上 下
377 / 607
第九章 異世界訪問編

第38話 地球世界の神樹5 -- 南アメリカ --

しおりを挟む

 俺は手始めにブラジル中央政府に勤務する全ての人に点をつけた。

 その点を目標に、小さく分裂したブランが各人に取りつく。
 ブランが送った情報を、点ちゃんがチェックする。
 人間ならコンピューターを使っても、もの凄く時間がかかるだろう作業が、あっという間に終わる。

 まず、職員から麻薬関係者にかかわる記憶を全部消した。

 急に中央政府とのコンタクトが切れた麻薬王は、慌てて幹部会議を開いた。
 場所は、ジャングルの中に建つ豪邸だ。
 複数のプール、ゴルフ場、ヘリポート、飛行場まである。
 軍用機や装甲車さえ、複数揃えていた。

 屋敷で一番広い部屋には、白い大きなテーブルがあり、その周りに麻薬組織の幹部が座っている。
 必要以上に大きな椅子に座った麻薬王が口火を切る。

「おい、中央との連絡が途絶えた理由は分かったのか?」

「それが、親しい者が会おうとしても、知らぬ存ぜぬでらちがあきません」

「家族を誘拐するなりなんなりして脅してみたか?」

「ええ、やっていますが、警察が動いて面倒なことになっています」

「警察にいる協力者は何をしている」

「それが、彼らも知らぬ存ぜぬで……」

「そんな馬鹿な話があるか! 
 良く調べてみろ」

 口答えすると殺されるのが分かっているから、幹部は黙りこんだ。
 その時、ドアが開き警備員とは名ばかりの傭兵が飛びこんできた。

「おいっ! 
 会議中は絶対に入ってくるなと言ってあるだろうが!」

 幹部の一人が怒鳴りつける。

「で、で、でも、せ、戦闘機と装甲車が、ぜ、全部消えちまったんですよ!」

 警備員が悲鳴のような声を上げる。

「馬鹿を言うな! 
 そんなわけがないだろう」

 麻薬王が部下から双眼鏡をひったくり、窓の外を見る。

「ど、どういうことだっ!」

 飛行場に並べてあった戦闘機やヘリが一台も無い。
 格納庫さえ全て消え、更地になっていた。

 彼は気づいていないが、見渡す限り人がいない。
 麻薬王は、双眼鏡から目を離そうとした瞬間、滑走路の一角に動くものを見つけた、

 頭に茶色の布を巻いた少年が、ゆっくりこちらに向かって歩いてくる。
 原住民が一人迷いこんだのかもしれない。

「おい、お前! 
 調べてこい!」

 彼は警備員に命令した。

「し、しかし、……」

 麻薬王は、言いよどむ警備員の口に、部下から奪った拳銃の先を突っこんだ。

「今ここで死ぬか、調べに行くか?」

 警備員は銃口で切った口から血を滴らせながら、必死で頷いた。
 警備員と言う名の傭兵が部屋から出ていって十五分、彼が持っているはずの無線からは何の応答もない。

 突然、静かにドアが開くと、頭に茶色い布を巻いた少年が立っていた。

「お前、どっから迷いこんだ!」

 幹部が立ちあがろうとしたが、なぜか体が動かない。
 麻薬王は周りを見まわそうとしたが、彼自身も体が動かせなくなっていた。
 少年が肩に乗せていた白猫が、ぴょんと飛びおりるのが見えた。

 その猫が幹部の一人の肩に飛びのると、前足で彼の額に触れる。
 そして、少年の所に戻ると、彼の額にも手を当てた。

「なるほど、お前は人殺しが趣味で、三十四人も殺してるな」

 猫は一人一人の幹部と少年の間を往復する。

「お前は子供や女性をいたぶるのが趣味で、二十五人殺している」

「ほう、お前は村ごと原住民を焼き払ったことがあるな」

 少年は、幹部自身さえ忘れていた悪行まで暴いていった。
 最後に麻薬王の所から猫が戻ってくる。

「お前は、ありとあらゆる犯罪を重ねてきたな。
 特に、〇〇の町ではひどいことをやった」

 少年が白いカーテンを引きちぎると、一瞬でそれが何枚かに切りわけられた。
 麻薬王を始め、それぞれ幹部の背中に白い布がぺたりと貼りつく。
 布には、それぞれの本名が黒々と浮かびあがった。
 ご丁寧に麻薬組織内での通り名まで添えてある。
 殺してきた人の名前がその下に書かれていた。

 少年が指を鳴らすと、麻薬王とその幹部はある町の広場に現れた。
 その町は、彼らが繰りかえし略奪、強盗、殺人を行ってきた場所だった。
 街の人々が彼らに気づき、集まってくる。
 麻薬王とその仲間は、体の中で唯一動くその口で助けを求めた。

 しかし、住民たちは無表情に近よってくるだけだ。
 草を刈った帰りなののだろう。
 一人の老婆が、鎌をもったまま幹部の一人に近づく。

「そうかい。
 ウチの娘と孫を殺したのはお前かい」

 彼女の声は静かだった。
 別の男がカバンの中からペンを取りだす。

「そうか、彼女を殺したのはお前だったか」

 麻薬王とその部下は口々にそれを否定するが、住民たちは誰もそれを聞いていない。
 いつの間にか、砂糖に群がる蟻のように多数の住民が麻薬王たちを覆いつくした。

 ◇

 全てが終わったあと、住民たちは自分が町のそばにある草原にいることに気づいた。

 たった今まで何か楽しいことをしていた気がするのだが、それを覚えていない。
 そして、みんな手に持っていたものを失っていた。
 なぜか、各自の服が新品のようにきれいになっている。

 顔見知りの住民たちは、何がおこったか分からなかったが、かつてないような充足感と安らかな気持ちが広がるのを感じ、お互いに微笑みあった。

 同じ頃、通報を受けた若い警官が二人、町の広場に駆けつけると、地面が赤く染まっていた。
 誰かがペンキでもまき散らしたに違いない。

 一人の警官がそれは血かもしれないと思ったが、鑑識はこのような事件に駆りだせるほど暇ではない。
 二人は、イタズラの一つとして事件を処理した。

 麻薬王とその一味は、姿も記憶も人々の中から消えうせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

罪人として生まれた私が女侯爵となる日

迷い人
ファンタジー
守護の民と呼ばれる一族に私は生まれた。 母は、浄化の聖女と呼ばれ、魔物と戦う屈強な戦士達を癒していた。 魔物からとれる魔石は莫大な富を生む、それでも守護の民は人々のために戦い旅をする。 私達の心は、王族よりも気高い。 そう生まれ育った私は罪人の子だった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...