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第九章 異世界訪問編
第31話 地球人と異世界人
しおりを挟む体育館には、全校生徒が集められていた。
異世界科の新設で人数が増えたので、俺が在籍していたときより総生徒数も増えている。
体育館に並ぶと、それが明らかだった。
仲間全員が短かく自己紹介した後、演台に俺だけが立った。
「みなさんの中には、異世界の人々に対して恐れや不安を抱いている人もいるでしょう。
先日もある人から、異世界人がこの世界を侵略しないかと尋ねられました」
異世界科の生徒たちだけが、どっと笑った。
「俺が今日この場に来たのは、異世界でも地球でも、人に変わりは無いという事を知ってもらいたかったからです。
喜び、怒り、悲しみ、楽しむ。
その感情は同じなのです、
しかし、それをどれだけ言葉で説明しても理解してもらえるとは思えません。
ですから家族の力を借りようと思います」
俺はコリーダに合図した。
演台は点魔法で移動させる。
舞台のまん中に、コリーダだけが立つ。
彼女の歌が始まった。
最初の曲はアップテンポの楽しい曲だ。
すぐに会場からも手拍子が起きた。
生徒たちが立ちあがり、踊りはじめる。
舞台上でも、ナルとメルが踊っていた。
二曲目は一転して、暗く激しい曲だった。
会場の生徒たち、教師たちは、歌の力に圧倒され、身動きができない。
曲が終わったとき、止めていた息を吐く音があちこちから聞こえた。
三曲目はエルフの鎮魂歌。
これまで何度か聞いた、俺が好きな曲でもある。
会場の全員が歌の世界に引きこまれ、時間の感覚を失う。
曲が終わった後も、しばらく静寂が続いた。そして、割れんばかりの拍手。
最後の曲は、俺も初めて聞いた歌だった。
生の喜びが聞き手の心に沸きあがる。
ナルとメルは、ルルに抱きついている。
喜びの賛歌に会場の全員が涙を流していた。
曲が終わり、しばらく音が無い時間が過ぎる。
林先生の拍手をきっかけに、会場が割れるような歓声に包まれた。
コリーダは礼をすると、俺たちの所に戻ってくる。
彼女は皆から祝福を受けた。
最後に生徒会長から挨拶がある。
「異世界の皆さん、今日はこの学校にいらっしていただき、ありがとうございました。
あらかじめ話すことを決めていたのですが、それは読まないことにしました」
生徒会長をつとめる眼鏡を掛けた女生徒は、ポケットから折りたたんだ紙を出し、それを演台に置いた。
「シロー先輩がおっしゃった通り、私は異世界の人々に恐れのようなものを抱いていました。
もしかして侵略されたらどうしよう、なんて考えたこともあります。
しかし、コリーダさんの歌を聞いて、私たちと異世界の人々は同じなんだと、心の底から信じることができました。
地球の上で争いが絶えないのも、隣人を自分と同じだと思えないからではないでしょうか。
今日感じたことを、一生の宝物にしたいと思います。
みなさん、ありがとうございました」
会場全員が拍手した。
生徒会長は感動で動けなくなったのか、二人の生徒につきそわれ壇上を降りた。
俺たちも、その後に続く。
生徒が立ちならぶ間を一行が進む。
鳴りやまない拍手の中を俺たちは、出口に向かった。
そこで待っていた林先生と一人一人握手する。
「シロー、また来てくれよ」
「ええ、大きな仕事に取りかかるので、すぐには無理ですが、また来ますよ」
「世話になったな」
「ははは、お安い御用です」
体育館の出口で、点収納に入れてあったバスケットボールを取りだし、それをコルナに渡した。
何も言わなくてもピーンときたコルナは、それを片手で持ち、ひょいと投げた。
ボールは、綺麗な放物線を描き飛んでいく。
俺たちはその結果も見ず、体育館から外に出る。
ちょうど俺たち全員が外に出た時、体育館から歓声が上がった。
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