額のものは、聖樹様につけていただいたのじゃな?』
俺の額には、聖樹様が埋めこんだ、真竜廟の秘宝が入っている。
『はい、これでポータルを開き、元の世界に帰れました』
『そうか、よかったのお。
ところで、その男には、なにやら見覚えがあるのじゃが』
『人族の勇者です』
『黒髪の勇者……もしや、わが娘を手に掛けた男ではないか?』
本当は加藤が切ったのは、死んだ後の真竜で、殺したのは俺と点ちゃんなのだが。
竜王様も、そのことはご存じだ。
『点の子よ、こやつと直接話がしたい。
点をつけてくれぬか』
『(^▽^)/ はーい!』
やっと意識がはっきりした加藤の背中を、竜王様に向け少し押した。
竜王様と念話のチャンネルが開いたのだろう。
加藤が小さく身じろぎした。
その身じろぎが次第に大きくなり、だんだん加藤の体が震えだす。
『((((;゜Д゜)))) ガクガクブルブル』
まあ、点ちゃん、そうなんだけどね。
いくらガクブル勇者でも、これは加藤がかわいそうだ。
念話が終わったのだろう。加藤はすとんと膝を落とした。
畑山さんが側に行き、心配そうに見下ろしている。
前に回ると、加藤は涙と鼻水、よだれを垂らし、酷い顔になっていた。
口をパクパクさせているのは、俺に何か言いたいことがあるらしい。
歩けない加藤をボードに乗せ、『初めの四人』と白猫だけで天竜の洞窟へ跳ぶ。
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