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第九章 異世界訪問編

第24話 会見と動物園2

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 俺たちが泊まったホテルには、二つ寝室が付いているスイートと、三つ寝室がついているスイートがあり、合計五部屋だった。

 ルルと子供たち二人、コルナとコリーダ、俺とポルに分かれる。リーヴァスさんは一人部屋。
 エミリーと翔太が泊る部屋に、ミミとポルが護衛としてつく。二人は補助ベッドだ。

 二日目の夜は、俺とポルたちが護衛を交代する予定だ。
 次の日は、朝から遊園地へ行った。
 ナルとメルが喜ぶだろうと思ったが、どうも反応が薄い。

 俺たちは、早めに切りあげ、湘南海岸に向かった。
 まだ、梅雨前なのに、海にはたくさんのサーファーがいる。

 俺たちは、ショップでウエットスーツを購入した。
 海岸でボードを出すと、ナルとメルが飛びあがって喜ぶ。

 二人は、コルナの後ろについて、さっそく海の上を滑っていく。
 サーファーたちが、口をあんぐり開けている。

 それはそうだよね。俺たちのボードは、十センチくらい水の上に浮いているから。

 コルナが、自由自在に海上を滑りだすと、周囲から拍手が上がる。
 ナルとメルが、その後に続くと驚きの声が上がる。

 俺は、首にかけていたペンダントを外した。

「ボードモード」

 ペンダントが、ボード型に変形する。
 近くにいた中学生くらいの少年が、驚きの声を上げた。

 俺は、ボードの操縦を点ちゃんに任せた。

『(^▽^)/ ひゃっほーっ!』

 点ちゃんが、広い海を自由に疾走する。
 かつて楽しめなかった俺も、今回は十分に楽しめた。
 点ちゃん、こっちのボードはどう?

『(・ω・)ノ□ うーん、ちょっと操縦は難しいけど、普通のボードの方が好きかも』

 そうか、次はそっちにしようね。

『(^▽^) やったー!』

 夕方から会見があるので、適当なところで海から上がる。

 ホテルの部屋に瞬間移動すると、俺たちはシャワーを浴び、塩気を流した。

 ◇

 俺が共有スペースに出てくると、テレビに昨日の動物園が映っていた。
 インタビューされた女性が、興奮した様子で話している。

「ほ、本当です。
 小学校二、三年生くらいの金髪の少女が二人、ライオンの背中に乗ったんです」

 次は、十歳くらいの男の子だ。

「ボク、二人がゾウさんに乗るところ見たよー」

 動物園の飼育係の人もインタビューに答えていた。

「私が見た時は、キリンに乗っていました」

 画面では、アンカーとアナウンサーが話している。

「そんなことが本当にあるんでしょうか?」

「うーん、どうなんだろう」

「もしかして、話題の異世界人かもしれませんよ」

「ははは、いくら何でもそれはないだろう」

 惜しいね。異世界人ではなくて、異世界竜なんだよね。

 後藤さんから念話が入ったので、俺は身なりを整えた仲間を連れ、会見場に跳んだ。

 ◇

 会見場は、前回と同じ部屋で、前の机には、すでに司会役をつとめる年配の男性と柳井さんが座っていた。
 俺たちの姿が突然現れたので、会場を埋めつくした報道関係者がざわついた。

「尻尾(しっぽ)が……」
「耳が……」

 そういったささやきが聞こえてくる。
 全員が席に着く。俺とルルの間には子供椅子があり、そこにナル、メルが座っている。

「では、早速始めさせていただきます」

 司会が柳井さんの方に合図をする。

「今回も、このように多くの報道関係者の方々に集まっていただき感謝します。
 また、伝統あるこの場で異世界からのお客様を紹介できて光栄に思います」

 柳井さんが流暢な英語で話す。

「では、手前から紹介していきます。
 まず、グレイル世界からのお客人、ミミさん、ポルさん、そしてコルナさんです」

 会場からは割れんばかりの拍手が起こる。

「続きまして、エルファリア世界から、コリーダさんです」

 コリーダが立ちあがり、礼をする。
 洗練された王族の所作と容姿の美しさは、会場の人々にため息をつかせた。

「そして、パンゲア世界アリスト国から、ルルさん、ナルさん、メルさん、リーヴァスさんです」

 再び拍手が上がる。

「最後に、我が『異世界通信社』並びに『ポンポコ商会』のリーダー、シローさんです」

 なぜが場がシーンとする。
 司会役が、再びマイクに向かって話す。

「最初にシローさんから一言あるようです。
 その後は前回同様、質問形式で会見を進めます。
 では、シローさん、お願いします」

「皆さん、お久しぶりです。
 今回は、俺の家族並びに関係者を連れてきました。
 この場にはいませんが、アルカデミアという科学が進んだ世界から研究者を二人連れてきています。
 彼らや、アフリカにある「エミリー研究所」の職員も俺の仲間です」

 俺はマイクを置いた。

「あ、あの、それでよろしいですか?」

 司会役が怪訝な顔をしている。
 報道関係者には、俺が何をしたか分かるまい。
 俺の関係者だと表明した時点で、彼らに危害を加える国や団体は処分の対象になる。
 つまり、俺がおこなった発言は、各国首脳向けのものだ。

