上 下
394 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第5話 真竜の子供たち

しおりを挟む
  
 新しい家の事や鎧に関するあれこれが落ちつくと、俺は家族をリビングに呼んだ。

 今日、『くつろぎの家』の一階リビングには、家族しかいない。

「パーパ、なーに?」

 ナルがちょっと不安そうだ。
 今まで、こういう場合、俺が一人で旅に出かけたことが多かったからね。

「ええと、そろそろ真竜廟に行こうと思うけど、みんなはどう思う?」

 ルル、コルナ、コリーダが、同時にがたっと立ちあがると俺の所に来る。
 三人から頬にキスをされた俺は、きっとトマトより赤くなっていた事だろう。

「ナルもー」
「メルもー」

 二人の娘も俺の頬にキスをする。
 リーヴァスさんが、ニコニコしてそれを見ていた。

 みんなの笑顔を見て、真竜廟行きを決めて良かったと心から思った。

 ◇

 女王陛下に念話を入れてから、家族全員を連れ、アリスト城の庭にある噴水の横に跳んだ。

 そこには、この日のため、お城にとどまっていた加藤と舞子がいた。畑山さんはレダーマン、ハートンを後ろに従えている。

 俺の家族が、畑山さんに女王陛下に対する礼をする。

「ボー、一週間前、あんたん家のパーティに行ったばかりでしょ。
 今回の外出は、この二人が首を縦に振らないのよ」

 今回の天竜国行きには、畑山さん、舞子、加藤を同行する予定だ。

「いくらシロー殿の頼みとはいえ、さすがにそう頻繁に陛下にお城を出られては……」

 ハートンが厳しい表情をしている。
 彼らは、俺の誘いで畑山さんが長いこと城を留守にしたトラウマがあるからね。

「ああ、天竜国へ行く目的を話していなくてごめん。    
 今回はね、女王陛下に、天竜から加護をもらうのが目的なんだ」

「「ええっ!」」

 ハートンとレダーマンが、叫び声をあげる。

「へ、陛下が竜からご加護を……」

 二人は、少しの間、呆然とする。  
 
「ど、どうぞ、陛下をお連れください!」
「今すぐ、ご出発を!」

 ハートンとレダーマンの豹変を見て、畑山さんが苦笑いしている。

「では、行ってきます。
 何かあれば、ギルドに相談してください。
 ミミとポルは残しておきますから」

 俺はそれだけ言いのこすと、家族と『初めの四人』を連れ、天竜国へのセルフポータルを開いた。

 ◇

「えっ!? 
 ここはどこ?」

 現れたのが森の中なので、畑山さんが驚いている。

「ゲッ!」

 加藤が叫び、舞子が俺の腕にしがみついたのは、たまたま俺たちが現れた場所にジャイアント・スネークがいたからだ。
 人など簡単に一飲みするサイズの蛇型モンスターは、あっという間に姿を消した。
 俺の肩には白猫、ルルの肩には黒猫が座っているからね。 
 しかし、蛇の慌てようが尋常ではなかったのは、二匹が覚醒したことと関係があるかもしれない。

「お、おい、ボー、ありゃ、なんだったんだ」

「ジャイアント・スネークって、この森で二番目に強いモンスターだね」

「史郎君、どうしてあの蛇は、逃げていったの?」

「ああ、舞子。
 それはね、この森で一番強い存在がここにいるからだよ」

 俺が白猫と黒猫を指さす。

「げっ! 
 今までモフってた白猫が……」

 加藤が絶句した。

 舞子と畑山さんにだけは、これから竜王様に会うことを念話で知らせておき、真竜廟の扉まで歩いた。
 転移した場所からは、十メートルほどしか離れていないからすぐだ。
 念話で竜王様に到着を知らせた。

「でかい扉だなー」

 扉の前にいた加藤は、いきなり開いたその隙間から、竜王様の巨大な光る眼を見て気を失いかける。
 その加藤に肩を貸してやり、部屋に入った。

 部屋のまん中あたりでは、三十体ほどの子竜が同じ動きをしていた。
 一際大きな真竜三体が人化し、三、四才くらいの子供の姿になる。

 彼らは、よちよちとこちらにやってくる。
 ルル、コルナ、コリーダが、だっと駆けだし、それぞれの子供を抱きしめる。
 俺には子供の違いが分からないのだが、彼女たちには区別がつくようだ。
 ナルとメルも、真竜にとり囲まれた。

 ルルたちが世話をしただろう、他より大きな真竜が六体、彼女たちに頭をすりつけている。

『シロー、よく来たな』 
 
 竜王様の念話が、嬉しそうだ。

『遅くなり、申しわけありません。
 聖樹様のお仕事で、元の世界に帰っていました』 
    
『おお、その額のものは、聖樹様につけていただいたのじゃな?』

 俺の額には、聖樹様が埋めこんだ、真竜廟の秘宝が入っている。

『はい、これでポータルを開き、元の世界に帰れました』

『そうか、よかったのお。
 ところで、その男には、なにやら見覚えがあるのじゃが』

『人族の勇者です』

『黒髪の勇者……もしや、わが娘を手に掛けた男ではないか?』

 本当は加藤が切ったのは、死んだ後の真竜で、殺したのは俺と点ちゃんなのだが。
 竜王様も、そのことはご存じだ。

『点の子よ、こやつと直接話がしたい。
 点をつけてくれぬか』

『(^▽^)/ はーい!』

 やっと意識がはっきりした加藤の背中を、竜王様に向け少し押した。
 竜王様と念話のチャンネルが開いたのだろう。
 加藤が小さく身じろぎした。
 その身じろぎが次第に大きくなり、だんだん加藤の体が震えだす。

『((((;゜Д゜)))) ガクガクブルブル』 

 まあ、点ちゃん、そうなんだけどね。
 いくらガクブル勇者でも、これは加藤がかわいそうだ。
 
 念話が終わったのだろう。加藤はすとんと膝を落とした。
 畑山さんが側に行き、心配そうに見下ろしている。

 前に回ると、加藤は涙と鼻水、よだれを垂らし、酷い顔になっていた。
 口をパクパクさせているのは、俺に何か言いたいことがあるらしい。

 歩けない加藤をボードに乗せ、『初めの四人』と白猫だけで天竜の洞窟へ跳ぶ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...