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第九章 異世界訪問編
第36話 地球世界の神樹3 -- 北アメリカ --
しおりを挟むドイツの『黒い森』を後にした俺たち一行は、フランスのパリに来ていた。
エミリーがいつになく疲れているから、今夜はパリのホテルに宿泊する。
目的のホテルのスイートルームを確保するため、俺は遠慮なくフランス大統領に連絡を入れた。
俺だけのためなら決してしないことだが、エミリーの事となると話は別だ。
大統領は、有名なホテル王が設立した、高級ホテルの最上階に部屋を取ってくれた。
俺たちがホテルに着くと、そのエントランスには、迎えが立っていた。
「ようこそ、おいで下さいました。
当ホテルの支配人をしております、シャルレです。
皆さんのおいでを心待ちにしておりました」
彼は耳障りのよい声でそう言うと、自ら部屋まで案内してくれた。
エミリーの疲れた様子を見て、医者の手配を申しでる。
さすが一流のホスピタリティを謳うだけはある。
スイートルームに着くと、共有スペースのテーブルの上に果物がおいてあり、その横には冷えたシャン パーニュが入った銀のバケットがあった。
四人の内、三人が未成年だからだろう。チョコレートやクッキーが盛りつけたテーブルもあり、ウエルカムドリンクのジュースが置かれていた。
俺はエミリーに入浴させたあと、彼女に治癒魔術を施す。
「体がぽかぽかして気持ちいいわ」
エミリーがウトウトしだしたので、コケットを出して寝かせる。
一流ホテルのベッドも悪くないが、コケットの寝心地には負けるからね。
エミリーはすぐに寝息を立てた。
俺と翔太は、ハーディ卿とエミリーを部屋に残し、ホテル内を散策した。
これは、安全確認も兼ねている。
点ちゃんに周囲の建物も調べてもらってある。
部屋に戻ると順番に入浴を済ませ、俺たちもすぐに寝た。
翌朝、共有スペースに出てきたエミリーは、凄く元気になっていた。
「なんか、今までで一番気持ちよく目が覚めたの」
そんなことを言っている。
このホテルではクラブフロアが使えるから、俺たちは、そこで朝食を取った。
従業員に頼めば料理を持ってきてくれるのだが、エミリーと翔太は連れだってバイキング形式の朝食を楽しんでいた。
翔太がこまごまとエミリーの世話を焼いているのが、ほほえましい。
挨拶に来た支配人に、スイートルームを一つ、年間契約するよう頼んだ。
通常ならあり得ないほどの金額だが、今の俺はお金の使い道が無くて困っている。
これまでほとんど使っていないから、ここで使っておこう。
もちろん、俺や家族はやがて異世界に帰るから、ここは『ポンポコ商会』と『異世界通信社』の従業員が、ヨーロッパで滞在する際の福利厚生施設として借りるわけだ。
実際、それだけのお金があれば、郊外に小さな屋敷の一つも買えるのだが、手続きやメンテナンスのことを考えると、とりあえずはホテルを借りておこうということになる。
昼前にホテルを出立しようとすると、支配人から呼びとめられる。
昨日の宿泊費はもちろん、年間契約費も国が支払うということだった。
さすが文化の国フランス。ここぞという時、太っ腹だ。
しかし、せっかくお金を遣おうと思ったのに、これではねえ。
俺は大統領にお礼の電話をすると、ホテルを出た。
ホテルのリムジンで、郊外の公園まで送ってもらう。
人気がないところで、点ちゃん1号を出して乗りこむ。
◇
俺たちは、点ちゃん1号で大西洋を越え、カナダ上空に来ている。
カナダの針葉樹林隊には、二柱の神樹様がいた。
どちらも健康状態が良く、エミリーの能力は、神樹様のネットワークを強めるためだけに使った。
その後、俺たちは南下し合衆国に入った。
エミリーが示したのは、カリフォルニアの丘陵地帯だった。
ここの神樹様は、とても大きかった。
ハーディ卿によると、レッドウッドというそうだ。
生きた化石で有名なメタセコイヤという木も、レッドウッドの仲間らしい。
『神樹さん、こんにちは』
エミリーの念話から、会話が始まった。
『そちは、どなたぞ』
『はじめまして、私はエミリーと言います。
『聖樹の巫女』です』
『なんと!
我が生あるうちに、巫女様に会えるとは』
『ラジさんは、会話に慣れているようですね』
『かつてこの地におった人間が、よく我と話しておりました』
神樹の巫女が地球にもいたんだね。
『その男が来ぬようになって、少し寂しかった』
えっ! 男の人だったか。
『聖樹様と、お話ししないのですか?』
『この世界は聖樹様の世界と「距離」があるせいか、うまく会話できなくての。
若いころ、数回お話できただけです』
エミリーが、『光る木』の『枯れクズ』を根元に埋め、聖樹様に手をかざす。
聖樹ラジ様は、今までのどの神樹より強い光を放った。
『おお! これは……。
これなら聖樹様と繋がれそうじゃ』
しばらく、念話が途絶える。
『巫女様、なんと感謝してよいか!
聖樹様と久しぶりに話せたぞ』
『これからは、いつでも話せるはずです』
『さすがは、巫女様じゃ。
ありがたき事よ』
『神樹様、シローと言います。
その以前会話されていた相手の事がわかりますか』
『いや、素性は良く知らぬぞ。
人も動物も植物も、あやつには区別が無いようじゃった』
『そうですか。
すごい人だったのですね』
『普通の人間とは違っておったな。
この国の者ではあるまい。
そういえば、お主、なんとなくその男に雰囲気が似ておるの』
もしかすると、その人もくつろぎを大事にする人だったのかもしれない。
『それより、お前たち、巫女様のお守り、くれぐれも頼んだぞ』
『はい、頑張ります!』
『(^▽^) ういういー』
『もちろんです』
神樹様の頼みに翔太、点ちゃん、俺が答える。
『久々に人と話せて楽しかったぞ。
巫女様のお手伝いが終わったらまた来るとよい』
神樹ラジ様はそう言うと、穏やかな気のようなものが辺りに満ちた。
俺には神樹様が四人を祝福してくださっているのが分かった。
俺たちは、その日ニューヨークのハーディ邸に泊まった。
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