「それでは、質問をお受けします」

 柳井さんが、司会のフォローをする。

「アメリカの〇〇〇ニュースです。
 そのー、うかがいにくいことですが、その尻尾や耳は本物ですか?」

 俺がポルに合図する。
 ポルが発言した白人男性を前に呼ぶ。
 白人男性は、ポルの耳や尻尾をしばらく触っていた。

「ほ、本物です。
 間違いありません」

 会場から歓声が上がる。

「イギリスの〇〇〇です。
 そちらの方は、もしかしてエルフという種族ですか?」

「ええ、私はエルフです」

 コリーダが、はっきりした声で答える。
 再び歓声が上がる。

「カナダの〇〇〇です。
 今回はお二人のお子様がいますが、どなたかのご家族ですか?」

「はい、私とシローの娘です」

 ルルが、明瞭な口調で答える。

「えっ? 
 でも、坊野さんは、まだ十八才では?」

「質問は一社一つです。
 それとその質問に対する答えはノーコメントです」

 柳井さんが、早速フォローする。

「オーストラリアの〇〇ニュースです。
 三つの世界の方々が、ここに集まっているということですが、どうやって異世界を行ききするのですか?」

「ポータルを使います。
 あと、その質問は、すでに過去に答えているものです」

 俺が、やや低い声で言うと、質問者のおじさんは震えあがった。
 なんか、俺、怖がられてないか?

「中国の〇〇〇通信です。
 『枯れクズ』の研究所を設立されたそうですが、どのような目標があるのでしょうか」

「事前に連絡してあります通り、『枯れクズ』についての質問には答えられません。
 次の方」

 柳井さんの仕切りは、相変わらず頼もしい。

「フリーランスの〇〇です。
 今回地球に来られた目的は?」

 これには俺が答える。

「一つは研究員の交換派遣、もう一つは、留学生の受けいれです」

「留学生?」

 柳井さんが俺の方を見る。二つ目の質問を許すかどうかの確認だ。俺は頷いた。

「地球世界から異世界への留学です」

「だ、誰が留学を?」

 再び柳井さんが俺を見る。
 俺は首を左右に振った。

「その質問はお受けできません。
 次の方」

 柳井さんの淡々とした声が、会場に響く。

「東京〇〇新聞です。
 ウチは前回の会見に参加していません。
 また、カバンの中から品物を浮かすのをやってもらえませんか」

 俺は首を左右に振る。
 柳井さんが、記者に突っこむ。

「前回参加しなかったのは、そちらの都合です。
 こちらがそれに合わせる必要はありませんね?」

「ま、まあ、そうなのですが」

 会場から、失笑が湧く。
 俺は、質問者の若い男性が気の毒になり、少し助けてやろうという気になった。
 質問者の体が、宙に浮く。

「あっ、あああっ!」

 彼が空中で手足をばたつかせたので、会場が爆笑に包まれた。
 かえって可哀そうなことしちゃったな。
 俺は彼をそっと椅子に降ろしてやった。
 後で、何か情報を渡してやろう。

 司会の人がマイクを握る。

「では、次が最後です」

 鋭い目つきの、白人男性が立ちあがる。

「アメリカの〇〇〇ポストです。
 異世界の住人が、この世界を侵略する恐れはありませんか?」

 ざわついていた会場が、シーンとなる。

「ええと、あなたお名前は?」

 俺が尋ねる。

「ジョニーですが」

「ジョニーさんは、アメリカからここに来ているんですよね」

「はい、そうです」

「アメリカがこの国を侵略する恐れはありませんか?」

「……」

「まあ、そういうことです。
 異世界の人々には、地球人と同じように喜怒哀楽も人情もあります。
 その証拠を、ご覧に入れましょう」

 俺は、コリーダに合図をする。
 彼女は、一瞬で光沢がある黒いヴェールを身にまとった。
 そして、立ちあがると、多言語理解の指輪を外し、会見用テーブルの前に出た。

 彼女のオーラが会場を圧倒する。
 照明が暗くなると、彼女のアカペラが始まった。

 俺が一度聞いたことがある、エルフの鎮魂歌だ。
 静かに始まり、静かに高まる歌声は、会場のにいた人々の心を揺さぶった。
 自分が知らない言語なのにそれぞれの心に、自分が失った大切な人の姿が現れる。
 いつの間にか、皆の頬を涙がつたっている。

 コリーダの声が静かに消えさっても、誰一人動こうとしない。
 仕方なく俺が手を叩いた。
 最初まばらだった拍手が、次第に大きくなり、会場を揺るがすほどになった。

「ブラボー!」
「素晴らしい!」
「歌姫!」

 やっと、話ができるほどになったので、先ほどの男性に話しかける。

「ジョニーさん、これでも侵略を心配されますか?」

「いえ、失礼な事を言い、申しわけありませんでした。
 それより、素晴らしい声を披露してくれた歌姫を食事に誘いたいのですが」

 これには、コリーダが答えた。

「私は、シローの妻です」

「「「ええっ!」」」

 会場の男性から、驚きの声が上がる。

「でも、彼の奥さんは、ルルさんでは?」
「あの女の子は、コリーダさんの子供?」
「いったい、どういう関係なんだ」

 収拾がつかなくなったので、司会が場を閉めようとする。

「では、会見はここで終了です。
 異世界からの皆様、ありがとうございました」

 俺たちは、立ちあがると、会場の外に出た。
 俺は、仲間が会見場から外に出たのを見計らい、カフェ『ホワイトローズ』に全員を瞬間移動させた。
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