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第九章 異世界訪問編

第38話 地球世界の神樹5 -- 南アメリカ --

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 俺は手始めにブラジル中央政府に勤務する全ての人に点をつけた。

 その点を目標に、小さく分裂したブランが各人に取りつく。
 ブランが送った情報を、点ちゃんがチェックする。
 人間ならコンピューターを使っても、もの凄く時間がかかるだろう作業が、あっという間に終わる。

 まず、職員から麻薬関係者にかかわる記憶を全部消した。

 急に中央政府とのコンタクトが切れた麻薬王は、慌てて幹部会議を開いた。
 場所は、ジャングルの中に建つ豪邸だ。
 複数のプール、ゴルフ場、ヘリポート、飛行場まである。
 軍用機や装甲車さえ、複数揃えていた。

 屋敷で一番広い部屋には、白い大きなテーブルがあり、その周りに麻薬組織の幹部が座っている。
 必要以上に大きな椅子に座った麻薬王が口火を切る。

「おい、中央との連絡が途絶えた理由は分かったのか?」

「それが、親しい者が会おうとしても、知らぬ存ぜぬでらちがあきません」

「家族を誘拐するなりなんなりして脅してみたか?」

「ええ、やっていますが、警察が動いて面倒なことになっています」

「警察にいる協力者は何をしている」

「それが、彼らも知らぬ存ぜぬで……」

「そんな馬鹿な話があるか! 
 良く調べてみろ」

 口答えすると殺されるのが分かっているから、幹部は黙りこんだ。
 その時、ドアが開き警備員とは名ばかりの傭兵が飛びこんできた。

「おいっ! 
 会議中は絶対に入ってくるなと言ってあるだろうが!」

 幹部の一人が怒鳴りつける。

「で、で、でも、せ、戦闘機と装甲車が、ぜ、全部消えちまったんですよ!」

 警備員が悲鳴のような声を上げる。

「馬鹿を言うな! 
 そんなわけがないだろう」

 麻薬王が部下から双眼鏡をひったくり、窓の外を見る。

「ど、どういうことだっ!」

 飛行場に並べてあった戦闘機やヘリが一台も無い。
 格納庫さえ全て消え、更地になっていた。

 彼は気づいていないが、見渡す限り人がいない。
 麻薬王は、双眼鏡から目を離そうとした瞬間、滑走路の一角に動くものを見つけた、

 頭に茶色の布を巻いた少年が、ゆっくりこちらに向かって歩いてくる。
 原住民が一人迷いこんだのかもしれない。

「おい、お前! 
 調べてこい!」

 彼は警備員に命令した。

「し、しかし、……」

 麻薬王は、言いよどむ警備員の口に、部下から奪った拳銃の先を突っこんだ。

「今ここで死ぬか、調べに行くか?」

 警備員は銃口で切った口から血を滴らせながら、必死で頷いた。
 警備員と言う名の傭兵が部屋から出ていって十五分、彼が持っているはずの無線からは何の応答もない。

 突然、静かにドアが開くと、頭に茶色い布を巻いた少年が立っていた。

「お前、どっから迷いこんだ!」

 幹部が立ちあがろうとしたが、なぜか体が動かない。
 麻薬王は周りを見まわそうとしたが、彼自身も体が動かせなくなっていた。
 少年が肩に乗せていた白猫が、ぴょんと飛びおりるのが見えた。

 その猫が幹部の一人の肩に飛びのると、前足で彼の額に触れる。
 そして、少年の所に戻ると、彼の額にも手を当てた。

「なるほど、お前は人殺しが趣味で、三十四人も殺してるな」

 猫は一人一人の幹部と少年の間を往復する。

「お前は子供や女性をいたぶるのが趣味で、二十五人殺している」

「ほう、お前は村ごと原住民を焼き払ったことがあるな」

 少年は、幹部自身さえ忘れていた悪行まで暴いていった。
 最後に麻薬王の所から猫が戻ってくる。

「お前は、ありとあらゆる犯罪を重ねてきたな。
 特に、〇〇の町ではひどいことをやった」

 少年が白いカーテンを引きちぎると、一瞬でそれが何枚かに切りわけられた。
 麻薬王を始め、それぞれ幹部の背中に白い布がぺたりと貼りつく。
 布には、それぞれの本名が黒々と浮かびあがった。
 ご丁寧に麻薬組織内での通り名まで添えてある。
 殺してきた人の名前がその下に書かれていた。

 少年が指を鳴らすと、麻薬王とその幹部はある町の広場に現れた。
 その町は、彼らが繰りかえし略奪、強盗、殺人を行ってきた場所だった。
 街の人々が彼らに気づき、集まってくる。
 麻薬王とその仲間は、体の中で唯一動くその口で助けを求めた。

 しかし、住民たちは無表情に近よってくるだけだ。
 草を刈った帰りなののだろう。
 一人の老婆が、鎌をもったまま幹部の一人に近づく。

「そうかい。
 ウチの娘と孫を殺したのはお前かい」

 彼女の声は静かだった。
 別の男がカバンの中からペンを取りだす。

「そうか、彼女を殺したのはお前だったか」

 麻薬王とその部下は口々にそれを否定するが、住民たちは誰もそれを聞いていない。
 いつの間にか、砂糖に群がる蟻のように多数の住民が麻薬王たちを覆いつくした。

 ◇

 全てが終わったあと、住民たちは自分が町のそばにある草原にいることに気づいた。

 たった今まで何か楽しいことをしていた気がするのだが、それを覚えていない。
 そして、みんな手に持っていたものを失っていた。
 なぜか、各自の服が新品のようにきれいになっている。

 顔見知りの住民たちは、何がおこったか分からなかったが、かつてないような充足感と安らかな気持ちが広がるのを感じ、お互いに微笑みあった。

 同じ頃、通報を受けた若い警官が二人、町の広場に駆けつけると、地面が赤く染まっていた。
 誰かがペンキでもまき散らしたに違いない。

 一人の警官がそれは血かもしれないと思ったが、鑑識はこのような事件に駆りだせるほど暇ではない。
 二人は、イタズラの一つとして事件を処理した。

 麻薬王とその一味は、姿も記憶も人々の中から消えうせた。
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