392 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編
第3話 建てまし
しおりを挟む俺たちが住む『くつろぎの家』から庭をはさんだ、向かいの家が売りに出されることになった。
そこには老夫婦が住んでいたのだが、地方の村に住む息子夫婦と一緒に暮らすことになったらしい。
そのことを知ると、俺はすぐにその家と土地の購入手続きを始めた。
最初、土地だけは残しておこうと考えていた老夫婦だったが、俺が三割増しの金額を提示すると、あっさり土地ごと売ってくれた。
老夫婦が引っこすとすぐ、俺は二軒の間にあった塀を取りはらった。
新しく買った家にあった裏庭と、こちらの庭が一続きとなり、かなり広くなった。
古くなっていた隣の家屋は、まるごと点収納し、『土の家』を立ちあげる。
地上二階、地下二階の構造にすることで、庭をさらに広げた。
家には、『やすらぎの家』という名前をつけた。
広くなった庭に、ナル、メル、猪っ子コリンが喜んだのはもちろんだが、ルルが笑顔になった。
彼女が好きな花を植える区画や、家庭菜園を俺が整備しておいたからだ。
彼女は前から家庭菜園が欲しかったようで、さっそくコルナ、コリーダと頭を突きあわせて何を植えるか話しあっている。
イリーナとターニャは、まだ、『くつろぎの家』の客室にいるが、こちらの生活に慣れたら、『やすらぎの家』に移ることになる。まあ、彼女たちは、それまでにすべきが色々あるから、おそらくそれはかなり先になるだろう。
俺が『やすらぎの家』を建てたのには、他にも理由がある。竜人の国で、こちらに来るのを待っている黒竜族の女性、エンデを迎えいれるためだ。
神樹様の件と先に取りくんだので、彼女をドラゴニアでずっと待たせているから、そろそろ迎えに行かなくてはならない。
また、比較的狭い部屋に住んでいた、デロリンとチョイスにも、それぞれ普通サイズの部屋を用意した。彼らが今まで使っていたパントリー奥の部屋は、壁を抜き、全てパントリーとした。
棚や物置の設計に関わったデロリンとルルが、目を輝かせていたから、かなりいい改造ができたと思う。
そして、客室は、全て『やすらぎの家』に移すことにした。こうすることで、『くつろぎの家』が、完全にプライベート空間になった。
よく遊びにくるキツネたちは、『やすらぎの家』を訪れることになる。
庭の一角には特別なスペースを設け、そこに聖樹様から頂いた神樹の種を一つ植える。
『地球の家』では、『光る木』の神樹様が生えたが、この種が何になるか、今から楽しみだ。
◇
『やすらぎの家』のハウスウォーミングパーティーは、参加者をごく内輪だけにとどめた。
すでに、キツネたちは普通にこちらを訪れているからね。
一階にある広い食堂兼キッチンに、俺の家族、ミミ、ポル、『初めの四人』、イリーナとターニャが集まる。
今回は二人だけゲストがいて、それは地球世界からアリストの魔術研究所に来ている研究者二人だ。
二人ともまだ二十台で、サイモンがオーストラリア、ローズがイギリス出身だ。
彼らは、同じテーブルに畑山さんが着いているのを見ると、目を丸くしていた。
二人は、こちらに来た時、お城で女王様に謁見しているからね。
「私たち家族の新しい家、『やすらぎの家』によくいらっしゃいました。
みなさん、今日はお楽しみを。
乾杯!」
リーヴァスさんの音頭で、食事が始まる。今日は、デロリンの他に、カラス亭の女将とその旦那さんまで手伝いに来てくれている。先日、カラス亭にお邪魔した時、近々、パーティーを開くと話したら、おかみさんが手伝わせてくれと言いだしたので、そのお言葉に甘えることにした。
後で、『フェアリスの涙』を渡しておこう。
『初めの四人』は、テーブルの一番奥に、二人ずつ向かいあって座っている。
「相変わらず、ここの食事は旨いな」
加藤は、がつがつ食事に手を出している。
「ところで、この前の事、何か分かった」
畑山さんが声をひそめ、こちらに話を振る。
俺も、他から聞こえないように小さな声で話した。
「ああ、そうだね。
食事の後、ちょっと見てもらうかな」
再覚醒については、それだけ言って話題を変える。
「舞子、イリーナのこと、考えてくれたかな」
「ええ、ピエロッティとも相談したんだけど、いつ来てもらってもいいわよ」
俺が舞子に頼んだのは、『聖女』に覚醒したイリーナの弟子入りだ。
「しかし、まさか『聖女』に覚醒するとはねえ」
畑山さんが、呆れたように言う。
「ケーナイは、大騒ぎになるね」
『聖女広場』に集まる群衆が目の前に見える気がした。
「ところで、畑山さんの話だと、お前も『再覚醒』とかいうのしたんだろ?」
「加藤!
