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第九章 異世界訪問編

第21話 家族とともに地球世界へ

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 俺が家の庭に現れたのを最初に見つけたのは、メルだった。

「あっ! パーパだ」

 彼女はあっという間に俺に飛びついてきた。すぐにナルも続く。

「二人ともいい子にしてたかな」

「してたよ」
「いい子にしてたー」

 俺は二人の頭を撫でてやると、点収納から蜂蜜のビンを出した。

「はい、これ。
 お土産だよ」

「うわー、蜂蜜だー!」
「甘いのー」

 騒ぎを聞きつけ、ルル、コルナ、コリーダが現れる。

「シロー、お帰りなさい」
「お兄ちゃん、おかえりー」
「お帰り」

 俺は、三人とそれぞれハグをした。

「帰ってきて早々悪いけど、今日は大事な話があるから、家族会議をしよう」

「分かったわ。
 夕食の後でいいですか、シロー」

「ああ、ルル。
 それでいいよ。
 リーヴァスさんは、家にいるかな?」

「もうすぐギルドからマックさんと帰ってくる予定です」

「ちょうどいいな。
 話はマックさんにも聞いてもらおう」

 帰ってすぐに深刻な事態を家族に話さなければいけない事に、俺は気持ちが重くなるのだった。

 ◇

 デロリンの得意料理を楽しんだ後、家族に旅行中の出来事を話すことにした。

 ナルとメルは、子供部屋で寝かせてある。
 デロリンとチョイスも彼らの部屋で待たせている。

「シロー、どんなお話ですか?」

「ああ、ルル、かなり深刻な話になるから、そのつもりで聞いてほしい」

「お兄ちゃん、何か怖いんだけど」

「怖いか怖くないかは、聞いてから考えるといいよ」

「私たちは、大丈夫よ。
 シロー、話して」

「OK、コリーダ。
 じゃ、話すよ」

 俺は、聖樹様との対話について話した。

「なるほど、世界群の危機ですか。
 シローは、どんなものを考えているのかな?」

 リーヴァスさんは、いつになく緊張した面持ちだ。

 俺は、一息ついてから、自分の予想を話した。

「ポータルズ世界群の消滅……」

 さすがのリーヴァスさんも言葉を失う。
 ルル、コルナ、コリーダは、蒼白になっている。
 剛毅なマックまで顔が青くなっている。

「だけど、今回の旅で、希望も生まれたんだ。
 ポータルズ世界群を安定させるために必要なのが、神樹様の存在らしいんだ」

 俺は、家族の顔を見回す。

「そして、エミリーは、神樹様にお力を与えたり、治癒する能力がある。
 すでに、学園都市世界で、こんなことがあったよ」

 神樹メアリー様の話を聞かせる。

「エミリーは、もの凄く大事な存在ってことだね」

 コルナが、何か考えるように言う。

「そうだよ」

「でも、そんな存在なら、みんなで守らないといけないんじゃない?」

「そうなんだが、今はお城にいるし、翔太もついてるからね」

「ショータが、彼女を守れるの?」

 コリーダは不安そうだ。
 今、エミリーはアリスト城にいるし、点ちゃんが警戒しているから大丈夫なんだけどね。
 いざとなったら、いつでも瞬間移動で呼びよせるよう用意してある。

「翔太はね、『聖樹の巫女』の『守り手』らしいんだ、聖樹様によると。
 実際、彼は魔術師として、類まれな才能を示している。
 ピエロッティさんによると、翔太は伝説の魔術師ヴォーモーンの再来だそうだ」

「「「ええっ!」」」

 ルル、コルナ、コリーダが驚く。
 彼女たちはヴォーモーンについて知っているんだね。

「そりゃ、凄え。
 そんなら確かに『守り手』としてふさわしいな」

 マックが、何度も頷いている。

「それで、シロー、これからどうしますかな?」

 さすがに、リーヴァスさんは、すでに落ちついている。

「一度、俺がやってきた世界、地球に行くつもりです。
 加藤と舞子の家族も送っていく必要がありますから。
 翔太とエミリーも、一度向こうに帰します」

「シロー、世界の危機は大丈夫でしょうか?」

「ああ、ルル。
 地球世界でも神樹を探すつもりなんだ。
 だから、無駄にはならないよ。
 それより、ギルド本部から神樹様の調査と保護という指名依頼を受けたんだよ。
 皆に異存がなければ、パーティで地球に行こうと思うんだ」

「そうですな。
 指名依頼があるなら、そうすべきでしょう。
 エミリーの護衛もできますし」

 リーヴァスさんは乗り気だ。

「私は、一緒に行くわ」

 コリーダが、きっぱりとした口調で言う。

「私もお兄ちゃんの世界が見てみたいな」

 コルナも賛成だ。

「シロー、ナルとメルも連れていきたいのですが……」

 ルルは、自分が行く前提で話をしているな。

「今回は、ナルとメルも連れていくつもりだよ」

「よかった! 
 さっそくいろいろ準備しないと」

 地球の文化に興味をもっているルルは興奮を隠しきれないようだ。

「出発は、いつにしますかな?」

「ああ、リーヴァスさん、女王陛下からの依頼で『枯れクズ』の研究所を作るつもりですから、それが終わって、ミミとポルが合流してからになります」

「分かりました。
 そうなると、それほど日にちはありませんな。
 ルルが言うように、急いで準備しましょう」

「よろしくお願いします。
 デロリンとチョイスには、俺から留守を頼んでおきます」

「おう、家の事は、ワシに任せとけ」

 マックが自分の分厚い胸をドンと叩く。
 こうして、俺たちは、それぞれが地球世界へ向かう準備を始めた。

 ◇

 バタバタと準備に追われているうち、一週間が過ぎた。

 その間、俺は古い教会の敷地を使い、魔術研究所を造った。
 この教会は、かつて俺とピエロッティが対決した、思い出深い場所だ。
 地下二階、地上二階の建物を造る。
 一階ずつの床面積をかなり大きくとった。

 ミミとポルが、キャロ、フィロさん、舞子とその両親を護衛してアリストに着いた。
 二人にも、聖樹様との対話と地球行きについて話をする。

 ミミとポルも、ぜひ行ってみたいということなので、最終的な地球行きのメンバーが決まった。

 パーティ・ポンポコリンと俺の家族からは、ルル、コルナ、コリーダ、ナル、メル、リーヴァスさん、ミミ、ポル。
 もちろん、白猫ブラン、黒猫ノワールも行く。コリーダのたっての希望で、猪っ子コリンも連れていく。
 家族関係は、エミリー、翔太、ヒロ姉、加藤夫妻、渡辺夫妻だ。

 これに、研究者として地球を訪れる、ジョイとステファンが加わる。

 数えてみると、俺を入れ、十八人と三匹という大所帯だ。

 俺も、これだけの人数でセルフポータルを渡るのは初めてなので、少し緊張している。
 ただ、点ちゃんによると、ポータルが開いてしまえば、人数は問題ないということだ。

 キャロ、加藤、畑山さんに念話を飛ばし、出発を伝える。
 キャロからは、励ましの言葉をもらい、加藤と畑山さんからは、お土産を頼まれる。
 しかし、加藤の「米1t」ってどうかね。
 点収納があるからまあいいけど。

 準備が整った地球行きのメンバーは、ウチの庭に集まった。
 みんな、ほとんど手ぶらで、荷物のほとんどは、マジックバッグか俺の点収納にしまってある。

 セルフポータルの秘密を守るため、見送りは無い。
 デロリンとチョイスは、お使いに出してある。

 周りをしっかり黒いシールドで覆い、ヒロ姉のような不届き者がポータルの靄に触れないようにした。
 少し時間が経ってからシールドが消えるよう設定してある。

 俺がブラン、ルルがノワールを肩に乗せる。
 コリーダが、コリンを胸に抱えた。

「じゃ、ポータルを開くよ」

 俺は、地球へのセルフポータルを開いた。
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