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第九章 異世界訪問編

第22話 地球にて

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 俺たちが、転移したのは、故郷の町郊外に作った『地球の家』の中庭だった。

 上から見ると、ロの字型の建物なので、転移した俺たちの姿は、外から見えない。

 アリストは、昼前だったが、地球は夜だった。
 月明かりがあったので、そのまま建物の中に入る。
 とりあえず皆にくつろいでもらおうと、大きな応接室に通す。

 俺は、邸内の要所要所に『枯れクズ』を置いていった。
 この邸内の明りは全て『枯れクズ』でまかなう。

「おじさん、おばさん、せっかくですから、温泉風呂に入ってください」

「おや、史郎君、そんないいものがあるのかい?」

 加藤のおばさんが、まんまるな顔を輝かせる。

「ええ、加藤君や舞子さんも好きですよ。
 ぜひ、入ってくださいね」

「じゃ、お言葉に甘えようかな」

 渡辺のおじさんも、興味を持ったようだ。

「お風呂から出たら、俺が送っていきますから」

「悪いわね、史郎君」

 ヒロ姉が、珍しく殊勝な事を言う。

 加藤のおばさん、渡辺のおばさん、ヒロ姉が先に入浴する。

 俺は、旅行の話で盛りあがる帰還組にお茶やお菓子を出していた。

「リーダー、こちらの世界にも、月があるんだね」

 ミミが話しかけてくる。
 透明なシールドをはめ込んだ窓からは、満月が見えている。

「ああ、一つだけだけどね。
 グレイルやパンゲアに比べると、大きい月だろ」

「そうね。
 だけど、あの月についてる模様って何?」

 さすがミミは、獣人らしい目の良さで、月に刻まれた、ポンポコマークに気づいたようだ。

「あー、あれね。
 俺が点ちゃんと実験してて、つけちゃったんだよね」

「えっ! 
 あれって、ボーさんがやったの?」

 翔太が驚いている。

「ああ、残念ながらね」

「いつもポンポコマークが見えるから、いい宣伝になりますね」

 ポルは、暢気(のんき)なものだ。

「はー、お兄ちゃんは、どこにいても、なんか凄いことやってるね」

 コルナが呆れている。

 俺は、加藤夫妻、ヒロ姉、渡辺夫妻をそれぞれの家に送ると、入浴してからぐっすり寝た。

 ◇

 地球へ転移した翌日、俺は翔太とエミリーを連れ、瀬戸内海に面した港湾都市に来ていた。

 畑山家を訪れるためだ。
 その間、『地球の家』では、『異世界通信社』の柳井さんが、みんなに地球の常識を教えているはずだ。
 本当はヒロ姉に頼みたかったんだけど、彼女だと非常識を教えそうだからね。
 柳井さんは、エルフや獣人に少し驚いたが、すでに話には聞いていたから、すんなりみんなと打ちとけていた。

 畑山邸には、庭からではなく、正面玄関からお邪魔する。
 そういえば、畑山家に玄関から入るのって、今日が初めてだ。

 いつもの大広間に通される。床の間には、相変わらず、かつて俺が上を歩いたテーブルが飾ってあった。

「お久しぶりです」

「シローの兄貴も、お久しぶりで」

 畑山のおやじさんが、太い声で挨拶する。
 翔太は、さっそく父親の膝に座っている。

「翔太が、ずい分世話になりやした」

「いえ、そんなことはありませんよ」

 俺は、横に控えていた黒服の面々に、別室に下がってもらう。

 エミリー、翔太、俺、おやじさんの四人になったところで、畑山さんからの動画メッセージを流す。
 畑山さんは、城内にある噴水の横に立っており、横にはウサ子がいる。

『父さん、母さん、お元気ですか。
 アリスト国は、平穏無事です』

 本当は、危うく隣国が攻めこむところだったんだけどね。
 畑山さんの声が続く。

『今回、エミリーと翔太がこちらに来た時に、大変なお役目に覚醒したの。
 詳しくは、ボーから聞いてちょうだい。
 軽々しく外部に漏らせることではないから、くれぐれも気をつけてね』

 そこから、家族内の話をして動画は切れた。

「兄貴、大変なお役目ってえと?」

 俺は、畑山のおやじさんにエミリーと翔太の役割を話した。
 エミリーが、世界群を救うかもしれないこと、翔太がその『守り手』であること。
 そして、翔太が魔術を暴走させないためにも、彼を魔術学校に通わせるべきであること。

 おやじさんは、少しの間、腕を組み、目を閉じて考えていた。

「世界群の危機ってえ話ですが、それにこの世界は含まれているんで?」

「ええ、まず、間違いなく含まれています」

「そうですか。
 翔太、おめえ、ボーさんについて行くか?」

「うん、行きたい」

「そうか……おめえが、ボーさんに命を救ってもらったってのも、ご縁があったってことだろう。
 兄貴、こいつをよろしく頼みやす」

 おやじさんが、頭を下げる。

「頭を上げてください。
 彼の助けが無いと困るのは、こちらなんですから」

「翔太、この嬢ちゃんを守ってやれ」

「うん、ボクが守る!」

 翔太は、父親の膝から立ちあがると、きっぱりと言った。
 エミリーが、赤くなっている。
 彼女は多言語理解の指輪を着けたままだから、日本語通じちゃうんだよね。

 その後、おやじさんが昼食に誘ってくれたが、エミリーを送る都合で、今回は遠慮させてもらった。

 俺は、エミリーと翔太を連れ、ニューヨークのハーディ邸に瞬間移動した。

 ◇

 転移した所は、エミリーが草花を育てているサニールームだ。

 念話しておいたので、ハーディ卿がすでに待っていた。
 エミリーは、すぐに父親の胸に飛びこんだ。

「ああ! 
 エミリー、お前、見えるんだね!」

 エミリーは、父親に抱かれ、声も無い。
 二人が落ちついたので、説明をする。

「今回は、向こうの世界で、彼女の目を治すことができました」

 舞子が治したことは、秘密にすると『初めの四人』で決めてある。
 エミリーにも、そう言いふくめてある。

 でっかいハーディ卿の手が、俺の手をがっしと握る。

「シローさん、本当に、本当に感謝する」

「それが、ハーディ卿、彼女は俺たちと、元々縁があったようです」

 俺は、聖樹様から聞いた話をした。

「エ、エミリーが、『聖樹の巫女』ということですね」

「そうです。
 そして、ポータルズ世界群を救える、おそらく唯一の存在です」

「な、なぜそんなことに……」

「俺にも、運命だとしか言いようがありません」

 しばらく、ハーディ卿は絶句してしまった。

「せっかく、目が治ったというのに……」

「お父様。
 私、『聖樹の巫女』のお役目が、ちっとも嫌じゃないの。
 むしろ、嬉しいくらい。
 神樹さんとも話せるし、弱ったお花や草も、助けられるし」

 彼女は、そう言うと、一つの植木鉢に近づいた。
 そこには、雑草だろう、しなびかけた草が植えてあった。

 エミリーが、その草に触れると、手と草がぼんやり輝いた。
 輝きが消えた時、草は元気よくピンとと立っていた。
 ハーディ卿は、目を丸くしている。

「ね、こういうことなの。
 それに、私はこんな力が欲しかったんだ」

 俺は、翔太を前に出す。

「ハーディ卿、こちらは、翔太です。
 彼はエミリーの『守り手』に選ばれました」

「えっ? 
 でも、こんな小さな子が……」

「翔太、ハーディ卿に、君の力を見せてあげてくれるかな?」
 
「うん、いいよ。
 でも、この部屋じゃ狭いから、外でやってもいい?」

「ああ、そうしよう」

 俺と翔太は、ドアを開け外へ出る。この部屋は二階にあるが、外階段で庭に降りられるからね。

 外に出ると、春先に来た時、寒かったニューヨークも、あたたかな春の気配が感じられるようになっていた。

 翔太が、背筋を伸ばし、広い庭のまん中に立つ。彼の自信が伝わってくる。
 彼が呪文を詠唱すると、地面から槍のように土の塔が伸びた。
 アッという間に、ビル五階分くらいの高さになる。

『(*'▽')人 プリンス、ぱねー』

 いや、点ちゃんの言うとおり。これほど凄いとはね。
 ピエロッティが、魔術学園をすすめたのも頷ける。

 翔太が再び呪文を唱えると、塔はあっという間に縮んで消えた。

「翔太、本当に頑張ったんだね、偉いぞ」

 翔太は、照れくさそうな笑顔だ。
 気がつくと、ハーディ卿が俺たちの後ろにいた。

「ショータ、君、凄いな」

「ありがとうございます]

「翔太の魔術、初めて見た。
 かっこいいね」

 エミリーに褒められ、翔太がまっ赤になっている。

「彼が娘を守ってくれるのは、頼もしいですね。
 でも、本当に娘がその役目を担う必要があるのでしょうか?」

 彼の疑問も、当然だ。
 大体、『守り手』の存在そのものが、『聖樹の巫女』としての危険を意味しているからね。
 危険があるからこそ、守る必要があるわけだから。

「そのことについては、食事の後で。
 彼を待たせてもいけませんし」

 俺は、エミリーとハーディ卿が着替えるのを待ち、ニューヨークからワシントンの、ある建物に瞬間移動した。
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