そのことは、極秘中の極秘だから、ここで話さないの」
「れ、麗子さん、知らなかったんだ、ごめんなさい」
相変わらず、弱気な勇者だな。
「史郎君、本当は、何になったの?」
舞子が上目遣いで俺を見る。
「しょうがない……」
俺は、目の前にいる三人と念話のチャンネルを開いた。
『あー、本当に言いたくないんだけどなあ』
『観念なさい、ボー』
『史郎君、私、どうしても知りたい』
『白状しろよ』
『……『英雄』だよ』
『ええっ!』
『なんじゃ、そりゃーっ!』
舞子と加藤は驚いたが、畑山さんは、頷くだけだった。
『やっぱりね』
『畑山さん、ハートンさんから聞いたの?』
『違うわ』
『じゃ、どうして?』
『あんた、以前エルフのモリーネ姫を城に連れてきたことがあったでしょ?』
『……ああ、学園都市世界からエルファリアへ彼女を連れていく途中に立ちよったね』
『あのとき彼女から、そのうち、あんたが英雄になるだろうって教えてもらったの』
そういえば、コルナも俺が英雄になったことを話しても驚かなかったな。
神樹様繋がりで、そういう共通認識があったんだろう。
『とにかく、俺がそんなものになったことは、内緒にしておいてくれよ』
『分かってるわ』
『うん、分かった』
『まあ、知られたら騒ぎになるだろうからな』
畑山さん、舞子、加藤は、『英雄』の事を内密にすることに納得してくれたようだ。
みんなの食事が終わり、お茶を飲む段になると、ルルが立ちあがった。
「今日は、ミミとコリーダの出し物があります。
では、ミミ、お願いします」
ミミは、ポルから渡された布で手をよく拭いている。靴を脱ぐと足もぬぐう。
「では、『パーティ・ポンポコリン』ミミが芸を見せます」
彼女はそう言うと、テーブルから数歩離れた。
身体を斜めにすると、掛け声をかける。
「はっ」
ゴムまりのように飛びだし彼女の体は、部屋の壁のあいだをもの凄い勢いで行き来する。
四つの壁を使い、縦横に弾む。
地球から来た研究者はもちろん、カラス亭の女将さんやおじさんも、目を丸くし口を大きく開けている。
ミミは、最初にいた場所に、音も立てずピタリと着地した。両手を挙げたグ〇コのポーズだ。
一瞬の静寂のあと、みなが一斉に拍手した。
ミミは、笑顔でみんなに手を振っている。
彼女の新しい職業(クラス)「軽業師」がなせる業だ。
みなの興奮が落ちついてから、コリーダが立ちあがる。
部屋は、それだけで針の落ちる音が聞こえるほど静かになった。
一曲目は、俺が大好きなエルファリアの鎮魂歌だった。
静かに始まり、静かに終わるその曲に、みなが涙を流す。
二曲目は、エルファリアの歌で自然を題材にした詩に曲をつけたものだ。
あたたかな音の流れに皆がうっとりした顔になる。
最後の曲は、アリスト王国の国歌だった。
最初みんなが声を合わせ、最後コリーダの独唱で終わる。
盛大な拍手が部屋を満たした。
こうして、俺が作った新しい家のお披露目が終わった。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?
ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。
「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。
1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。
3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。
けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。
職業とスキルを伝えられた後、神様から、
『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』
と言われる。
この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。
大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。
悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し!
逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。
ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる